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第2話 デバフ

 俺とフライズは一言も発することなく、保健室に入った。白魔法に関してはルカン以上に知識があるであろうセリューノ先生が俺を見るなり瞳を大きく揺らした。


「ちょっと、何があったの⁉︎ とりあえず座って!」

「え、え?」


 何が何だか分からなかった。セリューノ先生は俺を強引にソファに座らせるし。

 四肢がバラバラになったわけでもないし、どこも出血さえしていない。

 それなのに、なんでこんなに慌ててるんだ?


「はい、どれか魔法使って!」

「へ?」


 魔導書を開くなり、俺に魔法を使ってみろと言ってくる。ますます意味が分からない。魔導書に載ってる程度の魔法なら、どれでも使えるってのに……。


「じゃあ……(メル)・コルレイ」


 雨を降らす魔法。ルカンの生徒でも扱えるやつは少ない魔法だ。ま、俺は使え……あれ?


「な、なんでだよ。魔力はちゃんと使ってるぞ⁉︎」


 たしかに魔力を引き出して、魔導書に載せられている魔法陣へと送り込んでる。

 それなのに、魔導書が俺の魔力を拒否している。


「ど、どういうことだよこれ……?」

「いわゆる、デバフね。何やったの?」


 俺はフライズと目を合わせようとした。だが、コイツときたら床しか見てねぇし……。


「魔法で失敗しちゃって。自作魔法だったんですけど……」

「自作魔法で失敗ですって⁉︎ あなた、何やったか自覚しているの⁉︎」


 さっきよりも更に巻き舌になりながら、普段は温厚なセリューノ先生が俺に対して眉間に皺を寄せている。

 自作魔法で失敗するのって、そんなに危ないのか?


