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Fランク召喚士、ペット扱いで可愛がっていた召喚獣がバハムートに成長したので冒険を辞めて最強の竜騎士になる  作者: ケンノジ


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拠点を作ろう


 朝食兼昼食をアイシェの店で食べていると、そこにフェリクがやってきた。

 当然のようにアイシェが俺のそばにフェリクを案内してくる。

 俺は別に構わないが、フェリクも一人で静かに食事したいってときはないのか?

 疑問に思いつつも、フェリクは何かあれば抵抗しているだろうから、どっちでもいいんだろう。


「私は既に一件クエストを済ませてきたわ」


 手際よく仕事を済ませた、とさっそく自慢してくるフェリク。


「働き者だな。フェリクは」


 まあね、とまんざらでもなさそうに、肩に乗った髪の毛をふぁさ、と払った。


「ジェイはいつも宿で寝起きしているじゃない?」

「ん? ああ、そうだな」

「どうして? 家を買うお金くらい運び屋で稼いでいるでしょう?」


 フェリクは何度か仕事に同行して報酬額を見聞きしている。そんなふうに思うのも当然だろう。


「あの宿屋の主人に、俺はペーペーの頃からよくしてもらってるんだ。だから、泊まるときはあの宿って決めてるんだ」

「あぁ、そういうこと。……ジェイにも新人時代があるのね」

「当たり前だろ」


 考えればわかるようなことでも、フェリクは思いつかなかったかのように、目を丸くしている。


「想像がつかないわ。ジェイの新人時代なんて」

「誰でもあるだろう」


 あの宿は、冒険者ギルドからほど近くにあるし、途中にアイシェの店もあってギルドから食事をして帰りやすいのだ。

 宿の価格帯も中の下で長期利用しやすい。

 宿自体は古いが、中は掃除が行き届いていて、丁寧な仕事ぶりに好感が持てるのだ。


「あの宿を疑うわけではないけれど、相当貯めているでしょう? 泥棒に入られたりネコババされたらどうするのよ」

「どうするって、犯人を見つけて取り返すまでだ」

「そうかもしれないけれど、大金を置きっぱなしだと、そういうことも起こるでしょ?」

「何が言いたい」

「家でも何でも買ってしまえばいいのに。そうすれば家は盗まれないわ」


 だから宿の話を訊いたのか。

 フェリクの発言には一理ある。

 主人には、部屋に入らないように言ってあるが、他の客まで信頼できるわけじゃない。

 自分の家で保管しているなら、盗難の心配は格段に減るだろう。

 家といえば、以前郊外に拠点にしていた家がある。


 それはロウルとニコルの兄妹に譲った。古くなっていたし、王都から距離があってギルドに通うのが面倒だったからだ。

 当時から、家というよりは怪我をしたときの療養施設のような扱いだった。だから遠くてもよかったのだ。

 だが今はキュックがいる。

 王都から相当離れた距離に家を構えても、キュックに乗ればすぐ王都まですぐだ。


「じゃあ、買うか、家」

「え? そんなに軽いの?」

「買ってしまえばいいって言ったのはおまえだろ」

「そうだけれど、こんなあっさり決断するとは思わなかったから」


 そりゃそうか。


「宿屋の主人は顔が広い。あの人に言えば大工さんを紹介してくれるだろうし、資材の運搬はちょうどいい奴がいる」

「ロックのことね」

「ああ。大容量を運ぶのにはもってこいだからな。人手もあるし」

「ビンと部下?」

「そう」


 大工さんを雇って、その指示を聞いて働くビンとその部下がいれば、家は案外あっさりと建つだろう。


「どこに建てるの?」

「あっちの、王都から一番近い山とかかな」


 指さした方角にフェリクが目をやる。

 静かで湖があって、のんびり過ごせそうな場所に心当たりがあった。


「アイシェ、今日依頼があっても明日以降になるって伝えておいてくれるか?」

「おっけー」


 雑談しながら食事を食べ終えると、俺たちは店をあとにした。

 暇だったらしく、フェリクもついてきた。

 宿屋にある俺の金を回収し、主人にこの件を相談すると腕利きの大工の棟梁を紹介してくれた。

 たまたま主人と世間話をしていた人がそうだったらしく、流れで商会まで一緒についてきてくれた。

 歩きながら家の概要を簡単に伝えると、おおよそのイメージができた棟梁は、商会に着くとあれこれ資材を注文していった。


「兄ちゃん。もう資材を買っちまってるが、ダンゲロス山までどうやって運ぶんだい? ウチのモンだけじゃちょっと時間がかかるぜ?」

「一人で運びます」

「一人?」


 棟梁は首を捻った。

 まあ、わけがわからないよな。説明するより、あとで見せたほうが早いだろう。

 商会近くにあった倉庫から建築資材が荷車に載せられ、ゆっくりと進んでいった。

 城外まで運んでもらうと、俺はロックを呼び出した。

 淡い光を帯びた岩のような巨人が姿を現した。手には、ミノタウロスの戦斧が握られている。


「こいつが運んでくれます」

「おぉぉぉ!? な、なんだ、こいつは!?」


 ひとしきり驚く棟梁に俺の召喚獣であることを説明すると、ペシペシ、とロックを叩いた。


「頼りになりそうだな!」

「ロック、ここらへんの資材をダンゲロス山まで頼みたい」


 意識が共有できるので、俺が思い描いた場所まで運んでくれるはずだ。


「むぉ」


 ロックは荷車を複数引っ張りながら、のっしのっしと歩きはじめた。

 俺たちはキュックで先に移動する。棟梁は目をぎゅむっとつぶっていた。ここまで高いとさすがに怖いらしい。

