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設定メモへと堕ちた何か  作者: ヌヌヌ木
第一章 新芽と残火編
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02話 聖騎士ブーモvsライン・ミクスタ



 空間に緊張が走る。

 魔王の息子が目の前にいる今、ブーモは引けなかった。目の前にいるのはこの世界を再度混沌に陥れようとした魔王の子供ーー。



「勘違いしてるから正すけど、父さんは悪いことしてないからね。アンタ達人間が勝手に殺しただけだからな」



 目の前の魔族ーー魔王の息子(ライン・シクサル)が口を開く。

 そんなわけがない。嘘だ、嘘に決まってる。そう思い、耳を塞ぐ。ヤツの話に誑かされないように。そうでなければ、人間ーー自分は、ただ無実な魔族や人々を虐殺した殺人犯だ。

 もし、もしあいつ(ライン)の言葉に騙されれば、自分のしてきたことを否定され、正常でいられないだろう。

 自分がしているのは世界を混沌に陥れようとした大罪人の一族を征伐すること。平和のために戦っているのだ。そうだ、信じるな、魔族の言葉など。


 ーーそうでなければ…何故自分は戦っているかが分からなくなる。



「アンタは何のために戦っているんだ?家族を養うためか?金のためか?なあ、教えてくれよ。なんでアンタらは、僕の父親(デリエブ)を殺したんだよ?」



 魔王の息子(ライン)は語りかけてくる。その声には確かな怒りが込められており、迫力は欠けるものの、確実にコチラの心に語りかけてきている。

 ダメだ、誑かされるな。信じるな、魔族の言葉など。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだーーー



「ーーー。ーーーッ!黙れ!!魔族めが!!貴様ら能天気な魔族に、我々の人間国家がどれほど難しい関係になっているかも知らないでごちゃごちゃと!!」



 ブーモは剣を抜く。その剣を大罪人の子供(ライン)に向けて大声で威圧する。貴様らには騙されんぞ、と。


 その声に、確かな疑念の意を残しながら。



*************************



 彼ーーブーモは、こちらに剣を向けてきた。どうやら交渉する気はないらしい。しかし、心なしか彼の声が微妙に澄み切っていない声だったことに違和感を覚える。



「ーーーアンタ、迷ってるのか?」

「な、何を?!そんな訳ないだろう!戯言を吐くのもいい加減にしたらどうだ、ライン・シクサル!!」

「戯言じゃない。僕はいつでも真剣だ。アンターーブーモって言ったか?アンタは、根は絶対悪じゃない。」

「……?!、知ったような口をーー」


「叩くさ。叩くから耳すましてよく聞いとけ。アンタの声からは確かな疑念が読み取れた。それがアンタが迷っている可能性の証拠だ。ーーこれでも魔族の戯言だって言うんだったら、切り捨ててもらって構わない。でも、僕は出来れば人間と魔族の共存を実現したい。だから、剣を下ろしてくれ」



