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15歳の誕生日に幸福は訪れる

自分なりに描いた魔法使いの物語。偉大な先人の世界的文学作品に最上級の敬意を表します。

その上で書いていきます。


タイトルと矛盾するかもしれませんが、テーマは「優しさ」です。


ぜひとも楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。


僕たちの生きる魔界(ヘルレンヴェルト)には、16の魔法学校が存在する。

魔界を16方位に分割するとわかりやすいかな。

最北に位置するのが、僕が通っている中学校。


――国立アガポルニス魔法高等学校附属中学校――


そこは、全国の魔法使いの子息子女が立派な魔法使い・魔女になるために通う魔法学校の中でも、最難関と言われているエリート校。

中等部と高等部が併設していて、いわゆる中高一貫校(エスカレーター式)。6年制を採用していて、僕は3年生の14歳だ。

あ、僕の名前は、トーマス・ディアブロ・ナインテール。

愛称というか、呼ばれたいなって言い方はトム。

でも実際はそうじゃない。


「クソトム!何見てんだ?そのうす汚い青い目、鼻くそほじるみたいにほじくりだしてやろうか?」

「サッカーボールかと思ったらクソトムか!蹴り心地が一緒でわからなかったぜ!」

「見ろよ!クソトムがうんこしてやがる、出産してるのか?hahaha」


……みんなは僕を、クソトムと呼ぶ。いつから?うーん、気づいたらそうだった。


両親が早くに死んで、アガポルニス校の校長である、グレゴリー・ドン・キホーテに引き取られた僕は、グレゴリー(義父とうさん)の家で育てられた。で、近所の幼稚舎に通園していたときにはすでにいじめられていた気がする。


ああ、そうだ。


「クソトムの味方なんて一人もいない!お前は一生ぼっちだ!」


幼馴染のガキ大将であるグラン少年に、そんなことを言われて僕は、咄嗟に口にした。


「君だってお父さんとお母さんがいないんでしょ?」


グランの顔が一瞬にして真っ赤になったのを今でも覚えている。そして一度泣きそうな表情を浮かべたけど、すぐに肉食動物みたいな顔に変わって馬乗りになると、僕を気絶するまで殴ったんだ。身体の大きなグランにボコボコにされ、顔面が腫れ、涙でいっぱいになって鼻血がダラダラ。

そのとき驚いたのは、喧嘩の発端となった僕の言葉を聞いて、幼稚舎の先生が、僕に謝れと叱りつけたことだ。

え?

僕だって言われたよ?いつもいじめられているのは僕だよ?

理不尽に感じて幼稚舎に行きたくないといっても、義父さんは許さなかった。

その一件から、グランだけじゃなく、同級生の大多数にいじめられるようになったんだった。

あれは5歳だったか。繰り返すけど、いまは14歳、現在進行形でいじめられている。

ちなみに、いつだって先生たちが僕を守ることはなかった。


理不尽だ。


いつ僕が発狂して、いじめっ子たちを殺そうとしても不思議じゃない。だけど僕はそんなことは絶対にしない。

義父さんの教育の賜物だ。


「何があっても、自分は善人であろうとしなさい。たとえ何があっても。善人には幸福が、悪人には必ず不幸が訪れる。だから、お前は決して悪に染まるな」


幼稚舎でさんざんいじめられて帰ってきた僕が、あいつら殺してやると泣き叫んだときに義父さんが言ったあの言葉。

それを信じているんだ。

あいつらは悪人だ。絶対に不幸になる。僕は善人だ。絶対に幸福になる。だからつらくてもやり返さない。自殺したくなっても絶対にしない。僕はいつか幸福になれるんだから。


そう信じている。


信じているんだ。



でもさぁ~。










義父さん、神様、仏様。あいつら全然不幸にならないんだけど!!!!!!!!!


グランのバカゴリラのやつなんか、魔術も剣術も天才扱いされて、アガポルニスの首席として表彰されちゃってたし!学年一美人って言われてるファスチナちゃんと付き合ってるし!

いじめられっ子の僕はここまでずっと不幸なんだけど!笑っちゃうくらいいじめられてるんですけど!

靴を隠されるのは当たり前、なぐられる、風呂でおぼれさせられる、食べ物は床に落とされる、なぐられる、服を脱がされて写真に撮られる、なぐられる、ちん毛燃やされる、無視される、虫食わされる、好きでもない子に告白させられる、なぐられる、日記をみんなの前で読まれる、寮の寝床に大量のゴキブリを放たれる、ベッドに縛りつけられて遅刻させられる、買ったばかりの服を燃やされる、痛い系の魔法をかけられる、などなど。


――僕が何をした!?ただの中学生だよ?!誰にも迷惑をかけてないし、穏やかに過ごしてる、誰の悪口も言ってない(頭の中で思うのは別として)、顔だって中の上くらいだ(低く見積もっても中の中よりの下)!どこにいじめられる要素がある!?――


