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Fランク召喚士、ペット扱いで可愛がっていた召喚獣がバハムートに成長したので冒険を辞めて最強の竜騎士になる  作者: ケンノジ


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主従の少女と二つの依頼6


 ケラノヴァ神国の王都が見えてきた。

 俺の印象では雪深い北国というイメージだったが、今は春らしく解け残った雪がちらほらと山を飾る程度だった。

 今さらだが、お供は俺だけでよかったんだろうか。

 王家の花嫁がやってくるのに、運び屋とドラゴン一体だけで足下を見られやしないだろうか。


「ユーア、そろそろだ」

「はい」


 少し前までメソメソしていたユーアは、キリリとした表情を作った。

 王城が見えてくると、城門が見える位置に着陸する。


「ユーアはそのままいてくれ」

「? 降りなくてもいいんですか?」

「ちょっとくらいカッコつけたほうがいいだろ」


 不思議そうな顔をするユーアに、俺は詳しく説明をせず、ユーアを乗せたままのキュックを城門へ連れていく。


「グランイルド王国より参りました。こちらは貴国のシゼル王子殿下と婚姻するためやってきたベアトリーチェ王女殿下にございます」


 城門前にいた見張りの兵士が、慌てたように声を上げた。


「は、黒竜!」

「グランイルドの花嫁が、黒竜に乗ってお越しに……!」


 きゅう? とキュックが首をかしげている。

 ユーアも怪訝そうに瞬きを繰り返していた。


「ケラノヴァ神国は、竜を信仰していて縁起のいい存在とされているんだ」

「そうだったのですか」


 猫を被っているときのベアトリーチェと同じ口調になるユーア。

 どたばた、と城門の内側が慌ただしくなると、門が開いた。


「ベアトリーチェ王女殿下、よくぞお越しくださいました……!」


 大臣らしき中年の男が頭を小さく下げて歓迎してくれた。

 柔和な笑みをたたえたユーアは、王族スマイルのままゆっくりとうなずいている。


「行こう」


 運び屋ではあるが、ここでは竜使いということにして、俺はキュックのそばに寄り添って中に入った。

 城の大きな扉の前では、何人もの使用人が列をなしている。

 黒い竜に乗ってやってくる王女を見て、例外なく歓声に近い声を上げていた。


「グランイルドの王女はあの竜を使役しているのか!」

「たった数人で来ると聞いたときは、遠方だからあちらの王家も大変だなと思ったが……」

「王家の名誉を汚すことも貶めることもなく、品すら漂って見える……!」


 よかった。

 キュックに乗せてゆっくり歩かせたかいがある。

 王城に繋がる扉の前に、一人の青年がいた。


「ベアト! 遠路はるばるよく来てくれたな!」


 銀髪碧眼の顔が整った王子は、両手を広げて声を上げた。


「シゼル殿下。お久しぶりにございます」


 ユーアは、王族の暮らしに憧れていたと言っていた。

 リーチェに長年仕えているのなら、そう思うようになるのもわかる。

 けど、それにはよく知らない王子との結婚が条件となる。

 ユーアは、そのへんは呑み込めているのか?


