再会
シロがどこから来たのか。シロにもよく分からないということだったが、塀を越えたら俺がいたというならば、行って確かめるのが早いだろう。明日は待ち望んだ休みだ。仕事が終わると、すぐにでもシロに会いに行きたい気持ちを抑えて、シロが言っていた塀が誰の家の塀なのか確認してみることにした。
こっそり偵察にいくようなものだから猫の方が都合がいいだろうと思い、実家に帰る用意を済ませてから猫になって出かけた。
はじめて出会った木にたどりつき、シロがやって来た方へと向かう。塀の内側から俺が見えたのならば、すぐに現れるだろうと思ったが、想像通りだった。なんで今まで気が付かなかったんだろうと思うくらいだ。石でできたその塀は人型であったとしても向こう側が見えないくらい高く、猫の姿で飛び乗ることもできなさそうだった。左右を見ても終わりが見えなかった。よくよく観察すると、シロが出てきたであろう穴が見つかった。しかし小さすぎてこちらも通り抜けることはできない。
俺はとにかく回り込んで正門を探してみることにした。はてしなく続いていくように見えた石の壁も曲がり角があり、日が沈むころには正門らしきものを見つけることが出来た。
兵士が見張りをしていたため、少し離れてしばらく様子を見てみる。そこはまさしくお城だった。王族なんか関係ねえ。そんなこと知らなくても生きていけるさ。と息巻いて大人の話を聞き流していた少年時代を悔やんだ。シロは本当にここからでてきたんだろうか。この国の王様は人間だ。獣人に優しいなんて話も聞いたことがない。お城の正面から立派な馬車がやってきて中に入れるチャンスが来たと身構えたが、もう少しシロに話を聞いてから出直そうと、今回は引き上げることにした。
周囲の人々に獣人であることがばれないよう、家に入るときは人型になるようにしている。実家につくと、夜ご飯の片づけをしている母に声をかけた。
「ただいま。シロどうしてる?」
「おかえり。シロちゃんね、子供たちと一緒に寝ていると思う。もうすっかり仲良し!この一週間で猫にも人にも自由に変身できるようになったんだよ。夜ご飯食べたの?」
「まだ。ちょっと先にシロの顔見てくるわ」
子供部屋に向かうとカーペットの上に集まって寝ている子猫たちがいた。シロも猫になっている。シロが混ざっても白と黒しかないのは変わらない。チビたちのご飯を食べて真ん丸にふくらんだお腹が上下している。パヤパヤ毛の子猫に混ざると、シロはずいぶん大きく見える。寝相だけでも仲良くなったのが伝わってきて可愛らしかった。あんまり気持ちよさそうに寝ているのでご飯を済ましてこようと部屋をでた。
ご飯を済ませ廊下に出ると、奥の方に白いのが見えた。子供部屋からひょっこり顔だけのぞかせている。シロだと思ったときにはこちらに走ってきていた。しっぽがぴーんと上に伸びている。俺がその場にとどまり腰をおとして手を前に伸ばすと、シロは思いっきり抱きついてきた。俺の右肩に前足をのせたシロが頭をこすりつけてくる。相変わらず力が強い。俺も会えて嬉しいと伝えたくて、シロの背中をなでた。耳元からゴロゴロと大きな音が聞こえてきて、あんなにスース―して落ち着かなかった胸の奥が満たされていくのを感じた。