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設定メモへと堕ちた何か  作者: ヌヌヌ木
第一章 新芽と残火編
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07話 《黒百合》サクラ・オカザキ



 ーー遂に、《黒百合(クロユリ)》の居ると言われる『濃霧の森』へと到着した。

 森は霧が濃く、その光景はまるでライン達の先知れない未来を暗示しているようだった。



「遂に着いたー!!長かったような短かったような」

「何か思ったよりも霧無いな、以外とみかけ倒し?」



 今日はいつもよりも霧が薄い日なのだろうか。

 一見はブーモが言っていたような霧の濃さはないし、この森は広大ながらも普通に回り道ができる範囲であり、森の中を絶対に通る必要はない。

 しかしライン達はこの中にいる《黒百合(クロユリ)》と言われる人物を探しに来たのだ。



「ーー行くか。3人共、準備は?」



 ラインは森の中に踏み入る前に、ミクスタ、レン、フェルシーに確認する。

 すると、ミクスタ、レンの2人は首を縦に振った。



「はい、いつでも」

「おっしゃ!楽しみになってきたー!!行くか!!」



 冷静沈着なミクスタと、テンションMAXなレン。この2人はいい感じに対極になっている。

 しかしフェルシーだけは首を振らなかった。



「ちょっとアタシ怖くて……今回はいくらレン君の頼みでも少し…。なのでここで待機しています」



 そう言いフェルシーはその場に火属性魔法で小さな焚き火を作る。どうやら本当にここに留まるようだ。



「ーーんじゃあ、レン、ミクスタ。行こう」



 ライン達は森へと踏み出す。


(余計なこと言ったら首、刎ね飛ばすからねぇ)

(分かってますよ、言われなくとも)


 ーーラインとレンは、とんでもなく物騒な内容を目配せで伝え合う2人の女子には一切気付かなかった。




*************************




 ーーー濃霧の森へと入ってから5分程経っただろうか。先程と違い、周りは一気に霧が濃くなり殆ど前が見えない。視認性があまりにも悪い状況だ。


 その為ライン達はお互い肩に手を置きながら進んでいる。そのせいで進むスピードはかなり遅めである。

 しかしこれには意味があり、それは霧でお互いの位置が分からなくならないようにするためだ。

 この視認性の悪さの中で、1人でも逸れるのは致命的であり、最悪の場合は「死」を意味する。それだけは避けなくてはならない。なので多少効率が悪くても、こうして安全性を取っているのだ。



「ーー2人共、着いてきてる?!」

「は、はい!でももう完全に周りがーー!」

「クッソ!正直舐めてた!!前が見えねェ!!」



 ラインが声をかけると返事が返ってきた。良かった、2人共ちゃんと着いてきているらしい。

 しかしその声には余裕がなく、かなり必死に声を発している。とても余裕を持てる状態じゃない。


(このままじゃ、そもそも《黒百合(クロユリ)》の元にすら行けない!下手したら犬死にだ!!)


 そう思い、撤退も選択肢に入れ始めた。

 しかし、時すでに遅し。先程まで見えていたフェルシーのいる焚き火は全く見えない。遂に退路まで分からなくなってしまった。


(完全にしくじった!孤立してしまった!!どうする?!自分に何が出来る?!考えろ!!)


 考えながら歩いていると、ラインは不意に目の前の何かにぶつかった。鼻をぶつけかけたがなんとか退いたことで回避し、レンとミクスタもその場で止まる。



「ーーん?」



 ラインはその物体に触れる。触り心地はモフモフで暖かく、少し湿り気のある部分もある。


 ーーしかもその物体は、息をしているらしい。

 よく見ると、霧の向こうには光る瞳らしきものが。



「ーーえ、ちょ」



 目の前にいたのは、巨大熊(ジャイアント・ベアー)と呼ばれる、全長10m近くある巨大な熊の魔物だった。



「ブモォォォォォォォォォォ!!!!」

「ーーっ!!ヤバい、避けろ!!」



 巨大熊(ジャイアント・ベアー)が咆哮し、その巨大な爪を振り下ろして来る。

 それに一番早く反応出来たのはレンであり、残り2人に声掛けした後に回避する。

 