 彼の瞳が揺らぐ。明らかに迷いがある。



「ーーー。ーーーーー。ダメだ、魔族は信じられん」



 しかし、現実はそう甘くなかった。ブーモは剣を下ろさず、こちらに斬りかかろうと走って来る。



                 ▽▲▽▲▽▲▽▲



「やっぱ、そう簡単にはいかないよなあ」

「ーーー。敵が来ます。武器を渡して下さい」

「ああごめん。そういえばミクスタは何を使うの?」

「私は銃使いなので基本的には銃ですね。一応他も使えますけど」



 そうなのか。良かった。ただ机にあった銃を持ってきただけなので、もしかしたら得意武器じゃなかったかもしれないことを懸念していたからだ。

 彼女に二丁拳銃を渡し、自分も武器を選ぶ。と言っても剣と斧の二択だ。

 一番使いやすそうなのは剣なので、剣を手に持つ。


 その時、自分の魔力がかなり吸われた気がした。

 それで特に支障が出たわけではなく、ただただびっくりしただけだったのだが、不思議に思いよく見ると、先程までは普通の鋼色だったのだが、今は淡い紫色に発光している。



「あ。すいません、言ってませんでした。その剣は私特製の『魔力剣』って言って、持ち主の魔力の多さに比例して切れ味・硬度が強くなるんです」

「……できれば持つ前に言って欲しかった。少しびっくりしちゃったから。それに僕の魔力量なんてカスほどしか無いから多分あんまり変わんないと思う…」



 まあいい。ラインは不慣れな構えで魔力剣を手に持ち、向かって来る人間ーー元聖騎士ブーモを待ち受ける。



「ーー来ます。警戒を」

「分かってるよ。でもまだ剣の扱い慣れてないし、攻撃役は任せて欲しいけど足止めをお願いするよ!」

「はい、ラインさん!」




                 ▽▲▽▲▽▲▽▲




「『悪しき魔族よ。地に屍を晒せ』ーー『跳躍斬り』!!」



 来る。来る。


 ーー甲高い金属音。


 元聖教会直属聖騎士「ブーモ・シン」の剣とラインの持つ剣が衝突し、火花を散らした。



(お、重いっ!!これが人間の騎士の力!!)



 ラインは何とか踏ん張るも、それに負けじとブーモはより強く押して来る。そのせいでラインの体制が崩されかけ、ラインは心の底から焦りだす。

 体制を崩されようとする瞬間、2発の銃撃音が響く。

 ブーモはラインとの鍔迫り合いを止める為にラインを弾き飛ばし、それから2発の放たれた弾を弾いた。



「……分かっていましたが、流石に一筋縄じゃいかないですよねーー」

「当たり前だ。生半可な攻撃と姑息な手では、元:聖教会直属聖騎士であるこの俺を殺すことなどできんぞ」

「なるほど……じゃあ、少しやり方を変えましょう」



 そう言うとミクスタはブーモに駆け、ブーモの至近距離に近づく。ブーモはもちろん剣を振り下ろすが、ミクスタはその凶刃を華麗に避け、ブーモの喉元ゼロ距離で二丁拳銃を放つ。

 ……しかしブーモの喉に突き刺さるはずの弾は、見えない障壁に阻まれて届かなかった。



「無駄だ。私のスキル:『物理障壁』は、並大抵の物理攻撃を無効化する。貴様お得意の銃では傷一つつけられやしない」

「ーーそうですか。分かりました。ラインさん!」

「分かってるよ!!」

「……ぬ……?!」



 ラインは飛び上がり、目の前のブーモがした技を自分のものにしてやる、と意気込んで剣を振り下ろす。

 やる価値はある。やってやるんだと。



「『跳躍斬り』!!」



 見様見真似だ。うまくいくか分からない。

 だがやるしかない。

 ラインの一閃はブーモの後頭部へと伸びーーー


 またしても甲高い金属音が響く。


 ラインの放った渾身の一撃は、ブーモの頭までに届かず、銀の光を反射するその剣で防がれてしまった。



「……青二才が。見様見真似の剣撃如きで俺を斬ろうなどと烏滸がましい。それに不意打ちなど、戦士の風上に置けぬな。…笑止千万、生まれ変わって出直せ」



 そう冷酷に吐き捨てると、ブーモはラインを空中に弾き飛ばし、何らかの技を撃とうとしているのだろうか、剣を後ろに構え始めた。



(ーーダメだった!!不意打ちが失敗した!!まずい、死ぬーー。いや、諦めるな!!相手の動きをよく見ろ!!次は何をしてくるかを見極めろ!!)


「『我らが神よ。神聖な天を侵す悪しき魔を撃ち落としたまえ』ーー堕ちろ!!『剣形孤斬(ソードソニック)』!!」



 そう詠唱し、ラインに向かって剣を振る。

 すると、剣を振った場所の空気が揺らめき、光を放つ光線(ビーム)となり、そしてそれが凄まじいスピードでラインを真っ二つにしようと迫り来る。



(受け流しーー無理だ!!回避しろ避けろ逃げろ!!)

