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最高の誕生日プレゼント

誕生日に突如現れた金髪美女の魔法使い。彼女が言う、ノクトとは一体!?

――トーマス・ディアブロ・ナインテール。


それが、魔法学校のいじめられっ子である僕の名前だった。


しかし。


15歳の誕生日の夜、その名前が、()()()()()だったと知ることになる。


「あなたは、誰なんですか?」


僕は、長い間抱擁していた女性に、気恥ずかしさを覚え、目を合わせることが出来ず、ベッドに腰かけると、伏し目がちに尋ねた。



「ノクト様。先ほど私の名前を呼んでくださったではないですか?」


黒の魔法装束を身にまとい、ロングの神々しい金髪をなびかせる魔女(若くて美人)が、窓枠に腰掛けて言う。


「え、あ、ああ、あれは、無意識で、実はその、わからなくて」

「記憶消失の魔法。グレゴリーどもの仕業ですね」

「グレゴリー、義父さんのこと?」

「義父さん?……誰のことをおっしゃっているのですか?」

「だから、グレゴリー・ドン・キホーテ。僕の育ての親の名前です」

「グレゴリーが育ての親!?なんとおいたわしや!」

「え?」

「このルノ・ルンド、金輪際、二度とノクト様から離れることはないと誓います!」


ルノと名乗る魔女が、翠色の瞳で僕の両手を握り、じっと見つめて宣誓した。


「あ、お、その、え、っと。ごめんなさい、本当に色々わからないんだけど、改めて、あなたは?」

「失礼しました。私の名前は、ルノ・ルンド。闇夜の光(ノクト・ルーモ)の一番隊隊長。我らの救世主、ノクト・インフェラー様の忠実なるしもべでございます」


嘘でしょ!???僕は声には出さないものの驚愕した。闇夜の光(ノクト・ルーモ)と言えば、近代歴史学の教科書に出てくる、史上最悪の闇の魔法使いたちの総称だ。魔界ヘルレンヴェルトの16の魔法学校のうち、7校は陥落させられ、魔界の平和を脅かしたという。その一番隊隊長!?最悪の魔女じゃないか!!しかも、待って。


「僕がノクト?」

「はい」

「ノクトってまさか、ノクト・インフェラー?」

「もちろんでございます」





ノクト・インフェラー。





魔界にその名を知らない人間はいない。

全ての闇の魔法を操り、数多の魔法使いを殺戮した、最大級の極悪人。史上最悪の闇の魔法使いたちを率いる、ノクト・ルーモの唯一王、それが、闇の帝王ノクト・インフェラー。


――それが僕だって!?


「ノクト様は、『雷神砦の決戦』で、敵の奸計に陥り、その身は消滅したと言われておりました。しかし、私はずっとノクト様の無事を信じていました」

「え?消滅したんでしょノクトは?」

「本当にこの世から消滅したのなら、私の命も尽きていたはずです。私とノクト様は、死ぬときは同じと、一蓮托生の魔法、一心同体エアデム・ファトゥムがかけられているのです」

「エアデム・ファトゥム、禁じられた魔法の一つだ」

「エアデム・ファトゥムをかけ合った二人は、≪合言葉≫を唱えれば、片割れのもとへ即座に移動することが出来ます」

「その≪合言葉≫って、もしかして『助けて』?」

「はい。『俺がお前に言うことなんて、死んでもない』、そうノクト様は仰っていましたね、ふふふ」


一切記憶にない。そんな合言葉はもちろん、僕が闇の帝王ということも。


だけど。


この女性ひとが嘘をついているようには思えない。それに、心の奥底で、彼女を懐かしみ、愛おしく思うもう一人の僕がいる。


「まさか、別人として『生まれ変わり』させられていたとは。見つけられないはずです」

「『生まれ変わり』そんな魔法もあるの?」

「ええ、古代魔法の禁術ですが。かけられたものは細胞レベルで別人になり、赤ん坊まで退化させることができるのです。魔力も、別人のようですね」


ルノが僕のことをまじまじと見る。僕じゃなく、僕の魔力を見ているようだ。


「呪われているのか。全盛期のノクト様の、1兆分の1くらいの魔力値ですね」

「そんなに!?」

「凡人でもこの魔力値はありえない。卑劣な奴等め」

「奴等って?」

「この魔法学校の連中です」

「え!!???」

「この魔法学校の教員たちは皆、貴方様を奸計に陥れた魔法使いどもなのです!!!!!」

「そんなまさか!」


ルノは、魔法の杖を取り出し、一振りすると、瞬時に銀色の長い剣へ姿を変えた。


「え?」

「動かないでください」

「え?」


ブワッシャーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


金髪の魔女は、僕の身体を一刀両断するように振り下ろした。


ええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!


