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第二章 龍神の剣の世界へ(三)

ゲームをやって宗兄の調査を開始する進。だんだんとゲームの世界にはまっていく。ある日、学校へ行くと…



 教室に入ってカバンを下ろすと、さっちんと薫が近づいてきた。

 「顔色悪くない?」

 とさっちんが言ってきた。

 そんなに悪いだろうか。

 「ああ、変な夢見たからかな」

 「昨日なんかやってたの?」

 と細い眉を八の字にさせるさっちん。

 「え、何で」

 「それが原因で変な夢見たとかじゃない?」

 「うーん……ま、それはないな」

 ゲームをしていたと言うと、何かうるさく言われそうなので言わずにおいた。

 「ところで、山んばを見たって人はいるかな?」

 「山んば?あの昔話の?あんたどうしたの?」

 怪訝な顔をするさっちん。

 「それはないみたいよ」

 と薫。意味が分かったようだ。

 「龍神神社の周辺で見たかって話でしょ」

 と続ける。

 「さすが秀才。隣りの人と違って勘がいいねー」

 「そんなのわかるわけないでしょ!それにさすがに山んばはないよ。ねえ?」

 と薫に同意を求めるさっちん。

 「けどオオカミみたいなのは見たって話はあるみたい」

 とフォローしてくれる薫。

 「どうせネットの話よ」

 とさっちん。

 「オレもそれは読んだよ。見たっていう人の中で写真アップしてる人、いないかな」

 「私はそういうの見たことないな」

 と薫。

 「日本にオオカミなんていないわよ」

 と不機嫌そうなさっちん。

 「昔はいたけどね。ニホンオオカミが。絶滅したけど」

 と薫が付け足す。

 「それは知ってる。なあ、薫。大和狼って名前のオオカミはいたかな?」

 「それは知らないけど…」

 「いるわけないでしょ、そんなもん!何作ってんのよ。あんた、妄想で小説でも書く気?」

 「まあな…」

 いや、書く気はない。

 「ところで…興味ありそうだから持ってきたんだけど…」

 そう言って、薫はセーラー服のポケットからきれいに折りたたまれた紙を取り出した。

 「何それ」

 さっちんが薫の手元に顔を寄せる。

 薫が紙を広げていく…。

 「弟が前に描いたのを持ってきた」

 そこには黒いこうもりのような羽を持つ首のない鳥が描かれていた。お腹に顔が描いてある。毛の中に無機質な感じの目と口が描かれていた。何かかわいい。

 「弟が襲われたのはこれか」

 「うん」

 見れば見るほどゲームに出てきそうなキャラだ。

 「写真に撮っていい?」

 「いいけど」

 オレはスマホを取り出して撮影する。

 「よお、お前ら何やってんだよ、何だこの変な絵はー」

 気づくと、いつの間にか金寺かなでらがいた。金に染めた髪をアイパーにしている不良である。中坊から同じ学校になったが、短気なので評判はよくない。うちの学校は不良自体が少ないので、目立っていた。よく人に後ろから膝カックンなどのちょっかいを出しては嫌われていたし、けんかも多い。

 「神社で目撃されてるんだ、最近。金寺はこういうの見たことないのか」

 とオレに覆いかぶさるように紙を見ている金寺の機嫌を損ねないように、いちよう話をふってみ る。

 「知らねえな」

 「そうか。見たら教えてくれ」

 「いるわけねえだろ、こんなもん」

 「わからんぞ、それは」

 「いない、いない」

 金寺がそう言うので何だかイラっと来た。桑田と言い方が似ていたからかもしれない。

 「いるかも」

 「いねえ」

 「何でそんなことが言えるんだ。わからないだろ、見てないんだし」

 オレが妙にこだわるので、さっちんと薫が意外そうにして経過を見ている。

 「こんな鳥がか?いたらお笑いだな」

 「見たってのもいるけどな」

 となおも食い下がるオレ。 

 「そいつはバカか?」

 「普通だけど?」

 「何かむかつくな、お前」

 「いるかもしれんぞ」

 「こんなもん見てる暇があったら彼女でもつくれ」

 「お前に言われたくねえ」

 「何だと」

 「何だ」

 にらみ合うオレと金寺。

 「やめなよ~、もうっ。金寺君たちぃ~」

 と、戸惑ったようになぜかいつもより高い声で言うさっちん。あれ?お前何かキャラ作ってないか?いつももっとぶっきらぼうに言うよな?これはあれか…必殺「かまととぶりっ子」だな。

