南の島の古代魔法6
振り返ると、アルアの手には、元に戻ったボロボロの本があった。
肩をすくめて、ぽい、と本を元あった机の上に放り投げた。
「何が書いてあったんだ?」
「自動で発動する召喚魔法の術式と、そのための魔力を外部から調達するというものだ。簡単に言うと、誰もいなくとも発動する魔法を研究していたようだ。紙に大したことは書かない……。期待したが、その通りだったよ」
「じゃあ、島の人たちが豊漁や海の安全を祈念していたのは……」
「確認したが内容とは無関係だった」
そうじゃないかと思ってはいたが、それまで捧げられた子供たちのことを考えると、無念でならない。
「書いてあるのは、ここを作った者の日記だ。子供たちがここに来れたのは、転移魔法によるもののようだ」
転移魔法は、今でもかなり珍しい魔法だ。それを大昔は実用化できていたんだな。
アルアは、祭壇あたりに魔法陣があり、ここへ転移する術式が組まれていたと言った。
「じゃあ転移魔法で子供たちはここにやってきて、あの罠で生気を吸い取られたってことか」
残念だがそういうことなんだろう。
どうして子供を供物として捧げるようになったのかは、わからない。だが、そうしたらたまたま豊漁と重なったんじゃないか。でなければ、そんな辛い風習が残るはずがない。
「それで、アルアの目的の物は見つかったのか?」
「一応ね」
天井にある魔法陣と転移の魔法陣がそうらしい。
簡単にさらさらと書き写しながら、ニヤニヤと笑っている。
「帰ってから隅々まで調べさせてもらおう。グフフ……」
……ここを作ったやつも、こんなやつだったんだろうか。
アルアの目的も達成できたし、海の神なんていなかったことも確認した。豊漁と不漁に供物が関係ないこともわかった。
アルアと俺はニジさんのところへ戻った。俺たちの帰りを待っていた島民たちも、真剣な顔で報告を聞こうとしていた。
「召喚士さん、どうだった? 神様は、なんと?」
島民たちからじっと視線が注がれる。
……そうだった。そういう設定だったな。
「えーと」
俺が考えていると、オホン、と秘書面のアルアが口を開いた。
「竜の召喚士は、海の神と交信することに成功した」
「「「「おぉ……」」」」
また嘘八百を……。
呆れた俺はアルアに流し目をする。
俺は彼女の発言に合わせて、厳かな顔つきでゆっくりとうなずいた。
「そうです。成功しました」
「そ、それで、神様はなんと!?」
「召喚士様! 供物は……、供物はどうなるのでしょう!?」
口々に騒ぐ島民をアルアが静める。
「落ち着きたまえ。……まずは結果から言おう。神は、供物は不要であると仰せだ」
アルアの言葉がわからなかったのか、それとも理解するまで時間がかかったのか、一瞬、しんとすると、わぁぁ、と歓声が上がった。
「もういいんだな! 子供を捧げなくても!」
「ありがとう、召喚士様……」
「これで安心して子供が作れる」
両手を突き上げて喜ぶ者、夫婦で泣きながら抱き合っている者、これまでの子供たちを思ってむせび泣く者……、反応は様々だった。
「これまで捧げた子供たちを鎮魂するための慰霊碑を作るといい。……と、仰せだ」
アルアが言うと、その真偽を確かめるかのように俺が注目される。
「神様は、子供はもう十分だと。供物は、島で取れた産物で構わないそうです」
ニジさんと奥さんも泣いて喜び、俺に握手を求めた。
こんなに喜んでくれるのなら、嘘をついて遺跡まで行ったかいがあるってもんだ。
「慰霊碑というのは、どういうものを作ればよいのでしょう?」
「え?」
いれーひ……。
ああ、アルアがさっき言ってたな。子供たちの魂を鎮めるための慰霊碑って。
言い出しっぺは自分なのだから回答もアルアがするのだと思ったら、「竜の召喚士しか内容は聞いていないんだ」と俺に押し付けてきた。
こいつ……! 面倒くさいからって俺に投げたな?
「い、石の、こういう、アレです……」
「どういう、アレでしょう……!?」
急に振られた話題なので、ふわっとしか答えられない俺に、島民たちは真剣な顔で迫ってくる。
隣でアルアがクスクスと笑っていた。
あとで覚えとけよ、この魔女め。