「ーーーッ根性おおおおおおお!!!!」



 ラインは思いっきり身を逸らし、被害を最小限にまで抑えようとした。ラインの後ろ側にあったミクスタの鍛冶屋の天井が吹き飛び、その威力の強さを物語る。

 ラインはなんとか体を逸らし直撃を回避したが、それでも胸板を深く切り裂かれ、そこから鮮血が噴き出す。


 ぐったりとしながら首だけを動かせば、そこには腹と胸板を大きく捌かれたライン自身の肉体と、その斬られた腹から溢れ出す内臓と骨、そしておびただしい量の鮮血だった。


 熱い。斬られた箇所が異常なまでに熱い。

 熱い。熱い熱い。熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛痛痛ーー。



「が………………はっ………………」

「ラインさん!!」

「おっと、貴様の相手も俺だ。無視とはツレない奴だ」



 そう言い、ブーモはラインを救出しに行こうとするミクスタの前に立ちはだかる。

 このままでは助けに行けない。そのままではラインは出血多量と内臓損傷によって絶命するであろう。




*************************




 ーーーーーーーー。


 胸板を斬られたラインは、地面へと落下し、叩きつけられる。そのせいで胸から噴き出す血の量が増えた気がする。ーー死にそうだ。ここまで来て、自分は死ぬのか。ここまでーーここまで来てーーここーーーー



        「生きたい」



《ーー極度の生存本能を確認。スキル:『治癒者(ヒーラー)』の能力が拡張されました。それに伴い、『治癒(ヒール)』の効果が『軽傷の即時回復』から『重症の即時回復』に強化されました。また、症状緩和効果が『症状の悪化の巻き戻し』に加え、『症状の悪化の防止』が追加されました。ーーどうしますか?》



 ーーーーー誰だ?


 周りは真っ暗で何も見えない。視覚だけじゃない。味覚、触覚、嗅覚、が全く感じない。暗黒の闇なのだが、その反面聴覚だけは生きているらしい。声が聞こえた。少年の声だ。だが誰かが分からない。


 だけどーーーすごく身近な存在に感じた。


《ーーーどうしますか?》


 再度質問される。誰かは分からないが、助け舟なら喜んで乗る。返事をしてみよう。



(そのスキルを使えば、僕はアイツに勝てるのか?)

《ーー断定はできませんが、可能性はできます》

(もう一つ質問がある。その能力(スキル)でこの傷は治るのか?)

《ーーはい、治ります。こちらは断定可です》

(なら、もちろん『はい』だ)

《ーー了解しました。スキル:治癒者(ヒーラー)を使用しました。》



(最後の質問。ーーキミは誰だ?)

《ーー私は、ーーーーーーーーーーーーーーーー。》

【あーあ。困りますよ勝手にされちゃ】

(ーーーーーー?!)

《ーーーーーーーーーーーー》



 誰だ?!女性の声に近い声だ。

 先程の少年の声とはまた別人だろう。また知らない者が頭に話しかけて来る。

 せめてどっちかでいいから教えてくれよ。



【君はまだ早い。早く帰ってあげてください】

《ラーー、おーーおまーのーーせーーーーーーーー。そーー、やーーてーだ。ーーよーすーな…………》

【ああ、無視していいですよ。ボクの問題です】



 そして、ライン・シクサルの意識が浮上する。




《ーーーライーークサルの技にーー『消滅者』が追加しますーー成功。以上で能力追加を終了しますーー》




*************************




 ーーーーーーーー。



 目を覚ますと、そこはブーモに吹き飛ばされた後、墜落して叩きつけられた地面だった。

 向こうでは、力強く斬りかかるブーモの斬撃を軽々しく避けるミクスタの姿が。しかし彼女の顔に余裕は無く、息もかなり乱れている。身体には複数の浅い切り傷ができており、彼女の翻弄も長く持たないことを意味していた。

