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ついでに


 キュックに乗って飛び回っていると、ようやく連合軍の旗を見つけ、その中でも最奥に位置している幕舎を目指した。


 キュックのことを騒がれても困る。

 あと、戦闘と飛び回ったせいでバテてもいたので、陣地から離れた地点に着地し、召喚を解除しキュックには戻ってもらった。


 キュックは、速力においては他の追随を許さないが、長い距離を飛び続けられるスタミナがない。背中に載せられない場合は、爪で引っかけられるように荷物を包む必要がある。


 この二点が乗っていてわかったことだった。


 少量で軽量ならまず間違いなくキュックは圧倒的に便利で速い。

 だが物によっては、依頼を断らなくてはいけないかもしれない。

 そうなると、ただの冒険者に依頼するのと変わらないな。


 幕舎に近づくと見張りの兵士に俺は用件を伝えた。

 すぐピンときたようで、案内をしてくれた。


「参謀長閣下、魔法解析の書類を運んで参った男がいます」

「あぁ、入りたまえ」


 兵士に入口を開けられ、俺たちは中に入った。

 そこには、簡易式のテーブルの前に座る老将校がいた。

 白髪の薄くなった頭に、丸い眼鏡をかけている。


「こちらを」


 俺は鞄に入れていた書類を取り出す。


「ありがとう。想像以上に早い到着で助かった。ハロエム准将だ」

「運び屋をやっているジェイ・ステルダムといいます」


 手を差し出されたので俺は握り返した。

 参謀長が書類を確認していると、報酬の手紙を発見し苦笑する。


「一〇〇万? さすがに吹っかけすぎではないか。たしかに迅速ではあったが」


 それまで黙っていたフェリクが、おほん、と咳払いをした。


「閣下。お言葉ではございますが、我々は、戦線が変化していることも知らず、第四軍団陣営を探し回ったのです。そのアルアという方に書類を送ってからどれほど経ったのでしょう?」


 少し考えるような間が空くと、参謀長は肩をすくめた。


「いいだろう。このお嬢さんの弁にも一理ある。支払おう」

「ありがとうございます」


 報酬は揉めごとになるから、今後は、受取人の了承を得てからにしないといけないな。

 秘書のような事務官を呼びつけると、お金を準備するように言いつけた。


 俺がフェリクを見るとしたり顔でにんまりと笑った。


 頭をぽりぽりとかいた参謀長は、うんざりしたように言う。


「旧イーロンド家を拠点としている小隊規模の魔物がいてね。ガーゴイルを中心とした奴らで、オークもいるのだが、これがなかなかどうして厄介で戦線が膠着しているんだ」


 ……ガーゴイル? イーロンド家を拠点にしている?

 俺とフェリクは顔を見合わせた。


「あの、そのガーゴイルというのは、魔法を放ちますか?」


「ああ。よく知っているね。空を飛ぶし、皮は堅くて分厚い。矢が効かないのに魔法を駆使して攻撃をしてくる。おまけに地上からは巨体のオークが部下を率いて攻め寄せてくる。こちらから強引に攻撃すれば犠牲が多数出る。その前線拠点がなかなか攻略できなくて――」


「倒しましたよ、来る途中」


「ん?」


 顔を上げた参謀長は、ズレそうになった眼鏡を押し上げた。


「倒したというと? 何を?」

「そのガーゴイルです」

「はぁ?」

「ついでだったので」

「ついで!?」


 参謀長は何に驚いていいかわからないのか、目を白黒させていた。


「が、ガーゴイルだぞ。物理防御力が高く、魔法を放ってくる空飛ぶ小型要塞のような、あの」


「はい。まさしくそれです」


 ズルリ、とまた眼鏡がズレた参謀長。


「し、信じられん……」


「巨体のオークは、大剣を持っていませんか?」

「ああ。あのオークも非常に厄介で、剛腕で先陣を切り部下を鼓舞する難敵だ。…………なぜ大剣を持っていると知っているのかね」


「そのオークも倒したんです。ついでに」

「ついでに!? その二体を倒すということは、あの拠点を落としたも同然だ……!」


 兵士が一人息を切らせ幕舎に駆けこんで来た。


「イーロンドの屋敷近辺で、ガーゴイルの死体を発見いたしました! 何者かによって、斬られているようです!」


「斬られている……? 一体どんな芸当を……!」


 参謀長は、俺を見て、腰の剣に目をやった。

 状況を整理するためその兵士を下がらせると、事務官が報酬を運んできてくれた。


「閣下、一〇〇万リンをご用意いたしました」


 ぷるぷる、と震えた参謀長は声を上げた。



「た、足らんわぁ――――――――ッ!」



「しかし一〇〇万リンを用意せよ、と……」


 ぽかんとしている事務官に参謀長は言った。


「状況が変わった!」


 参謀長は、ガーゴイルと巨体オークを倒したことを大きく評価してくれるらしい。


「ステルダム君、いくらだ! いくらほしい!? 言ってみたまえ。さあ」


「……それじゃあ、三〇〇万とか……?」

「い、いいのか、たったそれだけで!?」


 取り乱しまくりの参謀長は、ズレた眼鏡を戻すことも忘れて俺に詰め寄った。

 俺が掲示した三〇〇万というのは、かなり安かったらしい。

 これ以上値を上げても、あとで怖い。

 三〇〇万はかなり吹っかけた金額なので、これ以上はもらえない。


「十分です」

「よぉぉぉし、君、三〇〇万だ。すぐに準備を」

「は」


 事務官はすぐに出ていき、大金を持って戻ってきた。

 二人で確認すると、たしかに三〇〇万あった。


「たしかにいただきました」


 俺は三倍になった報酬を鞄に入れる。


「何から何までずいぶんと世話になってしまったな。依頼をしたいときはどうすればよい?」

「王都の二番通りにある食堂によくいます。そこに来ていただけたら。いなかったらアイシェという店員の女の子がいるので、彼女に伝言をお願いします」


「わかった。何かあったときはよろしく頼むよ」

「こちらこそ」


 また俺は参謀長と握手を交わし、フェリクとともに陣地をあとにした。



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