 ゆっくりと歩くキュックが、王子の前で降りやすいように伏せをする。

 ユーアが降りると、シゼルのほうへ優雅に歩きはじめた。

 ユーアの所作は、本物の王族のそれだった。

 長年ずっとそばでリーチェを見続けた賜物だろう。

 二週間入れ替わってもバレなかったというのもうなずける。


「付き人よ。ベアトの荷物はそこらへんの者に預けるがよい」


 王子が顎で使用人の誰かを差した。


「いえ。お部屋まで運ばせていただきます」

「フン。好きにするがいい」


 私の好意を踏み躙りよって……とでも言いたげな流し目をすると、王子は城内へと歩きはじめた。


「部屋まで私が案内しよう」

「よろしくお願いいたします」


 王子が手を差し出すところに、ユーアが手を取ることに躊躇を見せた。


「……ベアト、手を」


 勘の悪い、とでも続けたそうな王子は、口調を苛立たせていた。

 言葉遣いや仕草は王族だが、先方は割り切れるほどの覚悟はまだないってことか。


「では、失礼して」


 俺は王子が差し出している手に、鞄の持ち手を預けた。


「うぉ、重たっ!? な、何の真似だ!?」


 思わず鞄を落とした王子は、眉間にしわを作って俺を睨んだ。


「荷物を持っていただけるのかと」

「違うわッ!」


 くすっとユーアが笑った。


「では、お部屋まで荷物をお願いします」

「話を聞けいッ、付き人風情が!」


 俺は部屋まで行って、報酬をどうするのか相談させてもらうつもりだった。

 どちらかと言えば、リーチェのほうに請求したほうがいいだろうが、まずユーアがどういうつもりなのか訊いておきたかった。


「礼節のなっておらぬ下民めが。まったく」


 吐き捨てるように王子は言うと、乱れた襟を正した。

 階段を降りていき、徐々に薄ら寒そうな内装に変わっていく。

 ……どこに行くつもりだ?


「ここだ。ベアト、君の部屋は」


 王子が扉を開けるとギイ、と軋んだ音を立てた。

 中は、賓客……花嫁を生活させるとは到底思えないほどの質素な部屋だった。


「シゼル殿下、これは一体どういう……」


 俺が堪らず尋ねると、片眉を上げて王子は説明をした。


「婚姻して妻になるとは言え、ベアトは実質人質のようなものである。使用人と同じというだけ感謝をしてもらいたいくらいだ」


 人質……?


「地理上、我らケラノヴァ神国は、グランイルド王国の北辺の守備を預かることになる。情勢を鑑みれば、姫の一人や二人、嫁がせて我が国の機嫌を窺うのは道理であろう」


 知ってたのか。

 俺は目線を送ると、何が言いたいのか伝わったらしく、ユーアは小さくうなずいた。


「……」


『リーチェのために頑張る』


 あの言葉は、そういうことだったのか。




 これは、入れ替わりなんかじゃない。

 身代わりだ。




「何だよ、それ」


 王家の生活に憧れていたっていうのは方便だったのか。

 リーチェがこの実情を知っているとは思えない。

 あんなに別れを惜しんでいたくらい仲のいいユーアが、こんな扱いをされると知っていたら、入れ替わりなんて思いついても実行しなかっただろう。


「ジェイ。よいのです、これで。荷物をお部屋へ運んでください」


 最後にリーチェを見送りにきたのが、側近とあと何人かくらいっていう時点で、何か勘づくべきだった。

 王様は、形だけの婚姻と知っていたから、見送りにも現れなかったんだろう。


「せめて客室へ変更していただけないでしょうか?」

「はぁ? 人質風情に、客室など貸すわけがなかろう。地下牢でないだけ感謝せよ」


 ユーアが王子にわからないように俺の裾を引っ張った。

 やめろって言いたいんだろうけどな――。


「人質は奴隷ではありません」

「そんなことはわかっておるわ!」

「ましてや、他国の王族であれば、相応の暮らしをさせるのが礼節かと存じます」

「くッ、小癪なことを……!」


「姫を預かるのであれば当然のことでしょう。そのような扱いをしていてば、ケラノヴァ神国の風聞かかわります」

「や、やかましいな付き人ォ! そなたの意見などどうでもよい!」

「あなたが大好きな『礼節』を弁えない国だと諸国から思われるのでは?」

「ッ~~! 叩き斬るぞ、貴様……!」


 ぐいぐい、とユーアが裾をまた引っ張るが俺は無視した。


「このベアトリーチェ様は、黒竜に乗ってここまでお越しになったのです」


 王子が目を丸くした。


「りゅう? こくりゅう? どらごん?」

「ああ、やはり見ておられなかったのですか。ベアトリーチェ様は、精鋭の騎兵で一週間かかる道のりを、黒い竜に乗り、たった一日程度でここまで来られたのです」

「……ぬう」


 王子が変な唸り声を上げた。

 思った以上に、ハッタリの効果があったらしい。


「竜と親しむことのできる他国の姫を、実質人質とはいえ使用人と同じ部屋へ押し込める…………これを民衆が知ったら王家の威光はどうなるでしょう」

「ぐう……」


 小難しい顔をする王子は、口を歪めたり鼻に皺を寄せたり、百面相をする。


「よ、よいだろう。そこまで言うのなら……そなたがそこまで言うのなら、黒竜に免じて客室を私室として使えるよう手配させる。待っていろ!」


 そう言い切った王子は踵を返して去っていった。

 案外乗せられやすく、話のわかる王子だった。





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