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あの時の




 ポゴ、ボグウ、と他のオークたちの鳴き声がどんどん近づいてくる。


「キュックは?」

「呼んだのだけれど――」


 俺じゃないと言うことを聞かないのか? いや、フェリクの言葉も理解していたし、反抗するような態度は一度として取ったことがない。


 窓から空を仰ぎ見ると、屋根にいたはずのキュックは、隼のような俊敏さで空を鋭角に飛んでいる。


「キュック……?」


 目を凝らしていると、もう一体空を飛んでいる何かがいる。

 鈍色の体色をした翼を持つ魔物――ガーゴイルだというのがすぐわかった。


 キュックがガーゴイルを追い払おうと戦っていた。ここから見た感じでは、ダメージを負った様子はない。


「キュ――――ック!」


 呼ぶと、ギュン、と方向転換をしたキュックが、急降下して窓の外までやってきた。

 フェリクを先に乗せ、俺も続いて背に乗った。


「あいつ……あいつだわ。あの空を飛んでいる魔物! 尻尾に傷がある。間違いないわ」

「あいつって?」

「襲撃された夜、魔物を率いてやってきたの」


 ガーゴイルが雄叫びを上げた。


「ゴォォルァァァァァァァ!」


 翼をはためかせ、こちらへ飛んでくるガーゴイル。

 その両手に魔法陣が浮かぶと、薄紅色の魔法を放ってきた。


「きゅぉ」


 持ち前のスピードでキュックがあっさりとかわす。


 ガーゴイルは、分厚く固い外皮で守られており、物理的な攻撃は当たってもかすり傷程度にしかならない。

 弓矢でどうこうなる相手でもない。


 一度倒したことはあるが、あの外皮は防刃性が高いのかダメージを与えられるものの、最終的に持久戦となってしまった。


 物理無効とされるギガスライム以上の難敵だった。

 しかも今は空。全身の力を使った攻撃ができない。


「フェリク、魔法の準備を」

「っ! わ、わかったわ」


 ガーゴイルがまた放った魔法をキュックが宙を旋回しながら次々にかわしていく。


「当たってッ! フレイムショット!」


 ゴォ、と放った火炎弾がガーゴイルに直撃した。


「ゴルォ……ッ!」


 煙りが晴れると、ガーゴイルは首を振ってこちらを睨んだ。


「効いてない……?」


 と、思いそうになるが、向こうの移動速度が少し遅くなっている。


「いや、効果はある。続けるんだ」

「ええ!」


 フェリクは、俺の指示通り火炎魔法を放ち続けた。

 命中率七〇%といったところか。

 それも、徐々にガーゴイルの動きが鈍くなってきたので、当たりやすくなっていた。


「ゴウオ、ゴウオ、ゴウオォォォォ~」


 ガーゴイルが、先ほどとは違う鳴き方をした。

 仲間を呼んだな?

 すぐに戦闘を聞きつけた魔物たちがたくさん地上に集まりはじめていた。


 俺が召喚以外の魔法を使えれば、もっと楽に戦えるんだが――。


「このままじゃ敵がどんどん集まってくる。一か八かやるぞ」

「え、何を?」


 キュックは、フェリクの魔法の弾速よりも速い。


「フェリクは、魔法を放ったらキュックにしがみついてくれ」

「え、ええ……」


 話が見えないだろうけど、詳しく説明している暇はない。


「何するか知らないけれど、いくわよ――! フレイムショット!」


 火炎の弾が宙を駆ける。

 またか、といわんばかりのガーゴイルが、翼で防御する体勢に入った。


「キュック!」

「きゅぉぉぉ!」


 ガーゴイルへ向かってキュックが全速力で飛んだ。


「きゃっ」


 後ろでフェリクの小さな悲鳴が聞こえた。

 ぐんぐんキュックは火炎弾と距離を詰めていく。俺は鞘から剣を抜いた。

 フェリクのフレイムバレットがガーゴイルの翼に直撃した。


 その瞬間。


 俺は身動きの取れないガーゴイルに向かって斬撃を放つ。


 それは魔法効果が持続するコンマ数秒の時間。


 火炎魔法と同時の斬撃は、俺が狙った通りの攻撃効果を生み出した。


 炎の効果を纏う白刃がガーゴイルの翼と筋を両断。

 振り抜いた刹那、ガーゴイルの首が飛び逆さまになって体が落ちていった。


「よし。なんとか上手くいったな」


 俺はひと息をつき胸を撫でおろした。


「それならそうと早く言いなさいよ」……とでも言いそうなフェリクだが、何の反応もない。


「きゅ? きゅぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 キュックが慌てたような声を上げた。

 振り返った場所に、フェリクがいない。


「あいつどこに――。え? ああああああああああああああああああ!?」


 先に気づいたのはキュックだった。俺が叫んでいる間、ひゅーーーーーん、と落ちていく物体目がけて全速力。


「いやぁぁぁぁあああああああああ!?」


 フェリクが悲鳴を上げながら落ちていた。

 というか、落ちている真っ最中だった。


 真っ逆さまに落ちているフェリクのそばまでキュックが辿りつく。


「フェリク! 手を!」

「っ――!」


 手を伸ばしたフェリクを俺ががっしりと掴んで引き上げた。


「あ、あぶねえ……。少し気づくのが遅れたらぺしゃんこだったぞ」

「あ、あんなことになるなんて……掴まっていたのに振り落とされたわ……」


 あの悲鳴のときらしい。


「キュックのおかげだ。ありがとう」

「きゅーぉ」


 どういたしましてって言ってる気がする。


「あのガーゴイルは?」

「ほれ。あそこ。無残な姿に」

「そうしたのはあなたでしょう?」


 くすくすっとフェリクが笑う。


「落ちている最中だったけど、見えたわ。魔法攻撃と同時に剣で攻撃するなんて、どういう発想?」

「まあ、経験からくるとっさの思いつきだ」


「……すごい発想。特筆すべきはそれを成功させてしまう剣の腕よ」

「上手くいった。運がよかったんだ」


 褒められるのに慣れてないので、俺は早々に話題を変えた。


「ブローチ、見つかってよかったな」

「ええ。屋敷もオークたちのねぐらになっていたけれど、残っていてよかった。私一人では何もできなかったわ」

「いいよ、別に。ついでだからな」


 地上では魔物たちが大騒ぎをしているが、攻撃が飛んでくることはなく、俺たちは無視してその場を去っていった。


「本当にありがとう」


 つぶやくようにお礼を言ったフェリクが、俺の腰に腕を回して抱き着いた。


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