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プロローグ

 

「……大丈夫、きっと上手くいくはず。」


 

何度も目にしていつの間にか見慣れてしまった扉の前で決意を固めた私は、コンコンとドアを軽くノックする。

すると、すぐに中から「どうぞ」と許可を出す大好きな人の声が聞こえてきたことで、私の胸は無意識のうちに高鳴った。


ふわぁ、今日も今日とてイケボだ。


扉越しでこれだけ美声なのだから、生の声はさぞかし素晴らしいものなのだろうな、と想像を膨らませたところでハッと我に帰えった。


……って、ダメダメ。今日は何がなんでも流されないようにしないといけないんだから!


脳内がかっこいいで埋め尽くされそうになった私は、その考えを払うように首を振り、昂った気持ちを落ち着かせる為に大きく深呼吸をした後、ノブを回して部屋の中へと歩みを進めた。


「失礼します」と呟くように言って部屋に入ると、デスクで書類整理をしている男性——紺色の艶やかな髪にサファイアのような美しい瞳を持つ、もの凄く顔の整ったイケメン——が目に飛び込んできた。

涼しげな表情で素早く書類に目を通していく姿は、まさに仕事ができる人!という雰囲気を醸し出していて、整った顔が更にその魅力を引き立てている。

 


「ルーナから来てくれるなんて嬉しいな。すぐにお茶を用意させるね。」

「あの、アレク様。本日はお話が——」

「うん、それなら尚更だよ。ほら、座って?」

「…………はい」


 

ぼぉっと少しの間見つめていると、訪問者が私だと気づいた部屋の主は真剣な表情を笑顔へと変え、眩いほどの青い瞳をふっと柔らかく細める。


……かっこいい!


彼のことがこの世で1番好きだと自負している私が、その表情にノックアウトされたのは言うまでもない。

本来なら心を許した相手にしか見せないその笑顔を間近で見れたことに感激しつつも、このままではまずいと本能は警報を鳴らしている。


これ以上、物理的にも精神的にも近づいてはダメ。


……そう頭ではわかっているのに、吸い寄せられるようにソファへと足が向かい、遂には腰掛けてしまった。


……うぅ、私のバカ。なんて意思が弱いの。


私が座ったのを確認した彼は、作業していた手を止めて隣に腰掛け、流れるように私の髪を掬ったかと思えば、次の瞬間には手にした束に優しくキスを落としていた。

 


「今日も私の姫は可愛いね。」



なんて台詞を添えられて、男性経験が乏しい私は、顔を真っ赤にして目を逸らす。

一方の彼はと言うと、私が赤面して固まったのに気を良くして、追い打ちをかけるかのように腰に手を回してきた。

 


「……!?」


 

流れるように抱きしめられて、感激と恐れ多さから体が震えてしまった。


近い近い近い。……推しが近すぎる!


 

「……それで、話があってきたんだよね?」


 

しばらく毛先を弄ばれた後、耳元で囁くように問いかけられた私は、ひゃいと令嬢らしからぬ返事を絞り出した。


耳に息がかかって……しかも低音ボイスで囁かれるとかどんなご褒美ですか!?もっと声を聞いてたい……って、危うく前回と同じ過ちを繰り返す所だった!


またもや脱線し掛けた私は邪念を払おうと首を振り、気合いを入れ直した。


今日こそはちゃんと伝えるの。……そう決めたんでしょ。


もう既にショートしかかった私は、これ以上近づかれる前に今日の目的を果たすために口を開いた。

 


「あの、婚約破——」

「それだけはできないって前にも言ったよね。他のお願いなら何でも聞いてあげるよ?……あぁそうだ、この前行きたいって言ってたカフェに行こうか。」

「っ、それはとても魅力的な提案……って、そうじゃなくてですね。婚や——」

「そっか、ルーナも私と行きたいと思ってくれていたんだね。」


 

「嬉しいよ」……そう言って微笑みかけてきた表情はもう国宝級で、私はその絵画のような光景を目に焼き付けるように見入ってしまった。


……って、また誤魔化されかけてる!


