鏡の中のシンデレラは魔法使いに恋をした
『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品です。
テーマは『鏡』。
ストレートど真ん中のラブストーリーをお楽しみください。
「大丈夫?」
「うぇ!?」
いきなり聞こえた声に驚いて顔を上げて、すぐ後悔した。
こんな涙でぐしゃぐしゃの顔、誰にも見せたくなかったからビルの間で泣いてたのに……。
「入って。ここ僕の店だから」
「え、え……?」
手に持った袋をポンとゴミ箱の上に置くと、その人は私に手を伸ばした。
その優しい声に、私は思わずその手を取ってしまった……。
お店は美容室だった。
詩杏と名乗った男の人に椅子と温かいお茶を勧められて、私は聞かれるまま泣いていた事情を話した。
「へぇ、地味だからってフラれたんだ。酷い男だね、そいつ」
「い、いえ、地味なのは事実ですし、あの人の格好良さと私は釣り合わないなって……」
「悔しかったり嫌いになったりしないの?」
「好きでいた時間は幸せでしたから、そういう気持ちはないです。残念では、ありますけど……」
「……そう。今でも好きなの?」
「……はい」
「じゃあ手助けしてあげる」
「え?」
「任せてくれたらとびっきり綺麗にしてあげるよ。僕これでもプロだから」
「え、あの、でも……」
「さぁどうぞシンデレラ。王子様も虜の美しさを貴女に」
同情なら断っていたと思う。
でもそんな楽しそうに言われたら……。
「じゃあお願いします」
「ありがと。絶対後悔させないから」
「こ、これが私……?」
鏡の中の美人が目を丸くしている。
本当に魔法みたい……!
「さ、写真に撮って、そいつに送ってあげるといい」
夢見心地で言われるまま送ってみる。
わ! すぐ返信来た!
……『誰この美人! 紹介して!』か……。
私って言ったら付き合えるのかな……。
でも……。
「どうだった?」
「……美人って言ってくれました」
「でも君とはわからなかっただろう?」
「……はい」
「どう? まだ付き合いたい?」
……そうか。手助けって、付き合う方じゃなくて、気持ちを切り替える方……。
「……いいえ。もっと綺麗な人がいたら、すぐ心変わりするでしょうから……」
「賢いね。手を尽くした甲斐があるよ」
「あの、どうして初対面の私にここまでしてくれるんですか?」
私の問いに、魔法使いはにっこり微笑んだ。
「この仕事をしてるとさ、恋愛の愚痴を山程聞くワケ。でも君は『好きでいた時間は幸せ』って言った。泣く程辛いのにそう言える子は何とかしてあげたくてね。それに」
ウインクに心臓が跳ねる!
「僕好みの髪型と化粧がこんなに似合う子、そんな馬鹿には勿体ないから」
ドキドキが収まらない!
今度の魔法はもう解けそうにない……。
読了ありがとうございます。
キーワード全制覇して、一番ポイントがついたのが、「サイコロ十個振って全部六でしたら結婚して差し上げますわ」だったので、二匹目のどじょうを狙ってみました。
さて、切り株を見守る作業に戻るか……。
ちなみに詩杏のフルネームは『毘射手詩杏』。
美容師のbeauticianまんまです。
出ませんでしたが主人公は『相葉夏楽』。
地味のsoberと、素のままのnaturalから作りました。
無駄に凝りすぎ? ははっ、それな。
また思い付いたら何か書きますので、どうぞよろしくお願いいたします。