冒険者ギルド
◇◇◇
正直魔法はもうできるからやる必要ないんだよな。
「それじゃあ私に魔法打ってみて」
「え、いいんですか?」
「大丈夫受け止めきれる。今はまだ、」
「それじゃあ遠慮しませんよ。《火炎魔法・炎槍》」
光牙が手を前に出すと身長くらいの炎の槍が現れた。
「やっぱりすごい。昨日召喚されたばかりとは思えない」
本当に放って良いのか分からないけど、大丈夫って言ってるから良いんだよな。
光牙は恐る恐る手に留まっている炎槍をイシアに放った。
放った途端イシアが杖を前に突き出して
「《水の壁》」
そう唱えると目の前に水の壁が現れた。
光牙の魔法がその水の壁に触れた瞬間大量の水蒸気が辺りに覆われた。
周りにいるみんながパニックになっている。時間が経つと水蒸気が晴れ、そこには水の壁だけが残っていた。
「この水の壁だけで全部防ぎきったんですか?」
「うん。でも人によって同じ魔法で強弱があるからもし誰かに使う時はちゃんと加減してね」
「はいわかりました。それにしても今の魔法あっさり止められるんですね」
「まあ光牙はまだ魔法に慣れてないからそのうち私よりすごい魔法使いになる」
「そうですかねー?でもイシアさんより強い人もそうそう現れないと思いますけどね」
「それはそう」
あ、すごい自慢気だ。
「でもわかった。光牙には他の子がやってる訓練は必要ない」
「そうしたらこれからは自由に遊んでて良いってことか!」
「それもだめ。まあ召喚されたからって使命を果たす義務もないから嫌なら好きなように生きても良いと思う。だけどこの世界のことも知っておいた方がいい」
「確かに一理ありますね。でも僕の力が必要なら全力で手を貸しますよ」
「うん、ありがと。だから光牙は冒険者登録をするべき」
「あ、よくあるやつですね。魔物を狩ったり売ったりする場所ですよね?」
「簡単に言えばそう。本来召喚者は、あまり自由に行動しては駄目。けど光牙は特別。国王陛下も多分承諾してくれる」
「そんな好待遇なんですね。なら今から国王に言ってから行きますか」
「いや大丈夫。後で言っておくから。だから今から行くよ」
「え、そんな急に?」
そう言うとイシアは他の人に訓練の指導を任せて光牙と城の外に出て行った。
「わー!本の世界に入ったみたいだ」
ファンタジーの世界によくある城下町のような街並みで祭りや商店街のようなお店が並んでいる。
「この国は世界規模でみても大規模な国で比較的治安も良いところ」
「そうなんですね。ところでイシアさんは宮廷魔導士ですよね?冒険者なんて無縁な人なんじゃ」
「私は冒険者でもあるから。」
「なるほど。引き抜きみたいな感じですか?」
「そんな感じ。宮廷魔導士になると色々都合が良い。冒険者はランクっていうのがあって依頼をこなしていくとランクがどんどん上がっていくの。高ランクになればなるほど権力も貴族として扱われる程になる。」
「会社みたい感じですよね。イシアさんのランクは何ですか?」
「会社、、、?あ、えっと私は一応Sランク1番上のランクなの」
「へーちゃんとすごい人なんですね」
「なに?疑ってたの?」
「いや、そういうわけじゃないですよ。まだ色んな人の実力を見てるわけじゃないのでどのくらいのレベルがすごいかも分からないんですよね」
「Sランクの冒険者なら光牙は他にも会ってるよ」
「え、誰ですか?」
「アリスだよあの金髪」
「あの金髪って、。アリスって冒険者なんですか?王女なのに冒険者もやってるのか」
「アリスは訓練も兼ねて冒険者登録してるの。ところで何でアリスは呼び捨てなの?」
「え?まあ昨日色々あって」
「なら私もイシアでいい。」