「ーーこんなもの!!」



 ミクスタは速攻で銃を抜き、巨大熊(ジャイアント・ベアー)の手を撃ち抜く。熊は絶叫し、爪の軌道が変わる。しかし、それがいけなかった。なぜなら、そのズレた軌道上にはラインがいたから。

 ラインは咄嗟に別方向に回避するも、顔を爪が掠め、強い衝撃と共に頬や耳辺りが裂け、出血し出す。



「ーーい"、っだあ"……」

「ーーあ………すみませんラインさん!!」

「僕は大丈夫…だけど、レンは……?」



 そう聞くと、レンはこっちの方向に飛んできた。

 しかし、これはーーー。



「ーーダメだレン!!来たらダメなんだ!!」

「ーーえ?」



 ラインの居る位置に、巨大熊(ジャイアント・ベアー)が突進して来る。レンは知っているが、熊は人間よりもかなり速く、普通に逃げたら先ず逃げきれない。それの魔物となると、明らかに危険度は跳ね上がる。

 ーーーしかしレンは来てしまった。仲間を助ける為に自身の命のリスクが頭から抜けていた。



「ぁ、まずーー」



 レン達は目を瞑り、覚悟を決める。


      風が吹く音。


 そして、自身に強烈な衝撃がーー来なかった。



「ーー?え?」


「な、何でーー何も来ないんだ?」


「ーー何かが、あった?」



 そう言い、3人は目を開ける。


 ーーーすると、先程まで目の前に広がっていた霧が、ライン達の周りだけ無くなっていた。ライン達の目の前には、先程ライン達を襲った巨大熊(ジャイアント・ベアー)がいたが、その首は180度回転しており、明らかに回らない方向に回っている。


 そしてその上に、1人の人間が座っていた。



「大丈夫?そこの子は怪我してるね。私の家に来たら多少なら処置できるが、どうする?来るか?」



 その人間は、中性的な喋り方をしており、声の高さも男性と女性の中間程度の声だった。

 身長は180以上ある巨体な一方で身体がかなり細く、脚にはスラッとしたズボンを履いている為、脚のラインが分かりやすい。そして測るまでなくつるぺた。多分男性なのだろう。

 また、服装はこの世界で兵士に支給される軽装の旧型に近く、この世界に長く居ることを表していた。

 髪型は長髪で、目元はキリッ、顔はシュッとしており、男性なら『イケメン』、女性なら『イケメン女子』という言葉がが似合う顔つきだ。


 ーーーそして、その人間には左腕がなく、あるのはたった今腕が丸ごとえぐり取れたかのような、鮮血が目立つ腕の付け根だけだった。



「それにしてもキミたち危なかったよ。こんな霧の中、光源も持たずに入っちゃ迷い死んじゃうからな」



 その人間は微笑み、軽い冗談を言う。

 明らかにおかしい自身の左腕には興味なさげに。



「あ、あなたは、もしかしてーー《黒百合(クロユリ)》さんですか?」



 彼?彼女?は熟考する。そしてーーーー。



「……まだそんな名前で言われていたのか。まぁ正解ではある。そうだけどカビ臭くて好きじゃないから、こう呼んで欲しい。オカザキ(岡咲)サクラ()ってね」



 ……《黒百合(クロユリ)》オカザキ・サクラ。


 400年前の人魔大戦で勇者と共に人間軍につき、敵の魔物をその一閃で斬り捨て、魔物の赤黒い返り血と土汚れでその身が黒に染まったことから『黒百合』と呼ばれるようになった。

 その強さは当時の勇者パーティに所属していた4名のメンバーの中でも最強クラスであり、《閃光》と呼ばれる剣士とパーティ内で双璧を成していた。

 もっとも、400年前の人間なので、世間からは生きているとは思われていない。しかも《黒百合(クロユリ)》は、人魔大戦後直ぐに表社会から姿を消している。



 ーーーその黒百合(クロユリ)が、目の前に居る。


 ラインは緊張により心拍数が上がり、息が乱れる。ミクスタは銃を下ろしたいが、研ぎ澄まされた生存本能がさせてくれない。

 レンは、2人に比べたら相手の能力を測る目は無いが、スキル:『能力表示』があるので相手のある程度の能力は分かる。


 しかしレンにはサクラの能力が、全て靄がかかったように認識できず、全くその詳細が分からなかった。恐らく、相手と自身の戦闘力のレベルが離れすぎていると発動しないのではないか、とレンは推察する。


