クロの実家
俺の実家は町はずれにある。獣人は人間に比べて数が少ない。同じ種族のものに出会うこともまれで、もし人間と結婚しても獣人の子が生まれてくる確率は限りなく少ないらしい。昔は奴隷として使われ肉体労働や、見世物にされていたこともあるそうだ。今は完全に人型になれるようになってから社会に入り込み、人間にはバレないように過ごしている。そのため獣人は人里離れた山や森の中で子育てをすることが多い。俺のところは猫なので、猫好き一家ということでなんとかごまかしているらしい。十六歳くらいになると家を出ていくので、今は両親と一人の残った妹、ちびっこが五人いる。
家の扉を閉め、ただいまと声をかけると、チビたちが歓迎してくれた。
「クロにいちゃん」
「だっこ~」
「にゃ~」
三歳の五つ子だ。父が黒猫、母がハチワレなので、みんな白黒だ。模様がそれぞれ違ってわかりやすい。体の大きい子は人型になっているが、猫耳としっぽが出たままだ。猫の姿の子も三匹遅れて出でくる。まだ毛がパヤパヤしていて可愛い。俺は顔が緩むのを抑えきれずに、抱えきれるだけまとめてだっこしてやった。獣人のいいところは猫なのに成長が遅いところだと思う。このパヤパヤ姿を何年も楽しめるのは最高だ。人の子供のぷにぷにほっぺと、ふわふわの猫毛が俺の頬に当たってたまらない。
「クロじゃないか。今度は来るのが少し遅かったな。仕事忙しかったのか?」
チビたちが騒いでいるのを聞きつけて父が現れた。顔がニヤニヤしている。弟妹が可愛すぎて俺がしょっちゅう帰ってくるのを毎回からかってくるのだ。
父親のにやけ顔にイラっとしてスンと真顔に戻る。後ろにシロがいたのを思い出し、今までの醜態を見られていたのかと思うと恥ずかしくなった。ふうと一息ついてから努めて冷静に返事をする。
「ちょっとね。母さんいる?話があるんだけど」
父が器用に右の眉だけ上げて、おやっという顔をした。俺の後ろに立っていたシロに気づくと二人でお辞儀を交わす。
「いるよ。呼んでくるから、居間でまってな。」
玄関のたたきに裸足で降りてこようとした弟妹たちをシロと二人で捕まえて部屋へ戻るよう促してから、やっとこさ家に上がった。