クロの両親
「あら、クロじゃない、おかえり。どうしたの?あらあら、べっぴんさん。こんにちは」
奥から母がやってきて、父と四人でテーブルを囲むとシロに挨拶をした。俺とシロを見比べて父の顔を見る。こちらに見えないように片方の手で目隠しをしてから、反対側の手で小指を立てるのが見えた。父も再びニヤニヤしている。おふざけがすぎる両親だ。シロはきょとんとしているが、俺は正直ちょっと恥ずかしい。
「そういうんじゃないから!」
思わず大きい声が出た。隣でシロがびっくりしたのが伝わり申し訳なくなる。
「じゃあ、ちゃんと紹介してちょうだい。お友達連れてくるなんて初めてじゃない?」
両親は二人で顔見合わせて笑うとニコニコ顔のままこちらを向いた。家に連れてきたということは、俺が獣人だと知っている相手だということだ。滅多に出くわさない同族じゃなかったら、確かに結婚を考えた相手くらいのもんだろう。
今までのいきさつを一通り話すと、これからどうしようかと四人は黙り込んだ。
沈黙を破ったのは父と母だった。
「シロくんも大変だが、クロ、お前も仕事忙しいんだろ。シロくんさえ良かったら、しばらくこっちで過ごすのはどうだ?人型のコントロールもチビたちと一緒にやるのがいいんじゃないか」
「そうよ。慣れないことを同時に二つもやるのは大変でしょ。シロくんも昼間ひとりで家にいるより、あの子たちと遊んでいた方が分かることも多いかもよ」
痛い所をつかれた。実際ここのところ寝不足が続いていて、シロに出会ってから家事も必要最低限しかできていない。両親の言うことは正しい。でもすぐには返事が出来なかった。シロと離れるのはとても寂しい気がする。ここに置いていきたくないかもしれない。でも、これは俺のエゴだ。
「シロはどうしたい?」
そう尋ねながらシロの方を向くと、黙って前を向いていた。何も言わないが、目がキラキラしている。不安があるから黙っているのかもしれないが、好奇心は抑えきれないようだ。好奇心は猫を殺すというが、シロは本気で少し心配になる。両親もシロの反応に気づいてニコニコし始めた。
心が決まったようでシロがこちらを向いた。いいかな?と顔にかいてある。これはもうしょうがない。俺は困り顔のまま笑顔で返し、シロの頭をなでた。それを見ていた父が確認するように言った。
「そんなに大したもてなしはできないが、好きに過ごしてもらって大丈夫だよ」
「はい。お世話になります」
こうしてシロは俺の実家にとりあえず一週間滞在することになった。急な決定に心の準備が出来ていなかった俺も一泊してそのまま仕事に向かうことにした。