 ーーつまり、目の前の人間はここの3人が一斉にかかったところで勝てない。レンはそう認識した。



「……お前ら、絶対逆らうな」



 レンはラインとミクスタに忠告し、2人は頷く。

 自分の命は、目の前の人間が握っている。特にミクスタに至ってはフェルシーにも命を握られており、もはやいつ命を刈り取られてもおかしくない。



「ーー?何か緊張してないか?私は別にキミたちを取って食おうとは思っていないよ?」



 すると目の前のサクラは首を傾げ、その透き通った声をかけて来た。ラインは何となく、彼?彼女?は嘘をついてはいなさそうだ、と認識した。

 そう考え、ラインは声をかけ返す。



「あなたは、ここで何をーー」


「私?私は散歩していたら襲われそうなキミ達がいたからな。流石に見捨てるワケにはいかないだろう?」



 そう言い、サクラはニッコリと笑う。

 その顔は優しさで満ち溢れており、何となくこちらの緊張も柔らかくなる。どうやら敵意はないようだ。


 ーーその瞬間、いきなりサクラの左腕の付け根から大量の鮮血が噴き出し、隣の地面を真っ赤に染めた。



「あっ」


「「「うわああああああああああ!?」」」



 サクラが呟き、ライン達は絶叫する。それはそうだ。目の前の人間が唐突に大量出血すれば、悲鳴の一つや二つは出るだろう。

 サクラはその場に膝をつき、呼吸が荒くなる。何とか身につけている布で傷口を押さえるが、出血は止まらない。少しずつ顔色が悪くなり、動けなくなる。



「……ちょっと…頼んで…いいかな……?」



 その人は弱々しい声で呼びかけてきた。

命の恩人の言葉だ。流石に見捨てるワケがない。



「ーーは、はい!何をすればいい?」


「…ここから前に真っ直ぐいけば…私の家がある…出来れば連れて行って欲しい……」


「ーーー分かった!レン!サクラさんを頼む!」 

「おう!分かった!」



 ラインはそう呼びかけ、レンはサクラを抱き上げる。サクラの息はかなり荒くなり、余裕が無くなっているのか、息のペースが乱れ、深くなっていた。




               ▽▲▽▲▽▲▽▲



 ーー彼女の言われた通りに進むと、薄い霧の向こうに、木で出来た一軒家と畑などの設備があった。

 家の中に入ると、小さな台所や洗面台、テーブルや椅子、そしてベッドがあった。家には包帯や桶などもあり、一目でサクラの家だと分かる。

 レンはとりあえずサクラをベッドに寝かせ、腕の付け根を見る。未だ噴き出す鮮血は止まっていないものの、まだ失血死していない事実に驚きが隠せない。



「ライン!治癒(ヒール)かけてみるぞ!」


「うん、分かった!」



 そう言い、2人はサクラの腕の付け根に治癒(ヒール)を使用する。レンは『障壁貫通』も使用しながら。

 ーーーしかし、全く治らない。治る速度が遅いなどではない。本当に全く治らないのだ。




「何でだ?!治癒(ヒール)が全く効果がないなんてーー」


「これはーー呪術とかそういう類か?まさかーー」


「…多分無駄だ…それは…私が当時の魔王を殺した時につけられた『魔王の呪い(おきみやげ)』だから……」



 レンが動揺し、ラインはその理由を推察していると、サクラが苦しそうに声を出し、『魔王の呪い』とかいうもので、魔法やスキルによる治癒は効かない、とライン達に説明する。

 すると、今まで黙っていたミクスタが口を開いた。



「ーーじゃあ、腕の付け根を縛りましょう!そうすれば、出血は収まる筈です!後は包帯などを巻いて患部がモノに触れないようにすればーーー」


「治る可能性があるんだな?!やってみよう!!」



  そう言い、ラインは本来はテントなどに使う紐を取り出し、サクラの腕の付け根を縛っていく。サクラは少し痛そうに呻くが、大量出血による貧血により元気がないのか、抵抗せずに縛られていく。

 腕を縛った後にミクスタにどうすれば良いか問うと、どうやら患部の出血が治まるまでは待った方がいいらしい。なので、家にあったいくつかの桶を使ってサクラの血を溜めていく。

