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大空へ

「戻れ(バック)」


 召喚魔法を解除すると、シュン、とキュックの姿がなくなった。


「……」


 俺が契約したのは、ドラゴンだったのか……?


 キュックは俺がはじめて呼び出した召喚獣だ。

 何度やっても、他の魔物が現れることがなかったから、俺は召喚士としての才能はないんだと諦めていたくらいだ。


 おかげで剣だけでSランク冒険者にまでなれたわけだが。


 召喚魔法とは、亜空間を作りそこから契約した契約獣を出し入れする、いわば収納魔法のようなものとされている。

 人によっては特定の存在を呼び出したり戻したりする転移魔法と考えている人もいるし、精神を具現化させたものが召喚獣であると考える人もいる。

 正直、わからない部分の多い魔法でもあった。


 ギガスライムの壊れた核を革袋に入れると、俺はギガスライムの出現と討伐の報告をするため、またギルドへと戻った。


「お待たせいたしました。ステルダム様、今日はどのようなご用件でしょう?」


 顔見知りの受付嬢が応対してくれた。


「王都城外の森に、ギガスライムを発見して討伐しました。その報告に」


 俺はカウンターに革袋を載せた。


「ギガスライム……ですか?」

「このへんじゃ見ないでしょう。どこからか流れ着いたのかもしれません」

「ご報告ありがとうございます。注意喚起させていただきます。……ギガスライムの討伐の証は、S級冒険者のステルダム様のものでしたら確認は不要かと思うのですが」


 申し訳なさそうに言うので、俺は手を振った。


「いやいや。気にしないでください。他の冒険者の目もあるでしょう。中身を確認してください」

「ご理解いただけて幸いでございます。少々お待ちくださいませ」


 丁寧に頭を下げた受付嬢が革袋を持って奥へと消えていく。

 しばらくすると、受付嬢はひと月分の宿と飯に困らないほどの報酬を持って現れた。


「こちらが報酬です。ご確認くださいませ」


 俺はお礼を言ってギルドをあとにした。

 臨時収入があったので、今日は贅沢ができそうだ。


 行きつけの食堂にやってきた俺は、普段食べない高い料理を食べながら、キュックのことをまた思い出した。


「一体なんなんだろうな、あいつは」


 ドラゴンなら最初からそうだって言ってくれりゃいいのに。

 召喚士としての俺の力も、以前より上がっているからってことか?


「どうしたんですか?」


 看板娘のアイシャが小首をかしげる。


「ああ、いや。こっちの話」

「ジェイさん、恋のご相談ならいつでも待っていますから!」


 アイシャは快活そうな笑顔で言うと俺は苦笑した。

 あいつって言ったのが聞こえていたのかもしれない。


「それはしばらくなさそうだな」


 ふと足下を見ると、冒険証が落ちていた。


「あ、これ、落とし物」

「あ。さっきこの席で食事していた冒険者さんのかもしれません。今度来たら、渡しておきますね」


「それでもいいけど、冒険証は冒険者である証で、クエストを受けたり報酬を受け取ったりするのに必要な物だ。誰かわかれば、渡してあげられるんだけど」


 冒険証にある名前に見覚えはない。

 Eランクか。


「ゴブリン狩りのクエストを受けたって言っているのが聞こえましたよ」


 三人組の冒険者だったとも教えてくれた。

 ここらへんでゴブリン狩りのクエストであれば、城外の平原のほうだろう。

 キュックで試したいこともある。それをするには、王都城内じゃ目立つ。


「じゃあ、俺が預かるよ。たぶん、見つけられると思うから渡しておく」

「ありがとうございます、ジェイさん」


 にこりとアイシャは笑顔になった。


 のんびり飯を食べるはずだったが、俺の贅沢よりこっちのほうが先だろう。


 俺は食事を済ませ代金を支払う。

 忘れ物を渡すべく城外へ向かった。


召喚(サモン)


 召喚魔法を発動させると、淡い光とともにあの子竜の姿が形作られた。

 さっきの進化版キュックが現れた。トカゲ状態ではなかった。


「きゅぅぅ!」


 かぷ。

 キュックに頭ごと噛まれた。


 噛まれたというより口に含まれた。

 ぺしぺし、と叩くとすぐに口を開けてくれた。


「ずいぶんご機嫌なことしてくれるな」

「きゅう」


 たぶん、じゃれてきただけなんだろう。

 目は無邪気そのもので、悪意をまるで感じない。


「この翼って、飛べるやつ?」

「きゅ?」


 後ろへ首を回すキュックは、今はじめて気づいたような顔をしている。

 翼がついている自覚なかったのかよ。


「俺、乗せられる?」

「きゅぅー?」


 今まで飛んだことないからわからないよな。


 ばさばさ、と翼を動かすと、ふわりと浮いた。

 はじめての感覚が嬉しいのか、「きゅー!」と鳴き声をあげてあちこちを飛び回りはじめた。


 しばらくして戻ってきたキュックに屈んでもらい、背に乗ってみた。


 馬に乗るよりも視線が高く開けている。ちょうどいい場所に背びれがあったので、それに掴まった。


「いけるか?」

「きゅ」


 心なしか顔をキリリとさせたキュックは、翼をはためかせ再び空へ舞い上がった。


 キュックがさっき飛び回っていた気持ちが少しわかった。

 遮る物が何もない視界に、空と太陽と風だけがここにある。


「めちゃくちゃ気持ちいいな」


 俺はゴブリンが多くいそうな平原を指差し、キュックに飛んでもらった。



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