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クロの妹


 俺が来たことに気づいたチビたちも後からわらわら廊下に出てきた。部屋に戻るように促して、自分も猫になると一緒にごろごろした。

 チビたちは、またすぐに寝てしまったり、一人で遊びはじめたり、こちらに近寄ってきたりいろいろだ。近寄ってきた子の毛づくろいをしてあげていたら、シロも合わせて順番待ちの列ができた。おチビの毛づくろいをしていると、シロが俺の毛づくろいをしてくれた。力が強いので体が揺れる。だんだん眠くなってくる。もうこのままひと眠りしようかと思っていると、部屋の扉が開く音がして、シロが顔を上げた。

「クロ来てるじゃん」

 妹のキラだった。妹といっても、おんなじ時に生まれたので同い年だ。綺麗なタキシード柄を見た母がキラキラの王子様みたい~と興奮し、そのまま名前はキラになったらしい。家に残って子育てを手伝う程なので面倒見はいいが、俺のようにかわいがるタイプではない。そして誰よりも情報通だ。先週の話し合いの際、父がキラにも協力してもらおうと言っていた。普段は俺に話しかけてくることがあまりないので、わざわざ声をかけてくるということは何か分かったことがあるのかもしれない。

 俺とシロは人型になってキラと話すことにした。


「今日ここに来る前にシロが言っていた塀を見てきたけどお城だったよ。シロ、王様に会ったことある?」

 まずは俺から今日の見てきたことを話して、シロに詳しい話を聞くことにする。

「お城?王様、会ったことないよ。本当にずっと、ばあやと二人きりだったんだ。部屋からは出るなって言われてて、たまに、食材を運んできてくれる人もいた。ばあやは何でも教えてくれたよ。部屋もすごい広くて、小さい頃は走り回って遊んだし、本もたくさんあってよかったんだけど。どうしても外に出たくて、こっそり部屋を抜け出したりもしてた。だいたい夜中だったし、人に見つかると部屋に戻されるから、隠れるのに必死で、あんまりあそこがどこかってことは考えてなかったな」

 王様どころか両親の顔さえ知らないのかもしれない。俺は暗くなりそうな気持ちをぐっと抑え、さらに尋ねた。

「でもはじめて会ったときは昼間だったよな?」

「塀に穴が開いているのを見つけたあと、夜中にのぞくと外真っ暗で何も見えなかったから、昼間にのぞきたくなって。僕が外に出たがっていたのはばあやも知っているから、昼間は目を離してくれないんだけど、大人しくしてるよって安心してもらって、ばあやに昼寝してもらうことに成功したんだ。それでこっそり出てきたんだよ。……でも今頃ばあや怒ってるかな」

 気まずそうな顔をしたシロを見て、ふっとキラが鼻で笑った。面白いやつだと思ってもらえたらしいぞ、と心の中でシロに言う。好奇心だけじゃなく、行動力まで飛びぬけている。

「あれ、クロと会ったときシロは猫の姿だったんでしょ?今まで猫になったことはあったの?」

「ないよ。……あのときは、塀の穴からクロのしっぽが揺れているのが見えて……、気づいたら猫になってて、猫になって数日は自分が人だったこともどうでもよくなってて、自分でもよく分からないんだよね」

 キラがシロのことを呼び捨てにしたことに気をとられる。この一週間で、チビたちだけでなく、キラとも打ち解けたようだ。

 ある日急に獣の姿になって獣人だと自覚する、なんて結構危ないんじゃないか。シロを見つけたのが同族の俺でよかったなと心の底から思う。何か知っているだろうかとキラを見ると、考えこんでいるようだった。少しして、憶測でしかないけど、と前置きして話し始めた。


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