斬られた!?と思った。その途端、身体の穴という穴から、湧き上がるように魔力が吹き出してきた。手に取るようにわかる。自分が15年間感じたことのない膨大な魔力が、僕の中から油田のごとく、絶え間なく染み出してきているのだ。


「ルノさん、僕に何をしたの!?」

「ノクト様にかけられていた魔力喰いの呪いを解呪したのです。強力な呪いだったので、斬らせていただきました」


嘘みたいに身体に変化が起きている。あふれる魔力が身体を覆い、自動で肉体強化の魔法が発動し、筋肉が隆起する。全身の感覚が研ぎ澄まされ、視力が増したのか、目の前のルナの纏う魔力の色までよく見えるようになった。これが僕の魔力?


「当時の魔力値になるには、まだまだ時間がかかると思いますが、今のノクト様でも、十分この学校のほとんどの教員は蹴散らせるくらいかと存じます」

「……本当に、僕がノクト・インフェラーだったんだね、ルノさん」

「ノクト様。一つお願いがございます」

「え?」

「ルノと呼び捨てしてくださいませ。ルノさんは、壁を感じて、少し、寂しく感じます」

「そ、そんな、あなたみたいな綺麗な女性を呼び捨てなんて!」

「勿体無いお言葉です!しかし、そこをなにとぞ、ルノと、どうか」

「……ルノ」

「はい!♡」

「僕の記憶は戻らないのかな?」

「術者がグレゴリーならば、グレゴリーを殺さない限り、完全に戻ることはないでしょう」

「義父さんを殺す……」

「しかし、私の持つ記憶を少しずつ共有することはできます」

「え?」

「共有せよ、メモロ!」


ルナが魔法の杖を自身のこめかみにあてると、水銀のように光る記憶の液体が、すぅーっと引き抜かれた。


「一日に共有できる記憶はほんの少しです。これから毎日、私が共有してまいりますのでご安心を」


ルナが記憶の液体を杖で操り、僕の頭に入りこむように指示する。おでこからしゅんっと液体が入り込むと、僕の脳内に、彼女の記憶の一部が映像のように流れ込んできた。


「え!?」



****************************************


「劫火よ舞え、スパルクロ」



森を焼き尽くすほどの火の球を片手で練り出すノクト様。詠唱破棄でこの威力流石です。



「止まれ、ハルトゥ」



逃げようとする魔法使いの動きを封じるノクト様。戦場で背を向ける臆病者に対し、さぁ制裁を。



「我を守護せよ、シルド」



反撃してきた魔法使いの攻撃も、ノクト様の魔力防御に掛かればなんてことはない、天晴れです。


この戦いも、ノクト・ルーモの勝利です!


「ルノ、我らが王は、やはり史上最高の魔法使いだな」


赤髪を揺らして、二番隊隊長のファイロが恍惚とした表情で告げた。私も激しく同意です。


「もちろん。ノクト様こそ、新たな時代を創る王なのです」



****************************************


「はぁ、はぁ、はぁ、凄い魔法だ。あれを、僕が使っていたのか」

「どの記憶でしょうか?申し訳ありません。実はメモロを使ったことがなかったので、無作為に記憶を取り出さざるをえなくて」

「いやいや、そんな。だけど、アレが僕なら、僕にも、ノクト・インフェラーの魔法が使えるの?」

「もちろんでございます!あなたがノクト・インフェラー様なのですから!記憶がなくて、あなたには天性の魔法のセンスと、その膨大な魔力がございます!あなたに使えない魔法はありません!」


――僕に使えない魔法はない。


そうか。ふふ、これは。



最高の誕生日プレゼントだ。





「ありがとうルノ。君のおかげで、僕は初めて、明日が楽しみに感じるよ」


自分がかつて闇の帝王ノクト・インフェラーだったと知ったトムは!明日、何をする!?

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