「クソトム邪魔なんだけど」


急に話しかけられて後ろを振り向く。僕に話しかけてくる女子は一人しかいない。


いじめっ子のスノン・ウヌセンテだ。

元のくせっ毛を縮毛矯正してまっすぐにしたオレンジ髪を肩まで伸ばした同級生の少女が、猫のようなクリクリの目をひきつらせている。お前のことを軽蔑している、といわれなくても伝わってくる視線。背格好は僕と同じくらいだから162㎝くらい。

スノンも幼稚舎が一緒だったから、いわゆる幼馴染なんだけど、気づいたら僕をいじめていた。

男勝りで、グサグサと悪口で僕を刺してくる。もちろん苦手だ。

なるべくスノンと話したくない。


「ごめんねスノン」

「は?なれなれしく呼ばないでよ。あんたなんかと仲良いと、周りに勘違いされるでしょ?」

「それはないと思うよ」


どう見てもいじめっ子いじめられっ子にしか見えないだろと、思わず笑いながら答えてしまった。

やべ。


「なに笑ってんの?うざ。私を馬鹿にしてるわけ?」

「いやいや!そんなつもりは!」

「あら、あんたと仲良しのソドムとゴモラがこっちに向かってくるわ、呼んであげようか?」

「え!」


確かに遠くの渡り廊下から、こちら側へ、派手髪の暴力兄弟がやってくる。180cmを超える高身長の二人。短く刈り上げた青髪のほうが兄のソドム。すぐキレやすく、学校で一番僕を殴る。長髪の緑髪をコーンロウにセットしているのが弟のゴモラ。下品に笑い、学校で一番僕を蹴る。こいつらも僕の幼馴染ではあるが、何よりグランの親友という短所を持つ。あいつらに絡まれたら今日も五体満足では寮に帰れない。


「僕急ぐから!じゃあ」


スノンが何か言おうとしたが、無視して僕は全速力で寮へと走っていく。

アガポルニス校の男性寮である「アルセス寮」は、アガポルニス校の敷地内に併設されている。

ヘラジカがシンボルとなっている寮内には、ヘラジカの頭部の剥製が飾られていて、深紅の絨毯、白銀のインテリアの数々が、国内随一のエリート校らしさを演出している。中等部のフロアは、1階から3階。高等部のフロアは、4階から7階まで。


僕たち3年生の部屋は3階にある。螺旋階段を上がって、長い廊下を歩き、1分くらい歩くと、トーマスという文字の上からクソトムと書かれた表札のある扉につきあたる。


ここが僕の部屋だ。


「……疲れたぁ」


今日も最悪の一日だった。


リュティ教頭先生の剣術学の実践演習では、ソドムに手をあげさせられて、教頭にボコボコに打ちのめされて怒られ(周りには笑われ)、アル爺さんの歴史学は、ゴモラに遅刻させれて、ブチ切れた爺さんに杖で頭を殴られた。ベルズ先生の実践魔法学では、グランと組まされ、買ったばかりの服を火炎魔法で燃やされた。

箒術の授業では危うく転落させられかけ、黒魔法学で実験台にされた。


いつも通りだ。


いつも通り最悪だ。


今日は僕の誕生日なのに。


古びたほこりまみれの掛け時計を見る。19時14分。

15歳になった。

15年前の19時14分に、

トーマス・ディアブロ・ナインテールは生まれたらしい。


母さんの顔も覚えていないけど。


産んでくれてありがとう。






なんて言えないよ。



はぁ。









「助けて」



15年間、僕はその言葉を口にしたことはなかったらしい。

口をついて出た言葉が、僕の二回目の人生の色を変えた。


「ノクト様」


窓から差し込む月明かりに照らされて、僕の目の前に、彼女が立っていた。

若くて綺麗な、一人の魔女が。


「ノクト様」

「え?」


黒の魔法装束に映える、長くきらめく金色の髪をなびかせ、彼女が立っていた。

そして、宝石のような翠の瞳で僕を見つめ、泣いていた。


「ノクト様」


三度呼ばれて、頭ではなく、心でわかった。


『ノクト』は。




僕の。



いや、俺の()()()()()だ。


「ルノか?」


無意識に出た言葉に応えるように、目の前の魔女は頷いた。


「お会いしたかったです。本当に、ずっと。ずっと」


感極まった彼女は僕に抱きつくと、ぎゅっと僕の身体に両腕を絡ませ、()()()()()()()()()と言わんばかりに身を寄せて泣いた。


善人には幸福が必ず訪れる。



義父の言葉が頭に浮かんだ。



彼女は、僕に訪れた幸福なのだと、思った。


――これは、15年前、闇の帝王と呼ばれた、僕の物語だ。


自分で書いてて手前味噌ですが、この物語は結構好きになれそうです。


人は人との出会いで、悪人にも善人にもなる。


絶対的な答えのない物語になる気がします。


面白くなりそうだと思ったら推してもらえたら幸いです。



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