報告
食堂に顔を出し、俺はアイシャに冒険証を届けたことを伝えた。
「そうでしたか! ジェイさん、ありがとうございます」
「いいえ」
……まあ、お礼を言われて悪い気はしない。
「お料理も美味しかったし、信用の置けるお店ね」
「ああ。俺の行きつけの店だ」
「あの子って、バハムートの子供でしょう? 本で見たのとそっくり」
バハムートは、ドラゴンの中でもさらに強いとされる竜種だ。
「え? ……あ、ああ、そうだ」
キュックってバハムートだったのか?
見聞きした話では、似ているかもしれないが、そもそも見たという人間がほとんどいない。
フェリクが言ったように、本か何かで情報が残っていたりするが、正確なものかは怪しい。
「親切で剣の腕も立つ上にドラゴンの召喚士……」
ぽつり、とフェリクが口にする。
……熱視線を感じるのは気のせいだろうか。
冒険者ギルドへやってくると、フェリクが受付嬢に説明をした。
「ゴブリン退治のクエストをしていたところに、ゴブリンシャーマンを発見してこれを討伐したわ。これがその証の……耳とちょっとクセのあるニオイがするローブよ」
「確認させていただきます」
受付嬢は、革袋の中を覗いて確認をした。
席を外すとしばらくして戻ってきた。
「イーロンド様、お手柄でしたね。ゴブリンシャーマン討伐、お疲れ様でした」
「ていうのを、この人が一人で」
いきなりフェリクが俺を指差して話の中心にした。
「ステルダム様が?」
「……ええ、はい。フェリクも手伝ってくれたので」
「一日に二度も上位種を討伐してくるとは。さすが、ランクに違わぬ腕前ですね」
「たまたま出くわしただけですから」
俺が話をしていると、横からこそっとフェリクが話しかけてきた。
「あなた、ステルダムっていうのね」
「ああ。ジェイ・ステルダムだ」
冒険証を渡したらすぐに立ち去る予定だったから名乗らないつもりだった。
「ジェイはすごいのよ。知ってるかしら。ドラゴンの召喚士なんですってね! ゴブリンを斬って斬って、斬りまくって、そんな人に助けてもらうなんて、私びっくりして――」
「ドラゴンの、召喚士……?」
引っかかったのか、受付嬢は怪訝そうな目を俺に向ける。
そりゃそうだ。俺はトカゲの召喚士として知られている。不思議がるのも当然だろう。
「ステルダム様が大変頼りになる方というのは、わたくしどもも十分存じております」
と、受付嬢が言うと、フェリクが一部始終を興奮気味に語りだした。
「空からやってきて、ゴブリンを一気に二体も! 剣を目にも止まらない速さで抜いて――」
「フェリク、もういい。大丈夫、わかったから。――あの、報奨金はもらえるんですよね?」
「ええ。一〇万リンです。こちらをどうぞ」
フェリクが紙幣を受け取ると、そのまま俺に突き出してきた。
「俺は要らない。臨時収入が今日あったから。フェリクの今後の路銀にでもしたほうが」
俺が手を軽く振っていると、フェリクはその手を握った。
「違うわ。言ったじゃない、あなた。親切な先輩冒険者を雇ったほうがいいって。だから、これであなたを雇うの」




