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天使かよ


 朝ご飯の用意が終わるころ、ベッドの方からかすかに物音がした。シロが起きたのだろうかと様子を見に行く。シロは部屋の様子や自分の身体をゆっくり見渡して確認していた。

「おはよう」

 俺が声をかけると驚いた様子のシロを目が合う。とたんにシロの顔が赤くなって、あわててブランケットで体を隠すと、小さい声で挨拶を返してくれた。

「おはよ」

 返事が返ってきたことにほっとする。人型の裸を恥ずかしがるということは、人型になったことも、人として生活したこともあるということだろう。

「シロ……だよな。服貸してやるから、朝ご飯にしよう」

 シロはこっくりとうなづいた。適当なTシャツと短パンを渡すと自分で着始めた。サイズは少し大きいが、大きめのスタイルが好きなんだと言って通じるくらいだ。ズボンは下がってくるので腰のところを一回折り返してあげた。

 席について二人で朝ご飯を食べ始める。パンとベーコン卵にココア。シロは俺が食べ始めたのを確認すると、嬉しそうに食べ始めた。食器の使い方に不安があれば俺の食べ方をいちいち確認するはずだが、シロはこちらには目もくれず夢中になって食べすすめていく。思いのほか、綺麗に食べる。パンは一口ずつちぎるし、ベーコンはナイフで綺麗に切っていく。もしかしたらいいとこのお坊ちゃんなんだろうか。俺はパンにベーコンと卵をのせてぺろりとたいらげると、ココアをすすりながら美味しそうに食べるシロを見ていた。


 一息ついてから、話かけてみる。

「シロはさ……シロでいいのかな。名前あるよね」

「シロでいいよ」

「そっか。じゃあ、シロはどこから来たの?」

「…………ばあやと一緒に住んでいて、外には出てはいけないってずっと言われててね。……でも、こっそり冒険してたんだ。僕の家?庭が広くてさ、高い塀で囲まれていたんだけど。どうしても外の様子が見てみたくて、どっかに穴でも開いてないかなって、探してたんだ。そしたらね、あっったんだ!で、猫が木の上で寝てるのを見つけてさ」

 上の方を見ながら話していたシロがこちらを向く。ああ、俺のことを言っているのだ。

「動物は空を飛んでる鳥と、こっそり家に住んでいるネズミくらいしか見たことがなかったからさ。一緒に遊んでみたかったんだ。穴が小さくてね。いつもは見てるしかできなかったの。でも、あの日は通れたんだよね。……僕、猫になってた?」

「そう、猫だったな。獣人って知らない?俺も猫にも人にもなれるし。普通は猫で生まれて大きくなるにつれて人型になれるから、自分が猫であることを忘れることはあんまりないんだけどな」

 うーんと二人で考え込む。シロはどこかに幽閉されていたんだろうか。どこかの貴族か、親が訳ありだったのか。追ってが探しにきたりするのだろうか。思っていた以上に事態が深刻であることが分かり、頭が痛くなってきた。獣人について教えないといけないことも多いだろうし、シロを探している人がいないかどうかも確かめる必要がある。幽閉されていたなんて。シロが戻りたくないなら、一緒にこのまま暮らす選択肢も残されているのだろうか。

「うーん。獣人のことについても教えてやりたいけど、俺だけじゃ上手く説明できるかわかんないしな。よしっ、俺の実家に行ってみないか?騒がしいの大丈夫そう?」

「うん、大丈夫。ありがとう、クロ」

 シロがにっこり笑う。はじめての笑顔だ。窓から差し込む日の光をうけてキラキラと髪が光っている。まるで天使じゃないか。体温が急激に上がり顔や耳が熱くなる。人型はこれだから嫌だ。赤くなっているだろう顔を見られるのが嫌で、シロの頭を少し乱暴になでまわして下を向かせた。


 

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