だけどすぐに正気を取り戻した私は、本来の目的を思い出し、慌てて粉々になった決意をかき集めた。

私が今日ここへきた目的、それは目の前にいる彼——アレクシス・アイデリック殿下に婚約を破棄してもらうことだ。


ちなみに今の所0勝5敗で完敗中である。

今回こそ白星を上げようと決意を固めてきたものの、結果はご覧の通り。否、まだ完全に負けが決まったわけではない。……敗北を認めるわけにはいかないのだ。


……時間もないし、すぐにでも決着をつけないといけないのに。


チラッと真横に座っている婚約者に目を向けると、とびきりの笑顔を向けられてしまった。


かっ……!(かっこよ過ぎる……!)


カウンターを食らった私は慌てて目を逸らし、飛び出そうな程うるさくなった心臓を落ち着かせるように胸へと手を移動させる。

ふぅ、と息をついて幾分か落ち着きを取り戻した私は、アレクシス様の宝石にも負けない綺麗な瞳を真っ直ぐに見つめた。

 


「私と婚約破棄して下さい。」


 

さっきは遮られてしまった言葉を、今度は早口で止められないように告げる。

途端に彼の口角は下がり、機嫌を害してしまったんだと悟らされた。

しかしすぐに黒い笑みを浮かべたアレクシス様に迫られそうになって、慌ててガードしようと両手を前に出して距離を取る様に見せると、彼はピタッと動きを止めてくれる。


 ……危なかった。これ以上近付かれなんかしたら、私の心臓がもたないもん。


だけど、ほっとしたのも束の間で、次に取られた行動によって、それが如何に無意味な抵抗だったのかを痛感させられることとなるのだった。

 


「……そんなに婚約破棄したいの?君の反応からしても、私のことが嫌いなわけではないよね。寧ろ——」

「どっ、どうしても婚約破棄したいのです!私はアレク様と別れ……ひゃっ!?」

「それ以上口にしたら、私は君が離れて行かないように何処かに閉じ込めてしまうかもしれないよ?」

「……!?」


 

別れたい——そう言葉にする前に、アレクシス様に距離を詰められ、その上防御の為に前に出していた手に指を絡められてしまった。……そう、所謂恋人繋ぎをされてしまったのだ。


……そして握られた手を彼の口元へと持っていかれ、見せつけるかのようにちゅ、と手の甲にキスまでされてしまう。

その色気に当てられた私は、刺激が強すぎて悲鳴のような声を上げて硬直した。

彼はチャンスと言わんばかりに僅かになっていた距離を縮め、耳に口を近づけて先程のトドメのセリフを口にする。


はぅ、耳が幸せ。じゃなくて、監禁宣言……、なんで…………どうして悪役令嬢(わたし)に……?


この言葉は本来、可愛らしいヒロインに贈られるもののはずだ。……原作には無いセリフだったけど。

決して悪役令嬢にではない。


……そもそもアレクシス様——隣国の第三王子——は、聖女を手に入れる為にこの国に来たはずなのに。

 


「……私は君の笑顔が好きだし、それが失われるようなことはしたくないって思ってる。だから、もう婚約を破棄したいなんて冗談でも口にしたらダメだよ?」

「で、ですが——」

「返事は?」

「…………………………ハイ」


 

結局、有無を言わさぬその口調に頷くことしかできなかった。

カンカンカンカンと試合終了の合図が遠くで聞こえた気がする。

完全敗北である。


そもそも嫌がる推しに無理を強いるなんてできるわけないじゃん!


……なんて言い訳をしてみたが、これは死活問題なのだ。文句なんて言っている暇はない。

 

…——私がここまで頑なに婚約破棄したい理由……それは、彼を死なせない為である。

 

……何故かって?

それは彼が攻略対象ではなく、近い将来に卑怯な手を使ってヒロインを手に入れようとする悪役王子だからだ。

悲しいことに、悪役の末路なんて残酷なものだと決まっている。

しかも彼は、兄以外のルート全てに登場し、登場したルートでは必ず死に至るという史上最悪の死亡フラグを持つ悪役王子なのだ。

 

だから……

 

悪役令嬢を揶揄う暇があるのなら、そのダダ漏れな色気を使ってヒロインを虜にしちゃって下さい!!

 

気がつけば心の中でそう叫んでいた。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

ゆっくり投稿ですが、見てくれると嬉しいです。

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