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訪問者


 おかみさんの勤務時間が短くなったことで、俺たちは店じまいを任されるようになった。シロが裏口の鍵をかけ、俺がお店側のシャッターをおろす。

 シャッターの鍵をかけていると声をかけられた。

「あの、お仕事中ごめんなさいね。ちょっといいかしら」

「はい、何でしょうか」

 返事をしながら顔を上げると、そこには初老の女性が立っていた。丁寧な口調とは裏腹に、表情や動作からは疲れや焦りが見られた。

「このポスターを見て来たのだけれど、猫ちゃんはまだこちらにいるのかしら」

 そう言って彼女は手に持っていた紙を見せてくれた。それはシロに会ったばかりのころに俺がかいたポスターだった。家や職場の近くに貼ったものははがしたが、まだ全部は処分していなかったことを思い出す。

「ああ、この猫ちゃんはもう飼い主が見つかっちゃったんですよ。迷子の白猫を探しているんですか?」

 ポスターには白猫の絵がかいてあった。猫姿のシロを探そうとする人間はいないはずなので、似たような白猫を探しているのだろう。とても大事にしていた猫ちゃんなのかもしれない。

「そうなの。白猫を探していて……。飼い主が見つかったのね」

 おばあさんはポスターを見つめて、小さなため息をついた。

 そのとき店の裏側からシロがやってきて、驚いたように大きな声を出した。

「ばあや!」

「坊っちゃん」

 おばあさんがそれに応えた。俺ははっとして彼女を見る。この人がシロがお世話になったというばあやなのか。

 

 俺たちはおばあさんを家に招いた。白猫のポスターを頼りにここまで来たならば、シロが獣人であることを知っているということだと思ったからだ。

 おばあさんはメアリーだと名乗った。

 家に着くとメアリーはシロの手をとり話しかけ、元気にやっていることを確かめると、何も言わずにいなくなったことを叱った。落ち着いた口調なのにとてもこわい。隣にいた俺まで冷や汗をかいた。

 お叱りの言葉が一段落したところで、俺はお茶を入れて二人に座るよう促した。


 お茶を一口飲むと、メアリーが話はじめた。

「これでよかったのかもしれません。クロさん、坊っちゃんと出会ってくだざりありがとうございます。実はずっと坊っちゃんに会ってくれる獣人の方を探していたのです」

 シロのお母さんは子供ができたことが分かったとき、メアリーに自分が獣人であることを打ち明けたらしい。

 そしてお城の膨大な蔵書の中から、獣人のまじないについて書かれた本を見つけ、一緒にまじないをかけられる人を探した。お城から自由に出入りできる機会はあまりなかったため、あちこち放浪していたメアリーの息子さんにお願いして見つけてもらったそうだ。まじない師になる者は獣人の身を守りたいという気持ちが強い。遠いところからお城に駆けつけてくれて、シロは無事に人の子としてお城で過ごすことができた。

 王様はシロのお母さんがなくなると、シロには興味を示さなくなった。しかしシロが外に出て、自分が使用人に手を出したことが世間に広まるとまずいので、部屋に閉じ込めるように命令した。

 メアリーはシロに自由になってほしいという思いから、病死を装い、猫の姿で脱出することを計画していたそうだ。しかしそのためには、シロが自由に変身できるように教えてくれたり、お城の外で身元を引き受けてくれる獣人の協力者が必要だった。息子と共に、協力者となってくれる人を探しているところだったらしい。

 だがシロがいなくなってしまった。あの高い塀に囲まれたお城から人がこっそり抜け出すのは難しい。何かの拍子に猫になってしまったのだろうと思い至った。元々部屋に閉じ込められていたので、お城の人々には体調を崩して大人しくしていると伝え、週に一回暇をもらってシロ、もしくは白猫を探し歩いていたという。

「終わりよければ全てよしということでしょうかねえ。私はお城に戻り、元々の計画通り坊っちゃんが病気で亡くなったと伝えます。どうかお元気で。クロさん、坊っちゃんのこと、くれぐれもよろしくお願いいたしますね」

 メアリーはほっとした顔をして、笑顔で帰って行った。

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