 普段もこういう使い方をしているのか分からないが、その桶は少し赤く汚れており、しかも複数あるうちの全ての桶がが赤く汚れていた。



「ーーこれ。気休めかも知れんけど」



 そう言いレンがラインに渡したのは、水の魔石で作られた洗面台の水道で濡らしたタオルだった。それをレンから受け取り、サクラの美形な顔に浮かぶ汗を拭う。すると心なしか彼女の表情が楽そうになる。


 ふとサクラの腕を見ると、腕の付け根からの出血が治まってきていた。これなら包帯を巻いても大丈夫だろう。そう思って、ラインは包帯を巻き始める。

 サクラの腕に、スルスルと包帯が巻かれていく。

巻き終わったあとには、息を切らした3人と、表情も落ち着き、静かな寝息を立てるサクラの姿があった。



「ーーよ、良かった……」


「一難去って、また一難、ってことだな……」


「何を言っているか分かりませんが…疲れました…」



 3人は、疲れと安堵から体力が尽き、倒れるように寝始めた。眠る前の彼らの心に残ったのは、安堵。




               ▽▲▽▲▽▲▽▲





 少し外が暗くなった時、サクラは目を覚ました。ベッドに運ばれた所から意識が途切れていたが、彼らが自身を運んでくれたことは覚えている。

 その腕を見れば包帯が巻かれており、出血も止まっている。まだ少しジクジクと痛むも、こんなことは400年前からずっと経験していることだ。


 サクラは、ベッドに顔を突っ伏して寝ている少年と、床で背を丸くして寝ている少女、入り口のドアに背をもたれかけて寝ている青年を見た。


 そしてーーー。



「ーーありがとうね。キミ達」



 心からの感謝を、3人に伝えた。




                ▽▲▽▲▽▲▽▲




 ーー静かだ。


 周りには何もない。何も見えない。何も感じない。

しかし、※※※にはとてもいい場所に思えた。

 ーーーできることならこの虚無の世界に、ずっと居たくなるぐらいに居心地が良い。

 そう感じていると、唯一生きていたらしい聴覚がやっと働き、その耳には、様々な声が聞こえてきた。


 もっとも、大半は罵倒なのだが。




ーーーお前………………だ………………から………ーー



ーーー何で………………れが………………なの?!ーー



ーーー私………………が………………なん…………ーー



ーーーふざ………………私達…………何だったのーー




ーーー…インーー




ーーー俺に………………雑………………死ね………ーー



ーーー邪魔………………の分………………ええ!!ーー



ーーー君は………………で彼に勝って………………ーー




ーーーラ……さ…ーー




ーーーお前………………は、生ま…………罪だ!!ーー



ーーー死して………………え!!魔…………が!!ーー



ーーー他…、お前は………………偉い。……いぞ!ーー



               ▽▲▽▲▽▲▽▲



「起きろおおおおライン君ーー!!」


「うわぁああああ?!」



 唐突に大声で呼ばれて、ラインは飛び上がる。彼にはいつの間にか布団を敷かれており、起きた時は思ったよりも寒くなかった。

 しかし先程の大声はレンでもミクスタでもない。誰だろうと振り向こうとすると、立ちくらみでバランスを崩す。しかし倒れそうになるラインを、何か硬いものが支えてくれる。そしてラインが顔を見上げると、