 上空からでも湖の位置はわかりやすく、すぐに見つけられた。

 湖のほとりに着地すると、今度はビンと部下を呼び出す。


「――ってわけで、この一帯に家を建てるから手伝ってくれ」

「久しぶりにィ! ジェイのお頭に呼び出されたぜェェェ!」


 面倒くさい作業をお願いしたのに、ビンはイヤッホォウって感じで頼みごとをされるのが嬉しかったみたいだ。

 この数か月、フェリクの別荘でハウスキーパーをやりながら、近くで農作業してるだけだったからかな。


「棟梁、こいつらに色々指示を出してやってください。頑張りますんで」

「頑張りますんでッッ!」


 気合が入りまくりのビンだった。


「お、おう。そうさせてもらおうか」


 屈強な元盗賊のお頭が、従順な姿勢を俺に取っているのが棟梁はたまらなく不思議だったらしく、何度もビンと俺を見比べていた。


「黒狼のヴィンセントにドラゴンに巨人を従えている……兄ちゃん何者なんだ……?」

「召喚士の運び屋です」


 俺の回答には納得いかなかったらしく、小難しそうに首をかしげていた。


「ねえ、ジェイ」


 これまで黙って事の成り行きを見守っていたフェリクが、控えめに声を上げた。


「うん? どうかした?」


 フェリクは、つんつん、と指と指をつけたり離したりを繰り返している。


「私も、その……遊びに、来ちゃったりしちゃったり、しても……? もっ、もちろん迷惑でなければ」

「いいぞ。家には客間も用意するつもりだし、このあたりにクエストに来たら、休んでいってくれてもいい」


 ちょっとした提案だったが、フェリクは頬を赤くしたまま小刻みに何度もうなずいた。


「え、ええ……い、行くわ」


 耳を澄ませてないと聞こえないくらいの小声だった。

 あららら、とビンは珍しいものを見たかのように口を半開きにしている。


「ジェイのお頭、フェリクの嬢ちゃんはお頭にナニされてもオッケーらしいですぜ。一人でオトコの家に来るってことは……ねえ、そういう……」


 俺が否定しようとすると、フェリクが大声で被せてきた。


「違うわよっっっっっ!!!!」


 大音量に、湖のそばで遊んでいたキュックがビクっとなり、付近の木にとまっていた鳥たちが一斉に飛び立っていった。

 俺も耳がキーンとなった。


「か、帰るっ。もう帰るっ」


 湯気が出そうなくらい顔を紅潮させているフェリクは、感情がどうかなったのか、目に涙をためていた。

 逃げるように去っていくと、また声が聞こえた。


「そういうんじゃ――ないんだからぁぁぁぁあ!」


 またキュックがビクっとして、鳥たちがまた一斉に逃げ出した。

 俺もビンもキュックも、作業していた部下も棟梁も、去っていくフェリクを見守るしかなかった。


「というわけらしいですぜ」

「どういうわけだよ」


 俺はフェリクのあとを追いかけた。


「な、何よ! 私、そういう意味で言ったんじゃ」

「そうじゃなくて。王都まで歩いたら数日かかる。だからキュックで送る」

「そ、そう……それもそうね」


 作業員たちの食料がないので、王都で買いつける必要があった。フェリクを送るのはそのついででもある。


「ジェイは、あっちの家で暮らすことになるの?」


 移動中、フェリクが尋ねた。

 後ろを振り返ると、元気がなさそうに遠くを眺めていた。

 もしかすると、寂しいのか……?

 自分で家を建てろって言い出したくせに、いざそうなっていなくなると寂しいと?

 ツンケンしたり素直じゃなかったりするけど、こういうところは可愛げがある。


「どのみち窓口はアイシェのままだから、家から王都へ行く必要がある。寝泊りする場所が、宿屋からあの家に変わっただけで、アイシェのところに行けば今まで通り顔を合わせることになると思うぞ」

「ふ、ふーん……」


 また後ろのフェリクを窺うと、頬がちょっと緩んでいた。


「私が家に行きたいって言ったのは、その……ジェイってだらしなさそうだから、中が散らかりっぱなしだと思うの。それを片づけてあげようって思っただけだから。そういうことなのよ。うんうん」


 言い訳くさそうなことを言ってフェリクは何度もうなずく。


「おいおい。俺は今まで一人でなんでもやってきたんだ。掃除や洗濯は、ついこの間までお嬢様だったフェリクより上手いだろうな」

「そ、そんなことないわよ!」

「じゃあ、今度、ウチ来てやってみせてくれよ」

「望むところよ」


 あ、なんかナチュラルに家に誘っちまった。

 いや、そういうオカシなことをするつもりなまったくなく――って誰に言い訳してんだ。

 王都まで戻ってくると、フェリクは行く前よりも上機嫌そうに手を振って、王都の雑踏にまぎれていった。


「あいつは、一六、七の小娘なんだぞ。キュック」

「きゅぅ?」


 なんの話? とでも言いたげにキュックは小首をかしげた。


「男の家に一人行くなんて……俺だからいいものを」


 フェリクが簡単に男の家を訪ねるタイプではないことはわかる。だが、ふとしたときに疑ってしまうこともある。

 元は貴族の出だし、まだまだ世間知らずだ。口の上手い男に騙されてホイホイついて行ってしまわないだろうか。


「……いや、誰が誰の心配してんだ」

「きゅうきゅう」


 そうそう、とキュックが相槌を打つように頭を動かす。


「ウチに一人で来るのが問題ならアイシェも一緒にならいいか。うん。それがいい」


 フェリクは手のかかる妹みたいな奴で、酒場でときどきしゃべってたまに仕事を手伝ったり手伝ってもらったりするだけの仲。それだけだ。





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