 急いで助太刀に入ろうとすると、胸部に違和感を覚える。


 ブーモに深く斬られたはずの傷口が塞がっていた。


 何故かと思っていたが、すぐに答えが判明する。

 さっきの声だ。誰のかも分からない声だが、傷口が塞がったことで身体にも余裕が出来たので感謝した。


 そんな場合じゃない。ミクスタを助けなければ。

 ラインは魔力剣を持ち、激戦を繰り広げる2人のもとに向かう。


 ーーー例えこの命が、ここで果てようとも。



*************************




 まずい。体力が持たない。

 ラインが重傷を負った以上、もう彼は戦えない。残っているのは自分しかおらず、しかも銃撃は通用しない。

 ーー攻撃手段が一切ないのだ。勝ち目がない。


 だが、それでも彼女ーーミクスタは諦められない。



「往生際が悪いぞ、魔族とのハーフの娘!あの少年は死んだ!!いい加減にさっさと諦めたらどうだ!!」



 ブーモは怒鳴る。その顔には怒りと迷い、そしてかなりの量の汗が流れており、確かな疲れの色が見えた。

 自分にもっと体力があれば、持久戦で勝てたかもしれないのに。この時に限って、昔のことを後悔する。



「だが、貴様ももう終わりだーーー」



 ブーモはそう言うと、再度剣を後ろに回し、詠唱を始める。

 ーーー先程、ラインに重傷を与えた技、剣形孤斬(ソードソニック)だ。ラインは掠っただけであれだけのダメージを受けたのだ。まともに食らえば消し炭だろう。



「……私は、こんなところでは死ねないんです」

「…?何だ?死ぬ前の辞世の句か?もっと内容に興味が持てる出だしにしろ。 聞く気が起きん」

「お父さんとお母さんが死ななきゃならなかった理由が分からないからです」

「ーーーー」

「私は、勇者や人間国家に聞きたいんですーーなんで同じ人間ですら争うのか。なんで魔族ってだけで生きることを否定されるのか。…なんで、何も悪いことをしていない私の両親は死ななきゃならなかったのか」



「ーー何故貴様ら魔族は人間と同類(おれたちとおなじ)なんだ?」



 ブーモが質問する。しかしそれはミクスタに向けられたものではなく、自分自身に向けられたものーー自分の在り方への疑問だった。



「ーー何故貴様ら魔族は思考する?何故貴様らは感情を持つ?何故貴様らは人間と手を取り合おうとする?頼むから教えてくれ。そして言ってくれ。『我々は感情なき化け物です』と。……そうでなければ、俺がして来たことは虐殺だ。無実な魔族を斬り殺した大量殺人鬼だ。そんなことがあれば、俺の一度【神】に捧げた10年は無駄だったことになる。我らが世界の生みの親である【神】への反逆とーーー」



「ーーそんなこと、その【神】に言ってくれよ」

「ーーーー?!」



 先程、嫌にも聞き慣れた少年の声。

 ブーモは驚き、咄嗟に声が聞こえた方向に『剣形孤斬(ソードソニック)』を放つ。声の主の方に、飛ぶ凶刃が迫る。だがーーー



「フンッ!!」



 声の主ーー少年は避けるのではなく、魔力剣で受けた。そして押し返すのではなく、少しずつ軌道をずらし、自分の斜め後ろに飛ばし、被害を抑えたのだ。



「少しずつ慣れて来たぞ。アンタの剣技」

「馬鹿な、そんなわけがない。何故、お前は」

「何で無傷かって?そんなの僕も分かってないよ」

「あり得ない、この俺が、こんな魔族にーー」

「……負けそう、って?」

「ーーーなっ?!」

「実際そうだろ?心理的な戦いではお前は負けた。【神】とやらを信仰する癖に、たかが一魔族の戯言に心が迷うぐらいに。…あとはもう斬り合うしかないよな」

「ーーラインさん」



「ーー元『神天聖教会聖騎士』ブーモ・シン。貴様、名乗れ。これは貴様を魔族と見てのことではない。…俺の人生とプライドを賭けた、一勝負の名乗りだ」

「ーー《第13代魔王》デリエブ・シクサルの一人息子、ライン・シクサルだ。……行くよ、ブーモ」



 そう名乗りをあげた瞬間、プライドと命という、互いに守るべきもの同士による斬り合いが始まった。



                 ▽▲▽▲▽▲▽▲



 戦いは熾烈を極めた。ブーモは跳躍斬りや剣形孤斬(ソードソニック)を駆使し、ラインを翻弄する。

 ラインはそれを適時受けながらもブーモに斬りかかるが、彼のスキル『物理障壁』に阻まれ、中々攻撃が届かない。



(まずい、攻撃が入らない。せめてあの鎧の隙間に一刀でも入れば勝機はあるのにーー!!)



