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ロイズ・レコード  作者: 翌桧 寿叶
第1章 最強の魔術
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第14話 幕開け

 夜の闇を裂くように、魔力の奔流が激しくぶつかり合う。

 ロイ・アランソンは冷静に前へと進み出た。フィオナ・シュヴァルツの唇が歪む。


「お兄様が、私に刃を向けるのね」


 ロイは一瞬だけ視線を伏せた。しかし、その瞳に迷いはなかった。


「……お前がやったことを考えればな」

「そう。だからこそ、私は生きているの」


 フィオナはゆっくりと両手を広げた。その周囲に、禍々しい魔力の波がうねり始める。


「私は、ただ生きるためにやってきただけ。お兄様はそれを否定するの?」


 ロイは短く息を吐き、静かに首を横に振る。


「お前の事情は分かってる。でも、落とし前はつけさせてもらう」

「ふふ……お兄様は本当に優しいのね」


 フィオナの指先が光を帯び、次の瞬間、魔術の奔流が放たれた。

 ロイは素早く横へと跳び、ジャンビーヤを構える。


「マリアン、後ろを頼む」

「へいへい、了解」


 マリアン・レッドフォードは、冷静に杖を掲げ、周囲の魔力を制御する。


「ヴィクターの相手は、私がするさ。お前は好きにやんな」


 ヴィクター・シュトラールは剣を構え、わずかに口元を歪める。


「まさか、お前がまた戦場に立つとはな……」

「私もね。こうなるとは思ってなかったよ」


 マリアンの魔術杖が輝き、ヴィクターの剣とぶつかり合う。

 戦場が二つに分かれた。

 ロイとフィオナ。

 マリアンとヴィクター。

 そして、未だ立ち上がれずにいるユレィシア。


「……立て……!」


 彼女は震える手で剣を握りしめた。


(私が……ここで終わるわけにはいかない……!)


 その瞳の奥に、再び炎が灯る。

 戦場は、最終局面へと向かっていった。


     〇


 魔術杖と剣が交錯し、火花が散った。

 マリアン・レッドフォードは、俊敏に後退しながら杖を振るい、ヴィクター・シュトラールの斬撃を防ぐ。


「お前、本気で私と戦うつもりか?」


 ヴィクターの剣が閃き、風を裂く。

 マリアンは僅かに苦笑しながら、その攻撃を杖の魔力障壁で受け止める。


「そう思われてないなら、むしろ悲しいね」


 彼女の掌から放たれた魔法弾が、ヴィクターの周囲の地面を弾けさせる。

 しかし、ヴィクターは微動だにせず、その剣をゆっくりと振り上げた。


「俺たちは、かつて同じ理想を信じていたはずだ……それでも、お前は彼らの側につくのか?」


 マリアンは静かに息を整え、冷静な声で応じる。


「理想は変わらないさ。だけど、お前のやり方には賛同できないだけ」

「ならば、ここで終わりだ」


 ヴィクターの剣が一閃する。

 マリアンは瞬時に魔術障壁を展開し、その剣撃を受け流す。だが、その衝撃に地面が軋み、周囲の瓦礫が宙に舞った。

 彼女は笑った。


「本当に容赦ないね。昔みたいに手加減してくれてもいいのに」

「お前が弱いなら、そうしていたさ」


 ヴィクターの目には、かつての戦友を思う情が、わずかに滲んでいた。

 しかし、二人とも理解していた。

 この戦いに、甘さは許されない。

 雷光のごとき剣閃が、夜の闇を切り裂く。

 マリアンは、その攻撃を迎え撃つべく、杖を構えた。


 ヴィクターの動きが加速する。

 足元に魔術を刻み、瞬間的な速度強化を施した彼は、一気に間合いを詰める。


「!」


 マリアンはすぐに後方へ跳ぶが、ヴィクターの剣が鋭く追いすがる。杖を回転させ、魔力の衝撃波を放つも、ヴィクターはそれを斬り裂き、勢いを緩めることなく襲い掛かる。


 刃が迫る。

 マリアンは杖を前に突き出し、封印術式を発動した。黄金の紋章が宙に描かれ、剣の進行をわずかに止める。

 しかし、それは囮だった。

 ヴィクターが一瞬の硬直を見せた刹那、マリアンは口元を歪める。


「隙あり」


 足元の魔法陣が閃き、無数の魔力の鎖がヴィクターの足元から噴き出した。


「……!」


 ヴィクターは剣を振るい、鎖を断ち切ろうとするが、それはすぐに再生し絡みつく。


「私の戦い方、忘れたわけじゃないでしょう?」


 マリアンは軽く杖を回しながら、魔術の制御を強めた。


「正攻法じゃ、お前には勝てない。だからこそ、私は搦め手で仕留めるのさ」


 ヴィクターは冷静に剣を収め、短く息を吐く。


「……やるな」


 彼の足元の鎖が徐々に強く締まり、動きを封じようとしていた。


「さて、どうする? もう少し手加減してあげようか?」

「いや……」


 ヴィクターは静かに剣を逆手に持ち、力を込めた。

 次の瞬間、剣から魔力の奔流が噴き出し、周囲の鎖が一気に断ち切られる。


「お前の搦手には、そろそろ慣れてきた」


 マリアンの笑みが深まる。


「なら、次はどう出るか、楽しみにしてるよ」


 戦場に、再び閃光が奔る。

 二人の戦いは、ますます激しさを増していった。


 一方、戦場の別の場所では、ロイ・アランソンとフィオナ・シュヴァルツが対峙していた。

 ロイの手には二振りのジャンビーヤが握られ、フィオナは余裕の笑みを浮かべながら彼を見つめていた。


「懐かしいわね、お兄様」


 その言葉に、ロイの眉がわずかに動く。


「兄妹だった覚えはない」


 フィオナはくすりと笑い、足元に魔術陣を展開する。


「そう? でも、お兄様も知っているでしょう? 私たちは、この世界に作られた存在。逃れられない運命の中で生きている」

「……言いたいことはそれだけか?」


 ロイは冷たく言い放ち、ジャンビーヤを構える。


「ええ、言葉遊びに付き合う気はないわね。でも……この戦いで決めましょう?」


 フィオナの手が空を切ると、そこに闇の触手が現れ、うねりながらロイを狙う。


「お前が正しいのか、それとも──俺が正しいのか」


 ロイはジャンビーヤを交差させ、戦場の空気を裂くように前へ踏み込んだ。

 戦いが、始まる。

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