「何でですか?イシアさんでもいいのに」
「アリスよくて私はだめなの?あと敬語も禁止。今から行く冒険者ギルドも敬語はあまり使わない方がいいし」
「はあー、わかったよ。これからはイシアって呼ぶよ。ところで何で冒険者ギルドは敬語を使っちゃだめなの?」
「よしよし。冒険者は舐められてはだめな職業。相手にもよるけど基本敬語では話す必要はない。自分が敬語で話すべき時は好きに話せばいい。」
そんな話をしていると目的地の冒険者ギルドに着いた。
「ここが冒険者ギルド。ここで依頼を受けてクエストをこなして行く。基本的に国や街に一つのギルドがあるから冒険者カードを発行したらどこでも依頼を受けられる事ができる」
「なかなか便利だね。まあそれほど一般的な職業になっているってことか」
「そう。冒険者は高額な依頼をこなせばその分豊かに暮らせる。でも高額な依頼は危険度も高いから命を落とす確率も高くなる。だから冒険者ギルドが適正な依頼を受注しなければいけない。じゃあ入るよ。最初はちょっと驚くけど気にせず歩いけば大丈夫」
「あ、はい?」
そういう時イシアが先導を切ってギルドに入って行った。
「おい!あれってイシアじゃねーか!?」
「Sランク冒険者だ!久しぶりに見た!」
「宮廷魔導士になってからほとんど来なくなったのにどうしたんだ?」
「隣の男は誰だ?」
おーだいぶ騒がしいな。イシアが言ってたのはこのことか。大衆居酒屋っていう感じだな。ここが冒険者の溜まり場的な感じか。
「ここはうるさい。だからあまり来たくない」
「確かに騒がしいな。まあでも想像通りの冒険者ギルドって感じた」
こういうのって基本誰かに絡まれるんだよな。
「おいおいおい!イシアじゃねーか!横の男ば誰だよ?」
横から声が下から振り向くといかつい大男が立っていた。
「この子は光牙。昨日召喚された内の1人」
「え、それって普通に言っていいの?」
「光牙だし大丈夫」
「ほー、勇者様かよ。」
はあ。問題は起こしたくないだけどな。相手の行動次第か。とりあえず敬語は使わない方がいいよな
「いや、俺は勇者ではない。大賢者だ」
「だ、大賢者、?大賢者ー!?!?」
声でか!唾もめっちゃ飛んでくるし。周りもすごい驚いているな。国王たちもそういえば驚いていたしな。
「おいおい!すげーじゃねぇか!こりゃあこの世界なもう平和だな!があはっはっは!」
愉快なやつだな。
「俺はAランク冒険者のゴランだ!なんかあったらいつでも言ってくれ!」
「ああ、ありがとう。俺は光牙だ。」
俺たちはそう言って握手を交わした。騒がしいが悪いやつじゃなかったな。しかもAランクか。ここでこいつが大々的に言ったおかげであまり面倒なことは起きないだろう。
「それじゃあ私たちは登録しに行くから」
「おう!飲める年になったら飲もうな、お嬢ちゃん!」
「うるさいデカブツ」
この2人は仲がいいのか悪いのか。でも思ったより楽しそうなところだ。
「イシアさんお久しぶりです」
受付のところまで行くとカウンターに座っている女の人が話かけてきた。
「久しぶり。今日は光牙の冒険者登録をしにきた。奥の部屋空いてる?」
「空いていますよ。初めまして光牙さん。受付嬢のマキです。先ほどの会話を聞いていましたのである程度は把握いたしました。召喚者の冒険者登録は異例ですので奥の部屋で行いたいと思います」
「あ、はい。よろしくお願いします」
この建物に入ってきた流れでここまで冷静に状況を把握して対応するなんて、この人プロだ。しかも丁寧すぎて敬語忘れてた。
受付嬢のマキは奥の部屋まで2人を案内した。
「こちらでございます」
