妹の話
「シロは王子様なのかもしれない」
妹のキラはまどろっこしいことはあまり好きではない。いきなり衝撃的なことをさらっと言ってしまった。びっくりしてシロを見ると、驚いた顔のシロと目が合った。
「この国の王様は人間で、もちろん王妃も王子も人間。人間は獣人はもう絶滅しただろうくらいに思っているし、昔奴隷として使われていたなごりで、獣人も王族には近寄らないんだけど。獣人の間ではこんなうわさがあるのよ。ある獣人がお城に所蔵されている本がどうしても読みたくて、使用人として入り込んだんだって。それがとっても綺麗な人だったらしくて、王様の目にとまった。とっても愛されて、王妃は良く思ってなかったみたい。だけど彼女、子供を産んですぐに体調を崩してなくなってしまったって。本当に綺麗な人だったみたいよ。髪はホワイトブロンド、瞳は水色だったって」
こんな話をいきなりするなんて。俺はキラをにらんだ。キラはかまわず話を続ける。
「で、獣人たちの間で一つとっても気がかりなことがあったの。獣人は獣の姿で生まれてくるでしょう。その使用人が獣人であることが、子供が生まれたときに王様にバレてしまったのではないかってことよ。獣人狩りでもはじまったらどうしようって戦々恐々としてたわけ。でも、しばらくたっても何も起こらなかった。王様は元々、王妃の子にも関心が薄い人だったから、その使用人もこっそり出産して、それきりだったんじゃないかってことになったみたい」
「あの、質問いいですか。王様にバレなかったというのは、それで説明がつくかもしれないけど、僕自身が獣人であることを知らなかったのはなんでなんだろう」
シロが質問したことにぎょっとする。落ち着いた口調が逆に心臓に悪い。大丈夫なんだろうか。使用人だったという女性の性格も容姿もシロにそっくりだ。急に両親が誰で、もうなくなってるなんて話を聞いたのに、冷静すぎやしないか。いっそのこと泣いてくれと思ってしまった。
「ナイス質問!それが私も気になって調べてたんだけど。獣人が人にまぎれてこっそり生活することを選び始めたときに、やっぱり赤ん坊を隠すのが大変だってなったらしいのね。どうにかしなくちゃって試行錯誤を重ねて……ほんと、おとぎ話みたいな話なんだけど、強制的に人型にしてしまって、しばらくそのまま獣にならないような、そんなまじないみないなものが生まれたそうなの。強制的に人型にするから、赤ん坊は熱を出すし、ときにはそのまま命を落としてしまうこともあったそうなんだけど、それくらい獣人たちが追い詰められていたってことなんでしょうね」
「僕もそのおまじないがかけられていたってこと?」
「たぶんね。もうそのまじないをかけられる人なんてほとんどいないから、シロを必死に守ってくれた人がいたってことでしょう。そのまじないは、獣の姿になる練習をする過程で解けたり、すごく強い感情によっていきなり解けてしまうって話だったわ。シロにとって、クロのしっぽがそれほど魅力的だったでことじゃないの」
バシッと腕を叩かれる。ニヤニヤしているキラにやられた。もう話もだいたい終わったようで、一気に空気がゆるくなった。叩かれた腕が地味に痛い。どいつもこいつも馬鹿力ばっかりだ。からかってくるキラにやり返していると、真面目な顔でシロが尋ねてきた。
「誰も探しに来ないってことは、僕、このまま、クロと一緒にいてもいいのかな」
身長のおかげで上目遣いだ。キラにむかついていた気持ちがパアアと晴れる。両手を広げてシロを抱きしめた。
「おうよっ。ずっと一緒にいような」
シロからも抱きしめ返されて最高に幸せである。
腕の中でシロがあくびをした。
「今日はもう疲れたよな。部屋にもどってチビたちと寝よう」
シロが子供部屋に戻っていくのを確認してから、俺はキラに話しかけた。
「情報集めてくれて本当にありがたいけど、シロには小出しにして、もうちょっとゆっくり話したほうがよかったんじゃないのか」
「クロがいるから大丈夫でしょ。私はできることやったから、あとはよろしくっ」
キラはバンっと俺の背中を叩いて、颯爽と去って行った。