        ※ ※ ※



 その2人の戦いを、ミクスタは遠目から眺めるしかなかった。彼女には、何も出来ない。何もーー。


(ーーーーミクスタ)


 聞き覚えのある声だ。ーーー自分の父の声だと確信する。


(生き物っていうのはな、みんな役目があるんだ。一見何の役目も無さそうなヤツでも、探してみれば案外役目は見つかるもんだ。お前も、困ったときは役目を探してみろ)


 ーーーいや、何も出来ないじゃない。

 出来ることを探せ。今すぐ、探せ。探せ。

 彼女は銃を握り、ブーモに狙いを定める。

 食らわなくたっていい。だが一泡吹かせてやる。

 ーーーあの物理障壁を、ぶち破って。



【ーー力の進化を確認。スキル:『障壁貫通』を獲得しました】



 誰かの声。だが今はどうでもいい。

 ーーミクスタの拳銃から放たれた弾は、ブーモの障壁を貫通し、その鎧すらも貫き肉体にまで届いた。



        ※ ※ ※



「ぐあ……っ?!」

「ーー!!障壁が割れた!!」

(今だ!!今しか勝ち目はない!!)



 ラインは剣を後ろに構え、腕に全力を込める。

 この一刀で、終わらせる。



「『全力一閃』!!!!」

「ーーっ!!させるか!!元聖騎士を舐めるなよライン・シクサル!!二連剣撃ダブルスラッシュ!!」



 ラインのフルパワーを込めた最高の一撃は、ブーモのその体格に似合わぬ華麗な剣の二連撃に迎え打たれた。

 派手な金属音が太陽が昇ってきた早朝の澄んだ空間に響き、再度フルパワーの鍔迫り合いが展開される。


(推し切れ!!押せ!!押せ!!この機を逃せば、もう勝てない!!)


 押せ。押せ。押し勝て。押し勝て。勝て。勝て。



        絶対に、勝ってやる。

 


《ーーー強い意思を確認。個体名:『ライン・シクサル』の『勝ちたい』という感情から、『能力増強(エンハンスメント)』を獲得しました。また、スキル解放に伴い、能力を即時使用が可能です。ーーどうしますか?》



「もちろん、『はい』だ!!!!」

「何がだ?!」



《ーーー了解しました。次のうちどれかを強化できます。どうしますか?》

 1.身体能力(フィジカル)

 2.魔法能力(マジック)

 3.解放能力(スキル)

(ヤツに勝てるのは?!)

《力勝負なので、身体能力(フィジカル)がおすすめです》

(じゃあ、それを使う!!急げ!!)

《ーー確認しました。スキル:能力増強エンハンスメント身体能力(フィジカル)を使用しました》



 ーーー急に力が湧き上がってくる。

 いける。これなら。勝てる!!



「ーーっぁア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」



 ーー遂に、ブーモの持つ剣が中から折れ、剣先が大きく吹っ飛ぶ。そしてブーモの体制が大きく崩れた。



(ーー今しかない!!)



 すかさずブーモに向かって走り、魔力剣を鎧の隙間に思いっきり突き刺す。肉を裂く不快な音が聞こえ、あまりの激痛にブーモは後ろに大きくのけ反った。



「ぐぉぁあああああっ!!!!」



 ブーモが悲鳴を上げる。やった。勝った。そう思った瞬間、ブーモは尚も立ち上がり、折れた剣をこちらに突き刺そうとしてくる。


(しまーーーっ?!)


