第二章 龍神の剣の世界へ(ニ)
龍神の剣のゲームを始めた進。魔物を仲間にしようとするが失敗。さらにゲームを進めていく
オレはまたフィールドをうろうろしてみた。次に現れたのはもじゃもじゃの髪にナイフのような物を持った「緑の小鬼」だった。体はやせている。小鬼だからか…ということはこれより強い怪物で、「鬼」もいるのかもしれない。
オレはまた話しかけてみることにした
【すすむは緑の小鬼に仲間になれと持ちかけた】
【緑の小鬼は20銭を要求してきた】
――あれ。お金が必要なのか――だが、そんな金は今ない。仕方ないので小鬼も倒した。仲間にするには何か代償が必要なときがあるようだ。
しばらくそうやって敵を倒して経験値を上げていた。ダメージは薬草を塗れば回復するようだ。ついにレベルが2になった。「すすむ」の能力が少し上がって強くなった。銭も少し貯まってきた。
そのうち武器屋で新しい武器でも買うかと思いながら、コントローラーを操作して「すすむ」を歩き回らせる。
それにしても仲間にするのは思いのほか難しい。なかなかこちらの話に乗らないのだ。今まで倒した眷属という名の怪物は蛇、緑の小鬼、赤の小鬼、青の小鬼、毒蛇、ごきかぶり、大和狼、大和蜂、大芋虫といったものだ。まだこうもりみたいなモンスターには遭遇していない。
オレは夕食をとった後もゲームを進めた。
【山んばがあらわれた!】
――おっ、これは――
ボサボサの長い髪であり、白い着物を着ている。顔色が悪い老婆だ。三白眼である。
人型のモンスターは話が通じやすそうだ。鬼や山んばなどは日本の昔話によく出てくる妖怪で、怖いものであると同時にユーモラスな存在でもある。人間とおしゃべりもしているので、蜂や蛇よりは仲間にしやすいキャラではないかと思う。
オレはさっそく話しかけることを選んだ。
【すすむは山んばに仲間になれと持ちかけた】
【山んばは30銭を要求してきた】
ふーむ、どうしたものだろう。武器を買うために貯金しているので失いたくはない。だが、仲間にはしたい……。
【すすむは30銭を払った】
苦渋の決断だった。できれば決断の前にセーブしておきたかったぐらいだ。
さあどうなる。
【山んばは仲間になった!】
「おー!」
思わず叫んでしまった。
戦闘画面が引けると、野原や山のあるフィールド画面に戻る。緑の原っぱに立つ「すすむ」の後ろに「山んば」がいた。戦闘画面では何だかおどろおどろしい感じだったが、フィールド上に表示される二頭身キャラになるとかわいいものだ。
これからは戦闘が少し楽になるかもしれない。
「山んば」のパラメーター値を見ると「すすむ」より全体的な能力は低いが「素早さ」と「力」が高い。そして「呪文」が一つ使えた。「小気」という呪文で回復系だ。これからは薬草を使わずとも傷を回復できる。山んばはレベル1と表示されている。これから戦闘を共にするうちにレベルも上がっていくのだ。
そのあともゲームを進めていくと、いつの間にか夜の九時を回っていた。
よし、今日はこれでゲームを終わろう。オレはセーブをすると本体の電源を切った。熱中したせいか疲れた。少し体がぐらっときた。オレは慌てて首を振って姿勢を持ち直す。新学期も始まったし、人付き合いで思いのほか、気をつかっていたのかもしれない。それから今日のゲームの進行を例のメモ帳にざっと記録した。
「今日龍神の剣をやった。楽しい。山んばを仲間にする。今レベル5、山んばは3。オオカミの写真撮る。ネットに噂になっていたやつと同じか?」と。
終了後はすぐに布団に入った。妙に眠たかったのだ。
その夜、変な夢を見た。
陽光が照らす、気持ちのいい昼間。オレは上空から芝生を見ている。三人が芝生でサッカーボールを蹴っていた。芝生の端には一軒の家があった。
視点は地上に移る。ああ、オレだ。オレは今、宗兄ちゃんともう一人の女の子とサッカーボールを蹴っている。すると、近くの家が燃え始めたのである。気にせず蹴っていると、火はどんどん大きくなっていく。慌てるオレと宗兄ちゃん。火を消そうと何か消せるものを探すが、見つからない。人が集まって来る……慌てて逃げるオレと宗兄ちゃん……女の子が何かをオレに言った。
「あたしがバケツを持ってくるから大丈夫だよ」
そこで目が覚めた。起きると全身汗だらけだった。
気分が悪い。オレは階下に降りて、水を二杯飲んだ。何だってあんな夢を見たのだろう。ゲームの影響だろうか。オレは宗兄ちゃんとサッカーボールを蹴った思い出などない。
今の女の子は誰だろうか…どこかで見たような気もする…考えて、ようやく思い出した。小学校の低学年のときだ。色白の小さい女の子がいた。名前はたしか…だめだ、思い出せない。オレとは仲が良く、一緒に遊んだものだ。しっかりしたコだった。だが、小学三年の時、病気になり、早くに亡くなった…しかし今更なぜ、あのコが夢に出て来たのだろうか…。
少し落ち着いてから再びベッドに横になる。翌朝目覚めるまで、もう夢は見なかった。