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Fランク召喚士、ペット扱いで可愛がっていた召喚獣がバハムートに成長したので冒険を辞めて最強の竜騎士になる  作者: ケンノジ


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もっと話がしてみたかった


 思わず俺は舌打ちをする。

 だから詳細を伏せていたのか――!


 変貌したスウェイの姿は、魔物オーガそのものだった。


 だが、俺が知っているそれよりもサイズがデカい……!


 筋骨隆々とした体格に城塞の壁と同じくらいの背丈をしている。

 殴ればそれだけで壁を崩せるだろう。


 城塞が騒がしくなり、かがり火を持った兵士が動いているのがわかった。


 大して強くもない、特別に昇格させただけの兵士に、謎の新薬を持たせて城塞で使わせる――。


 今にして思えば、成功したら何がしたいかスウェイは語らなかった。


 だから、きっと。

 スウェイは元に戻らないんだろう。

 それか、手段を知っていても戻るつもりがないのか。


「そういうことかよ」


 スウェイがここで暴れると、前線の部隊に間違いなく伝わる。

 もしくはそういう段取りで攻撃準備を整えているのかもしれない。

 化け物になったスウェイを犠牲にして。それだけで連合軍側は楽に城塞を落とせる。


「クソ」


 道理で報酬が高いわけだ。

 スウェイは復讐だと移動中口にしていた。


 魔王軍を好ましく思っている者のほうが少ないだろうが、その復讐を見届けてやろう。

 こうなることを覚悟しての作戦参加だっただろうし。


 スウェイが歩くたびに、地響きが崖の上にいる俺のところまで伝わる。

 しゃがむと、何かを拾った。


「……あれは」


 スウェイが持っていた鞄だ。

 オーガ化した今では爪先ほどに小さいものだった。


 それをスウェイは城壁の上に置く。かがり火のいくつかが鞄を置いた場所に集まっていく。


 ……様子がおかしい。


 城壁の上にいる見張りの兵士なんて一掃できるのに。

 蹴り上げれば城壁なんて容易く蹴り壊せるだろうに。


 スウェイは何もしないし、敵兵もスウェイに何もしない。

 出発前に絡んだきた酔っ払い三人とスウェイの反応が脳裏をよぎる。


 ……嫌な予想が浮かんだ。




 おい。おいおいおいおい。



 復讐って、もしかしてそっちか? そっちに対してなのか――?




 スウェイの咆哮が攻略作戦開始の合図だったようだ。

 城壁のはるかむこうでは、月光を浴びた連合軍の部隊が城塞へ移動を開始しているのが見えた。




 ◆スウェイ◆


 バカにされ、殴られ、足蹴にされる日々だった。


 親もなく兄弟もいないスウェイが、衣食住を求めて入った軍では、毎日辛いイジメが待っていた。


 冒険者になろうと思ったこともあったが、武器を上手く扱うこともできず、魔法の才能もまるでなかったスウェイは、最初から冒険者は選択肢に入れていなかった。


 悪さで金を稼ぐ度胸もなく、野盗のような真似をする勇気もなかった。


 他でどう暮らしていけばいいのか、糧を得ればいいのかもわからず、軍を抜けることもできなかった。


 殴られず蹴られなかった日は、とてもいい一日。

 食事がないのは、普通の一日。

 同室の三人が嫌がらせをしてくる日は、最悪の一日。


 事故を装って殺してやろうと思ったが、殺せても一人が限界。

 もっと多くを殺せることはできないのか。


 人間なんて滅べばいい。


 その手段や方法を妄想することで、日々の現実から心を守っていた。


 そんなある日のことだった。

 スウェイは上官の使いで軍施設の研究室まで書類を運んでいた。

 そのときに、通りすがった部屋から会話が聞こえてきた。


「これがあれば、意識を保ったまま怪物化することができる」

「我々の研究成果がようやく形になったな」


 研究者何人かが、互いを労っているところだった。

 兵器らしき物を作っていることはわかったが、詳しくはわからなかった。


 それがあれば、あいつもこいつも、全員殺せる――。


 いつものクセで妄想していると、持っていた書類を落としてしまった。


「誰かそこにいるのか――!?」


 スウェイは慌てて逃げた。

 おそらく、それで自分のことを知られたのだろう。


 数日後のことだった。


「スウェイ君、君は選ばれた」


 上官よりもさらに上席の中佐に呼び出され、そう言われた。

 作戦概要を詳しく説明された。

 新薬のテスターとして苦戦しているフラビス城塞へ向かってほしいとのことだった。


「曹長への特進。特別報奨金として一〇〇万リンの支給をしよう。決行日まで自由にしていてくれたまえ」

「それは嬉しい限りです」


 あの薬を自分が使える。

 スウェイはふたつ返事をした。


 元に戻れるかどうか、中佐は言及しなかった。

 それが可能だとしても戻るつもりもなかった。


 自分が特別だから選ばれたのではない。

 ただの口封じと人体実験がしたかっただけだろう。

 下等兵一人で戦況が打破できるのであれば、儲けもの。

 それくらいの感覚なのだろう。


 ああ、やはりダメだ。滅ぼさないと。この手で。


 決行日を待っていると、スウェイのことをどこで聞きつけたのか、接触してくる人物がいた。

 魔王軍の工作員だと彼は言った。


 スウェイは彼の要求に従った。目的が同じだったからだ。


 そして決行日が決まり、運び屋と呼ばれる青年に引き合わされた。

 いい人だった。

 もっと違う形で出会いたかった。

 もっと話がしてみたかった。

 顔を合わせれば適当な挨拶をして、世間話をするような、そんな仲になれたかもしれない。


 だが、遅かった。

 決意は揺るがなかった。


 当日、研究資料と試薬品のすべてを強引に盗み出したスウェイは、フラビス城塞へ向かった。




 ◆ジェイ・ステルダム◆


 思った通りだ。

 どういう経緯があったかわからないが、スウェイは魔王軍側に手を貸すつもりらしい。


 連合軍の部隊は、あの巨大オーガが城塞をめちゃめちゃにすると信じて進軍を続けている。


「少ない犠牲で城塞攻略どころか、あれじゃ全滅する」


 城塞内部では、巨大オーガを目の当たりにした敵軍兵士の士気が急上昇している。


「キュック、高級肉を食わせてあげられると思ったんだが、悪ぃ。成功報酬のほうは無しだ」


 キュックに言うと、残念がるように小さく首を振った。


「……スウェイを止める。行くぞ、キュック」


「キュォォォォ――――――――ッ!」


 夜空に向かって白銀の子竜が吠えた。



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