 薫は不安そうに金寺を見て黙っている。まあこっちは普段通りのキャラか…。

 緊張感が高まる中、このようなどうでもいいことも頭をよぎる。

 「崎山ぁ、前から生意気だとは思っていたんだ」

 「オレもお前にはむかついてたんだ」

 「んだと、おらぁ!」

 金寺のこぶしが飛んできたので反射的に避ける。座っていたのでうまく避けられない。後ろに倒れそうになったが、かすっただけで済んだ。

 意を決して立ち上がるオレ。

 金寺は腹に蹴りを入れてきた。後ろに腰を引っ張られるような体制になりながら両手で奴の足をキャッチする。

 そしてそのまま上に持ち上げる。

 「うおっ」

 今度は金寺が倒れそうになり、近くの机につかまって体をささえる。それからオレの服をつかもうと手を伸ばす。

 オレはもう片方の足を持つことにした。

 両手で持ち上げていたが、片手を下ろして金寺の裾を素早くつかんで引き上げる。

 「このやろう!」

 「あ!」

 金寺は近くの机に手をついているのでひっくり返らない。

 代わりに足でオレの顔を蹴ってきた。オレの顔に命中する。

 「ぐあっ!」

 と叫ぶオレ。顔を肩に寄せる。鼻血が出ていたが、手でぬぐったらやばいのでそのままだ。

オレは奴の体に蹴りを入れるがうまく入らない。

 「や、やめなよ、金寺!」

 と薫が注意する。

 「金寺くぅーん。やめなよぉー」

とそのあと妙に甘い声でさっちんが言った。いちよう注意のつもりなんだろう。お前というやつはこんな時でもそれか…。お前にとってそのぶりっ子はクラスのポジションを維持するうえでかなり重要なんだろうな。もうオレはお前という人間が信じられんわ。いや、お前なりに精一杯やってくれているのだろう。それならそれでいい。

 金寺がオレの服をつかんできた。慌てるオレ。

 「んだ、こらぁああああ!」

 威嚇するように大きい声を出してきた。

 金寺の位置を机からずらして落とすと、オレは金寺の体に覆いかぶさろうとする。金寺が蹴りを入れてこようとする。何というか、こいつは不利な状態なのに動作が素早い。やはり喧嘩慣れしているのだろう。動作に迷いがないし、判断が早いのだ。考えなくても次に何をすればいいのかわかっている感じがした。

 オレは素早く奴の片足を踏んづける。足を曲げさせないようにするためだ。そして体を倒す。だが、馬乗りになることはできない。金寺がもう片方の足でオレを蹴って来るからだ。

 「誰か先生呼んできて!」

 と薫の叫び。

 「わかった!」

 と遠くで誰かの声がした。

 「おい、やめろよ」

 「何やってんだ」

 と周りで声もし始めた。

 オレは体を伸ばした状態で金寺の体の上に覆いかぶさる形になった。その状態で金寺の顔を殴った。なるべく早く拳を動かす。

 「ぐああっ、てめえ、ぐあああっ」

 金寺も寝ながら拳を振って来るかと思いきや、腕をオレの肩に回してヘッドロックしようとしてくる。

 「クソがああ!」

 と叫んでオレは金寺を殴り続けた。うまく顔に当たってないこともあったがとりあえずそうした。

 「お、おい。やめろよ」

 誰かが後ろからオレを抱きかかえるかのように引きはがす。

 金寺は顔中血だらけだった。オレも鼻血で血まみれだ。

 金寺も後ろからクラスの男子が抱きかかえて立ち上がらせる。奴も両手が使えない状態で後ろから抑え込まれている。金寺がオレをにらむ。

 「いてえな!てめえ、覚えてろよ」

 「そりゃ、こっちのセリフだ!」

 そこへ「何やってるのよぉ?」と不思議そうな顔をして先生が入ってきた。

 さっちんが先生に近寄って小声で素早く言うのが聞こえた。

 「えーとぉ。金寺君が崎山君とけんかしてー。先にやったのは金寺君なんです。挑発もしてました」

 よく言ってくれた、さっちん。さすが、ぶりっ子・ベテラン高校生だ。

 その横ではあきれたように桑田がこっちを見ていた。

 その後、俺たちはクラスメイトに囲まれながら保健室に連れて行かれ、ガーゼで治療された。その あと職員室でこってりしぼられたあと、二時間目の終わりに教室に戻された。

 金寺は不良でもないフツーのオレに上からのしかかられたのが悔しかったのか、遠くからにらんではいたが、それ以上は何もしてこなかった。だが、相当な恨みは買っただろう。最後は奴が叫び声を上げていたし、負けているような感じなっていたので、屈辱なのかもしれない。しばらくは気をつけた方がいいだろう。

 ちなみに、あとでさっちんから「よくやったわ」とほめられた。薫も心配してくれた。桑田は別に何も言ってこなかったが、ちらちらたまにオレの方を見ていることがあった。

 その後、さっちんが「さっきの絵を撮ったんなら、あたしも撮ってよ。できるでしょ」と訳の分からないことを言い始めた。仕方ないので得意げにセクシーポーズをとっているところを一枚撮ってやった。

 写真の写りが結構よかったので、あとでさっちんから「よくやった」とほめられた。「これは褒美である。受け取られよ」とも言われ、何かかわいい熊の絵の描いてある白いバンドエイドももらった。



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