鉱山の町のヒューイ7
ヘイルさんの葬儀が行われたのは、それから数日後のことだった。
厳かな雰囲気になるのかと思ったら、大宴会で飲めや歌えやの大騒ぎだった。
一番大きな骨つき肉はヒューイが食べていた。肉を食べ終えると、次は骨をガシガシと噛んでいた。
むしろ骨のほうが気に入ったようだった。
ヘイルさんの遺骨と遺品は、共同墓地に埋められた。
「ヒューイ、会うときは今度からここだぞ」
マードンさんが優しく語りかけていたのが印象的だった。
俺の仕事はというと、トラブルは一度もなく、合計で一〇回港町を往復した。
ロックの威容を見て攻めてくる気合の入った盗賊はいなかったらしい。
依頼が終わる前に、俺はマードンさんと数人を連れて鉱山のあの場所へ行くことにした。
「竜騎士殿。もういいんだ。わかったから」
「その言い草だと、信じてないしわかってもないでしょう。いるんですから。死体を見れば俺が言っていることが正しいってわかりますから」
俺が意地になっていると思ったんだろう。いや、実際意地になっている。見たし、いたし、倒したんだ。
「ミノタウロスはいる――この中のどこかにな。それでいいじゃねえか」
「全然よくないです」
あの道を塞いでいた大岩までやってくると、
「これがあの岩!?」
「斬られてるじゃねえか!?
「これを斬った?」
「ありえねえ」
と、みんなが口々に言った。
ようやく俺がありえないことをしたと信じる気になったらしく、小馬鹿にしていた雰囲気がいつしかなくなっていた。
あと少しであの大部屋に辿り着こうかというとき、その先の道がなくなっていた。
「あれ。おかしい……この奥に行けたのに」
完全に塞がれている。それどころか、知らない道がいくつもできていて、完全にわからなくなっていた。
「……帰ろ、帰ろ」
マードンさんが言うと、失笑のため息が次々に聞こえた。
なんでこんなことに……。
あ! ミノタウロスが地面を何度も叩いたからか!
あのせいで色んなところが崩落して、行けたばずの場所に行けなくなったり、なかった道ができていたりしてるのか。
俺たちが出たあと、徐々に崩れていったんだ。
悔しいが、証拠を示せなくなった俺は諦めることにした。
俺とフェリクの依頼されていた期間が終わり、王都へ発つ日を迎えた。
町のみんなが総出で見送りに来てくれると、ヒューイが走ってきた。
「ワフっ」
「ジェイ、ヒューイが何かくわえているわ」
「ん?」
ヒューイが運んできた何かをすっと地面に置いた。
葬儀の大宴会の日にガシガシと嚙んでいたお気に入りの骨だった。
「くれるのか?」
「ワン!」
「おいおい、こりゃ、ずいぶんな謝礼だな。ありがとう、ヒューイ」
「ワン」
「まだあるわ」
フェリクが拾って見せてくれたのは、翡翠の小石だった。
「魔石の一種だ。魔法効果を高めるとされている」
「すごいじゃない」
「どこで見つけてきたのやら」
ヒューイに目線を合わせて、俺とフェリクも別れを告げた。
呼び出したキュックに乗り鉱山町を飛び立つと、後ろからは、ずっとヒューイの遠吠えが聞こえていた。