 ーー剣が弾け飛ぶ音。

 死を覚悟したが、その折れた剣はミクスタの放った銃弾により弾かれ、地に突き刺さった。



「ラインさん!!!!」

「分かってる!!!!」



 そう言い、腕に全力を込める。先程の声が本当なら、普段よりも力が上がっている筈だ。


 込める。この腕に、この拳に、全て乗せろ。

 ラインはフルパワーを超えた超フルパワーを、その細くか弱く、そして誰も殴ったことがない拳に込める。


 ーーその手には、黒いモヤが纏われていた。

 それにライン自身は気づかず、ブーモを見据える。



「ーーお前ら魔族は、【神】に逆らうというのか」

「魔族かどうかなんて関係ない!!人間だろうと亜人だろうと精霊だろうと天使だろうと虐殺が正当化されていい訳があるか!!そんなこと、お前らの【神】にでも聞いてみろ!!『怒りの一撃(アンガースマッシュ)』!!!!」



 全ての力と全ての感情が解き放たれし一撃の衝撃は、ブーモの顔面諸共地面を抉り、地面を爆散させた。

 その衝撃でラインは手に纏った黒いモヤ諸共空中に吹っ飛ぶものの、そのまま落ちてくるラインをミクスタがキャッチしたことで事なきを得た。



 ライン&ミクスタVSブーモ・シン

 勝者、ライン&ミクスタ



                 ▽▲▽▲▽▲▽▲



 目を覚ますと、目の前には朝焼けが広がっていた。

 あと結構視界内に入る、女性の胸部が。



「ーーどぅわあぁぁぁぁぁ?!」

「よかった、起きましたか!」



 顔を上げると、その少女は人とゴブリンとの間に生まれた混血魔族、ミクスタだった。



「え、今何してました??」

「何って、膝枕ですよ。貴方の容体を見るのにちょうど良い体制なので」

「それはありがたいんだけど、一応自分も男なんで、何となく恥ずかしいというか……」

「え…すみません、配慮が足りませんでしたか?」

「いや違う、そうじゃない…。気軽にそういうことすると男は惚れてしまうというか……」

「なるほど、勉強になります!」



 ラインが恥ずかしがりながらそう返すとミクスタは何故か心から納得したかのように言い、何となく違う感じを抱きつつも立ち上がり、周りを確認する。

 ボロボロになったミクスタの鍛冶屋、

 あちこち抉れた大地、複数の血の染み。


 そして、息絶え絶えのブーモを。



「……まだ生きてましたか」



 そう言い、ミクスタはブーモに近づく。

 その手に二丁拳銃のうちの片方を持ちながら。



「………ぐ、殺せ…!!魔族の娘……!」

「当たり前じゃないですか。もちろんここで死んでもらいます。……その薄汚く薄情で、そして薄っぺらい命で、あなたが殺した皆への償いをしてください」



 息も絶え絶えのブーモが女騎士のようなことを言うと、ミクスタは罵倒を吐き捨て、手足の一本動かせる力すらも残っていないブーモの脳天に拳銃を向ける。

 その赤の瞳に、憎悪と殺意を込めて。

 それだけのことをブーモ達はやってきたのだ。罪の無い魔族だけでなく、人間までも殺した。彼らが攻めてきたから、ミクスタの母は早死にしたのだ。


 ーーだが、ラインは自分の意識していないうちに、彼女の持つ銃の銃口を掴んでいた。



「………。離してください」

「ーー嫌だ、と言ったら?」

「貴方諸共撃ちます」

「ーー。無理だ。離せない」

「ッ!!離してくださいよッ!!!!」



 ミクスタが絶叫する。その目からは再度、涙が零れ落ち、彼女はまるで錯乱したかのように己の白い髪を振り回して叫び、ラインを睨みつける。



「あなたは分からないですよ!!故郷を奪われた私がどれだけ人間を憎んでいるか!!そしてそんなクズ種族の血が流れる自分がどれほど嫌いか!!」

「分からないよ。だから本来は知った様な口はきけない」

「ーー!!だったらーー」

「でも『敵討ちは思っているよりも達成感は得られない』って、僕の父さんが言ってくれていたんだ。ミクスタも、お父さんやお母さんが好きなら分かる筈だよ」


「それは、あなたのお父さんですよね?!私の親は違うーー」

「ーーそんな君と同じぐらい性格のいい親が、敵討ちなんて望んでると、本当に思ってるのか?」



 ミクスタの肩が震える。ラインの声は、自分でも無意識にドスが効いていた。