扉を開けると社長室のようなデスクやソファの配置をしていて1人の男が立っていた。さっきの冒険者のゴランと同じくらいの体格だ。
「ギルドマスターイシアさんです」
「おーイシア!久しぶりだな。宮廷魔導士の仕事は順調か?」
「うん。ギルドマスターのおかげ」
「それはよかった。たまには依頼も受けてくれると助かるぞ。ん?その横の男は誰だ?まさか婚約者を見つけたのか!?」
「違うしうるさい。この子は光牙。昨日召喚された内の1人。光牙は特別だから冒険者登録をして冒険者として行動してもらおうと思ってる」
「ほう。イシアがそこまで言うのか。国王陛下の許可は取っているか?」
「、、、、、うん、。」
「おい、今の間は何だ?」
「多分大丈夫」
「言われるのは俺なんだぞ。召喚者は闘いの心得がないから初めは訓練していかないと命を落とす危険性もある。実力が開花しないまま命を落としたら召喚した意味もないしギルド側も申し訳がたたないだろ」
「一理ある。でも大丈夫。初めは私がついてちゃんと教える。光牙は王宮で訓練するより自由にこの世界を見た方がいい気がする」
「お前の目利きは確かだからな。しょうがない。でもSランク冒険者が付いていたとしても初めは低ランクの依頼を受けてもらうからな」
「うん。ありがとう」
「それじゃあ改めてギルドマスターのガイル=マッカーサーだ。よろしく」
「成瀬光牙だ。よろしく頼む」
「早速だが冒険者登録を始める。この石板に手をかざしてくれ」
一見ただの石板だが何かあるのか?
「ああわかった。」
そう言って手をかざす。すると石板が光りステータスが目の前に現れた。
どうやらこの石板はかざした人のステータスを見ることができるのか。
「この石板に映し出されるステータスは犯罪歴や隠蔽されているものも全て映し出される。これは身分の保証とともに偽造を防ぐためのものだ。」
成瀬光牙
【性別】男
【職業】大賢者
【魔力】3980/4000
【称号】異世界からの召喚者・大賢者
【魔法】魔法創造・火炎魔法・水流魔法・大地魔法・雷撃魔法・暴風魔法・聖光魔法・暗黒魔法
【スキル】大賢者・魔法耐性
「だ、大賢者!?あの伝説とされている職業ランクの大賢者なのか?!」
やっぱりこの反応か。ギルドマスターも受付嬢も驚いている。大賢者は本当にすごいんだな。
「すまない取り乱した。イシアが言っていたのはこのことか。確かにこれなら冒険者をやらせるべきなのかもしれないな」
「それは関係あるのか?」
「まあ必ず冒険者というわけではないが【賢者】っていうのは物事の探究心が強く魔法の境地として歴史的にみても珍しく伝説的な存在なんだ。俺からしたら勇者よりも珍しく強い職業だ。」
「そんなすごいのか。職業で強さが変わるものなのか?」
「まあ努力次第で強さはどうとでもなるが勇者や賢者とかはいわば才能と一緒だ。剣士が魔法使いと同じ努力料で魔法の訓練をしても魔法使いには敵わないということだ。まあ同じ魔法使いでもレベルはあるから全てが改名されている訳ではないから謎が多いがな。」
「なるほどな。つまり俺は魔法の才能はあるが剣士とかの才能はそこまでなのか」
「理論上はそうだが、召喚者は特別だから例外もあるかもしれない。しかも魔法の使い方によっては剣士同等の剣術を使える可能性もある」
「ほう、やっぱり魔法は面白そうだ」
「冒険者カードが発行できましたよ」
話している間に受付嬢のマキが作ってくれたみたいだ。簡易的な白色のカードで名前や職業、最低限の身分だけ書かれている。
「これで光牙も今日から冒険者だ。早速依頼を受けるか」
「イシアはこれから用事あるか?」
「大丈夫。今日中にできる依頼はどんどん受けよう」