「よかったよかった。起きたようだね。おはよう」



 それはサクラの胸元だった。小さく感謝し、胸元から離れる。サクラの胸筋は硬く、頑丈そうだっーー



「一応言うけど、私は女性だからね?おっぱいが無いのは承知の上だけどあまりイジらないで欲しいかな。あ、あと女だからといって配慮は一切不要だよ」


「女性かよ?!あまりにも胸が無ーー顔がイケメンだったから男かと思ったわ!」


「キミ…レン君か。どこ見て言ってるんだ、エッチ」


「ーーレンくん、流石にそれは良くないと思います」


「違いますからね?!俺は顔を見たからな?!」


「冗談だよ冗談。私には見られる胸は無いからな」



 ーーサクラは女性だったらしい。

 先程の硬かったのも胸筋ではなく、単純に女性特有の乳が微塵も無かっただけだった。

 それにレンがツッコみ、サラッと失言した。それにサクラがノり、レンに再度ツッコまれる。そしてサクラはレンの悲痛な声を聞いてクスクス笑っている。

 思っていたよりもノリの軽いタイプらしい。



「とりあえず自己紹介しようか。名前と年齢を頼む」


「あ、はい!ラインです!16歳です」

「16か。まだまだ長生きできる歳だな」


「私はミクスタ・ラーザです。年齢は14歳です」

「ミクスタ君、でいいかな?ライン君よりも若いな」


「んじゃ俺かーーー初めまして!俺はーーー」

「レン君ね。いい子だけど少しマセてる助平(スケベ)な子」

「何か俺の説明おかしくね?!後まだ何も言ってない!!あ、上の名前は川之上です。宜しく」

「冗談だよ。此方も宜しく」



 一通り自己紹介が終わると、今度はサクラの自己紹介の番となる。彼女は立って話すのも良くないと感じたのか、ライン達を椅子に座らせてから話し始めた。



「私はサクラ・オカザキ。元は『岡咲 桜』っていう普通の女の子だ。400年前にコチラの世界に召喚され、当時の勇者パーティに所属していたんだ。だけど魔王の悪足掻きからジュンーー当時の勇者を庇ってね。情けなくもこのザマさ。傷モノな女だろ?」



 そう言い、サクラは自身の包帯で巻かれている腕の付け根を動かす。その顔は自嘲気味で、悲しそうで、しかし何故か愛おしそうでもあった。


 彼女の話から推察するに、彼女は400年前の魔王を討伐した勇者のパーティに所属していた。そして魔王を討伐するも、その魔王が死に際の置き土産として放った『魔王の呪い』から勇者を庇った結果、治らない傷をつけられたということだろう。

 また、彼女はレンやフェルシーと同様に、召喚者らしい。来た時代は違うかもだが、名前の並び的にとりあえずレンとは同郷ではないかとラインは考えた。


 すると彼女は無い胸を張り、こちらに向き直る。

 その顔は先程とは違い、真面目で真剣な顔である。



「では改めてーー3人共、私の命を助けてくれてありがとうございました。お陰でこうして、あなた達と面向かって話せています。このお礼は必ず致します」



 そう言い、サクラは改めて感謝を伝える。

 ーーその姿は非常に丁寧であり、それこそ400年前から生きる人間の貫禄を感じさせる姿だった。



「いや、大丈夫ですよ。助けたのは僕達の意思です。それに僕達も、あなたに用があって来ているので」


「ーー私に?できる範囲なら、何でもいいよ」


「じゃあーー僕達について来て欲しいんですけど、ダメですか?」


「ーー。申し訳ないけど、今はまだ無理だな」



 ダメ元で頼んでみたが、流石にダメだったらしい。同行の勧誘は、サクラには通じなかった。とりあえずその理由を聞いてから、どうしてもダメなら諦めて立ち去ろう。ラインがそう思っているとーーー。



「あくまで『まだ』だ。可能性が消えた訳じゃない。キミ達には感謝しているしできるなら手伝いたいんだけど、私は臆病でね。いきなり信じて、は少し難しいんだ」



 そう声をかけて、ラインの諦めを否定したのは、他でもないサクラだった。彼女は真剣な顔つきのまま、こちらを真っ直ぐ見てくる。



「すまないが、私にも少し事情がある。今から言うから、こんなババアの話に付き合ってくれると嬉しい」

「ーー。うん、分かった。どんなお話?」


「私の昔話だ。こんなババアの無駄に長ったらしい人生だから長くなるかもだけど、我慢してくれるかい?」


「………うん」



 そう返事を返すと、サクラは「ありがとう」とその美形を優しげな笑顔に変えて、洗面台に行き、湯呑みを4人分用意してその中に水を淹れてくれた。



「はい。ごめんね、ジュースとかは無いんだ」


「いや、ありがとうございます」


「有難く貰いますね」


「お、ありがとう。ーーございます」



 そのようなやり取りをした後、サクラはベッドの上に正座する。手には水が入った湯呑みを持ちながら。自分も一口水を飲み、気分を落ち着かせて話を待つ。



「………あれは400年より少し前だったかなーーー」

 




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