「そんないい親が、自分達の敵討ちをしてほしいなんて思って死んでいったと思うの?もしそう思っているなら、ミクスタ。君は親のことを何も分かってない」

「ーーッ!!ふざけないでよ!!」



 ミクスタは銃から手を離し、ラインは横っ面を思いっきり殴られる。痛い。痛いが、彼女の心の痛みはこんなものじゃないだろう。

 殴られた頬を再生させることすらせず、ラインは真っ直ぐミクスタを見つめる。ミクスタは半狂乱になり、もはや誰にぶつけたらいいか分からない怒りに精神を侵されている。



「私が親のことをわかっていない!?ふざけるのもいい加減にして!!私の両親は誰よりも私のことをーー」

「じゃあ何で君みたいないい人の両親が、敵討ちなんて下らないこと望んでると思ってるんだよ!!」



 ラインは、16年の人生で初めて、人を怒鳴った。

 その顔は、悲しみと怒りで染まっていた。



「君は何も分かっていない!!親は僕達子供が思ってるよりも僕達のことを考えてるんだよ!!《四天王》の皆だって、僕の為に命を張ってくれた!!」

「ーーーあ」

「こんな僕に言われて悔しくないのか!?君の親の顔すら知らない僕に!!悔しかったら理解してあげてよ!!君は、誰よりも優しいんだから!!」



 そう言い、ラインは先程勘で鍛冶屋から持って来た、ただ1つの写真立てを彼女の胸に叩きつける。

 ミクスタはそれを見る。そこには子鬼(ゴブリン)の父と人間の母、そして2人の宝、ミクスタが、笑顔のまま写っていた。


((ミクスタ。…どうか、幸せになってほしい))


 そんな都合の良い幻聴が聞こえた気がした。

 しかしその幻聴は確かに彼女の心に深く染み、目から溢れる水滴が止まらなくなる。

 ミクスタはその場で項垂れて本心へと向き合い、遂にその口から憎悪の無い『本音』が漏れ出した。



「う…ぅえ…お父さん…お母さん…会いたいよぉ……」

「ーー。そっちが、君の本音でしょ」



 そう言い、蹲る彼女をそのままにし、先程から放置していたブーモに声をかける。死にかけだ。



「なあ、アンタ」

「………何、だ?」

「僕達は勝った。魔族だかどうだかは関係ない。勝負にアンタは負けたんだ。だからあんたの命は好きにしていい?」

「……好き、に、しろ」

「そうか。じゃあ治して助けた後に条件色々申しつけて言うこと大体聞いてもらうけど、構わないよね」

「ーーーーは?」



 助ける、という発言に戸惑いを隠せないブーモの呟きを半ば無視して彼の腹に刺さった剣を抜こうとするラインに対し、ブーモは絶え絶えの息で静止する。



「今の僕の治癒(ヒール)でこれ治るかな…ちょっと剣抜くぞ」

「いや、ま、まて」

「いや待ったら死ぬじゃん。あんたの命を好きにするって言ったでしょ?だから好きにさせてもらうよ」

「……ふざける、な。…いくら破門になったからと言って俺はかつて【神】にこの身を捧げたのだ。…誇りの為なら死も厭わん。助けたところで俺は死を選ぶ」

「好きにしたらいい。だけど僕は父さんの夢見ていた人間と魔族の共存を果たしたいから、できれば協力してくれたら助かるなー、って思ってたり」


「……人間と、魔族の共存、か」



 ブーモの傷を治していく。先程の声によると、治癒(ヒール)の効力が上がったとか何とか言っていたが、確かに回復力が上がっている気がする。能力が成長したらしい。喜ばしいことだ。

 ブーモの傷口を完全に塞ぎ、ちょうどミクスタも泣き止んだところで本題に入ろうと思う。



「ーーアンタ達には、3つの要求を呑んでもらう。ひとつ目は、アンタ達が持つ情報を教えること。それ以外はアンタの仲間がめざめた後に話すことにするよ」






*************************



ライン・シクサル

 主能力(メインスキル)…????

 スキル…・治癒者(ヒーラー)

     ・能力増強(エンハンスメント)

 技?…・手から黒いモヤを出す能力


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ミクスタ・ラーザ

 主能力(メインスキル)…・鍛治職人(アーツメイカー)

 スキル…・障壁貫通



*************************


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