新しい召喚獣
新しく召喚獣となったオーガをロックと名付けた俺は、フェリクの別荘付近の森に来ていた。
ロックのパワーを確認するためだ。
ビンの手下たちが切り倒した大木を運ぶように指示すると、ロックは楽々と運んでみせた。
「おぉ……見た目よりさらにパワーがあるかもな」
「キュックじゃ持てないの?」
大木の運搬を見ていると、フェリクが言った。
「あれくらいになると、爪に引っかけられても空は飛べないんだ」
キュックの飛行速度は稀なものだが、その分軽い物や小さい物、運びやすそうな物に限る。
「おーい、ロック! こいつに乗せて引っ張ってみてくれぃ!」
現場で指揮を執るビンが、大きな戸板を指差している。
あれに大木を載せてロープをひっかけて引っ張らせるつもりらしい。
「るお……!」
言われた通りにロックは大木を戸板に載せていき、ロープを引っ張った。
ずりずり、と大木を載せた戸板が動いていく。
「お頭。余裕みたいでさぁ!」
「だな」
キュックで運べないものは、ロックに運ばせることにしよう。
そんな大荷物を運ぶ依頼なんて中々こないだろうが。
フェリクが別荘近くの空き地を振り返って言う。
「キュック、アレなら持って来られたわよね」
「アレでギリギリだ。到着したらへとへとだったし」
アレというのは、先日軍からもらった巨大な石槍のことだ。
王都に巨大な騎士の石像があったのだが、それがボロくなり危ないので作り変えられることになった。その際、石槍が不要になることを耳にして、もらってきたのだ。
大木を運び終えたロックに声をかけて、俺は石槍が置いてある空き地へ連れていく。
「ビンが召喚されるときは、きちんと服を着ているし剣も佩いているだろ?」
「そうね」
だからどうした、と言いたげなフェリク。
「間接的に触れていれば召喚に巻き込めるっていうのは、そこで思いついたんだ」
「ふうん……?」
話が見えないフェリクは、俺に先を促す。
ビンは召喚されるたび、素っ裸で現れるわけではない。
そいつが持っていたり背負っていたりすれば、道具や服も召喚できるってことだ。
「ロックに石槍を使ってもらう。――ロック、それを好きに振り回してみてくれ」
「るぉ」
俺たちにとってはバカでかい巨大な石だけど、巨体のロックが持ち上げると、体のサイズに合った槍に見える。
「るぉぉぉう!」
ブンブンブン、と振り回すと風が巻き起こる。
敵にあんなでかい石の槍をこんなふうに振り回されたらと思うと堪らないな。敵として立ち塞がったときの絶望感がすごい。
「よし。思った以上に使えるみたいだな。ロック、それはおまえの武器だ。存分に使ってくれ」
「るぉう」
「心強すぎるわ……!」
相当重い荷物を曳けて、でかい石槍を振り回せるオーガは、護衛役にも運び役にもぴったりだ。
体力が少し回復したキュックがこちらへやってくる。
ロックと目を合わせると、何か話しているかのように翼を動かしたり牙を覗かせたり鳴いたりしている。
「ふふふ。キュックは、ジェイの一番の友達だから取られると思っているのかしら」
「なんだ、キュック。そういうことかー?」
愛い奴め。
俺はキュックの背中を雑に撫でた。
「キュックさんは、お頭のこと大好きのようですぜ」
「ビン、わかるのか」
「ええ。なんとなくですが。お頭と召喚契約した者同士だと、感情を読み取るくらいはできるようでして」
召喚獣同士だとそういう繋がりができるみたいだ。
召喚魔法と契約による召喚獣への影響は、いろいろと奥が深いらしい。
ちなみに、召喚時に必要な魔力をキュックが一〇とするとロックは六くらい。
出し続けてもそこまで苦ではないが、長時間召喚し続けられるタイプの召喚獣ではない。
ちなみに、ビンだと必要魔力はキュックの二〇〇分の一くらいで、ほとんどコストを感じない。
それからロックは、またビンの土木作業の指揮下に入ってもらい大木の運搬をさせた。
「ロックさんパねぇ!」
「あんな重たいもんを軽々と……!」
「おかげでむちゃくちゃ作業が捗りましたぜ!」
ロックを見上げる作業員……もといビンの手下たち。
「るぉう……」
なんとなく、照れくさそうなロックだった。
「か、肩に乗っても、いいか……?」
「お、オレも……」
作業が終わったあと、手下たちがロックに申し出ていた。
許可を求めるようにロックが俺をちらりと見てくるので、うなずいてやった。
「るぉ」
ロックがしゃがむと、
「イヤッホォーイ!」
いい年こいた男たちが、ロックの肩に乗ったり、腕にぶら下がったりしてはしゃいでいる。
でかくて強い存在っていうのは、男の憧れみたいなものだからな。
「何はしゃいでるのかしら」
フェリクは首をかしげていた。
「でかくて強いっていうのは、正義だからな」
「はぁ……?」
「フェリクの嬢ちゃんには、まだ難しかったかぁ」
ビンもわかるらしく、したり顔をしていた。
「何よそれ。二人して」
不機嫌になるフェリクをよそに、ロックに群がる男たちが歓声を上げている。
「あのバカでけえ槍で戦うんだよな……!?」
「さっき見たんだが、軽々と振り回してたぜ……!」
「やっべぇ。頼もしぃ~」
口々に男たちが称えると、
「る、るお……」
また照れくさそうにロックが声を漏らした。
新しい召喚獣は凄まじいパワーを持つ照れ屋さんらしい。
「ロック対フェリク&ビンと愉快な仲間たちで戦闘の訓練もできそうだ」
「お頭……あんなのと訓練でも戦うなんざ、オレ様ぁチビっちまいまさぁ」
青い顔をしたビンが首を振っていた。フェリクも同意らしく激しく首を縦に振っていた。
「オーガくらい相手にできないのか」
「何よ、『くらい』って」
やや引いているフェリクが半目をする。
「駆け出しの私でもオーガは知っているわ。もし出現情報が出たら周辺数キロの住人を避難させるくらいの、超ぉ~~~ヤバい魔物じゃない! 二年前に討伐したって話を聞いたけれど」
「二年前なら、オレ様が見かけたヤツかもしれねえ。村がものの数分で更地になりましたぜ? 見つからないように遠くから見てるだけだったが……ありゃ災害レベルだぜ……」
「二年前だと、たぶん俺が討伐したオーガだな」
「「……」」
「だからロックも訓練相手にちょうど」
「「いいわけないでしょ」」
いやいやいや、と二人して手を振った。
冗談ではなく、本気でいいと思ったんだが、めちゃくちゃ拒否された。