「……ハァ。今からあたしが言うこと。現実よ、受け入れなさい」

「は、はい……?」


 俺は依然として理解していなかった。

 だから、セリューノ先生がこれから口にする言葉への覚悟なんて、何もしていなかった。


「あなたは、死ぬまで魔導書から拒まれるわ」

「……それって……」

「っ、なんとかできねぇのか⁉︎」


 さっきまで床しか見ていなかったフライズの目が、キッとセリューノ先生を睨んでいた。


「できるなら、こんなこと言うわけないでしょう」

「……そしたら俺……俺……! どうすりゃ良いんだよ! アスカの大好きなもん、奪っちまった……!」


 フライズがこんなこと言うなんてな。でも、魔導書から拒まれるってことは……なんだ、意外に面白そうじゃん。

 今の今まで、魔導書にない魔法を目指してたんだ。へこたれるどころか、むしろ好都合だっての。


「フライズ、考えすぎ」

「は……?」


 俺、なんだかんだでルカンの生徒だったんだな。こんなにも魔法の道が絶たれそうなのに、笑っていられるなんてさ。

 ルカンのやつら以上に、俺ってヤバいやつらしい。


「魔導書にない魔法、作れば良いんだろ?」

「……まったく。ルカンの子って、ほんと変わり者ね」

「俺の気持ち、返しやがれ〜!」


 フライズときたら、子供みたいにポカポカと俺のこと叩いてくる。

 こんなやつでも、心配してくれるとは思ってもみなかったな。てっきり、ライバルが消えて喜ぶかと思った。


「……あっ。アスカードくん、あの件、やめる?」

「あの件……あの件ってなんですか?」

「おまっ、まさか読んでねぇのか⁉︎」


 読んでないって、何をだ? 何か配られたっけか……。夏休みの課題はなんとか終わったし、読みものなんてなかったはずだが……。


「モンスター凶暴化の調査団の協力要請よ、夏休み中に全生徒に配ったはずだけど……」

「そういえば、ポスト全然見てなかった……」

「てことは……サインもしてないってことか⁉︎」


 サインしなきゃどうなるんだ? 別に見てないってことで何の影響もないと思うんだが……。

 この2人の反応を見るに、何かあるんだよな、きっと。


「あれ、調査団加入についての用紙なんだけど……サインしないと、加入よ?」

「俺はサインしたが……未記入とか未提出者は容赦なく加入だぜ⁉︎」

「は……はぁぁぁぁぁ⁉︎」


 おいおい、ってことは俺って……。加入扱いってわけか⁉︎ どうすんだよ、自作魔法なんて、自由研究で作ったやつと、使い道のない失敗作だけだぞ。


「……まだ提出してなくて良かったぜ」

「へ?」


 フライズ、カバンから用紙を出して何する気だ?


「少しは責任取らせてもらうぜ。それに、ファミリアではトップの俺だ、問題ねぇだろ!」

「おまっ、まさか……!」


 覚悟を決めたコイツには、何を言っても止まりはしない。それは俺がよく知ってる。

 仕方ない、自分で決めたことだ。それに口出しするだけ無駄ってものだ。


「よし、できたぜ! 俺も加入だ!」

「……分かったわ。あなたの選択だもの。ただ、ルカン以外の生徒での加入はあなただけよ?」

「……ん? それって、まさか……」


 考えたくないが、まさかルカンの生徒は加入するってことか? セリューノ先生の言い方的に、ルカンのやつらの一部は加入してるってことじゃねぇか。ヴァイオとかガリアなら良いけどよ。ラスカールまでいるなら、断固拒否なんだが……。


「えぇ、アスカードくんの予想通り、ルカンの何人かも加入よ。ヴァイオくんとガリアさんと……」

「あ、あの! ラスカールは……」

「アイツは入ってるぜ。てか、元々調査団のひとりだろ」


 あ……。そうだ、そうだった。ラスカールは、調査団をやりながらルカンに通ってるんだったわ……。

 なるべく会わないようにすれば、なんとかなるか。


「ハァ〜……」

「ま、俺がいればなんとかなるだろ!」


 元はと言えば、お前が変なイタズラしなきゃ済んだことなんだがな……。

 そんなこと言っても、起きてしまった以上は受け入れるしかないよな。それに、やりたいことに集中できるし、怪我の功名だ。


「まあ、そういうことだ。今回に懲りて、もうイタズラすんなよ」

「へーいへい、ほどほどにしとく」

「……で、話してくれるかしら? 何があったか」


 話しても良いけどな……。フライズがまた変になっても困るし、俺から語るのはやめておくか。


「俺が、アスカの詠唱邪魔して……失敗したら、こんなことに」

「な、何ですって⁉︎ (セリオ)・ダウリーム!」


 俺たちの間で何があったかを知った途端、セリューノ先生は目の色を変えて、魔法でフライズを眠らせてしまった。


「え……?」

「悪いけど、校則違反よ。しかも、謹慎どころじゃないわ。退学……いいえ、校則どころか法律違反だもの」


 うっ……。魔法で迷惑をかけるのはたしかに法律違反だ。でも、俺は気にしてない。それだけじゃない、嬉しかった。研究に割ける時間ができたくらいだ。


「セリューノ先生、気持ちは嬉しいけど……フライズのこと、許してください。俺も気にしてないし」

「……まったく。ルカンの生徒ってことね。分かったわ、好きになさい」


 ふぅ……。俺にとっては、魔導書よりもフライズのほうがずっと大事だっての。本人の前では言えねぇけどさ。

 初めてできた、友達だったしな。庇いたくもなるっての。


「それじゃあ、色々迷惑かけました。では」


 俺はフライズを引きずりながら帰路を歩く。

 もちろんだが、今まで使えてた魔法が使えないのは不安でもある。でもその不安を引きずり回すような俺じゃない。

 だって実在したんだ。魔導書がなくても、魔法が使えるって証明してくれた憧れがな。マクディルに近づけるなら、こんな犠牲くらい軽いもんだ!

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