第四章 黄鬼と茶鬼(三)
突如出現した夜巣に村の娘を避難させた勇者。その後、魔物の大軍が村に押し寄せてきた。先鋒は牛頭の進である
さて、自分もそろそろ一区切りつけたら家に帰らねばならない。
僕は念のためはしごを地面に倒すと、早く進達が来ないものかと思いながら家の周辺をうろうろすること十分、ついでに村娘の探していた髪飾りがその辺に落ちてないか調べてみる。
――あった…――それはわりとあっさり見つかった。
【すすむは髪飾りを見つけた!蛇の彫り物がしてある…】
という文字が出た。
……おそらく村の娘は自分では見つけられない設定になっているのだろう。だから近くに髪飾りが落ちていても見えないのかもしれない。
僕は画面に出た文字を読んでいて、違和感を覚えた。
それは「蛇の彫り物」という言葉である。
――あれ。何か妙だ……――何でだろう…そう言えば、ここは龍神族の村である。龍神をまつり、蛇神族と対立する村。そんなところの娘が蛇の彫り物の髪飾りを付けるのだろうか。これはあの村娘の物ではないのかもしれない――いや、そんなはずはないか。ここに落ちていたんだからあの村娘の持ち物と考えていいだろう。
では、何で蛇の彫り物なんだ…?
訳が分からなくなって、僕はしばらくコントローラーを動かす手を止めたまま考えていた。
するとどこかで地鳴りがするような音が響いてきた。ドドドという音がテレビから聞こえる。
あ。もしやこれは…。
ムービー画面に切り替わった。
暗闇の中、山のシルエットが遠くにうっすら見え、そしてその方向から魔族達が走って来るのが見える。魔族の姿はどんどん大きくなり、手には武器を握っている者もいる。彼らの先にはかがり火を焚いた村が見え、そこへ近づくと歓声を上げる者もいる。
ムービー画面はそこで終わり、元の村の絵に戻ったが声は相変わらず続いている。そして歓声と地響きの中で進らしき声が聞こえた。「オレが倒す」みたいなことを叫んでいる。
【魔物達の襲来だ!】
という文字が表れ、戦闘画面になった。
そして…
【牛頭が現れた!山んばが現れた!提灯お化けが現れた!山男が現れた!山の神があらわれた!】
来た来た来た!――予定通りだ。
僕は牛頭のおでこを見て、白いバンドエイドが貼られていることを確認する。この牛頭は間違いなく進だ。この山んばは相棒のさゆりんだろう。バサーはいないようだが、まあいいだろう。とにかく進に倒されればいいのだ。そして目立たなくてはならない。
この体が青くて長い髭の生えた山男とか白い和服を着た目の大きい山の神とかは倒してもいい魔物だろう。
僕は他の魔物に聞こえるように大声で言った。
「私は勇者だ!魔物ども、覚悟しろ!」
「勇者だ!あそこに勇者がいるぞ!」
魔族の誰かがオレの後ろで叫んだ。
確かに正兄の勇者があそこにいる。それは確認できていた。その後ろにはコントローラーを持った正兄が座っているはずだが、辺りが暗いせいでそれははっきりと確認できなかった。何となくぼんやりと姿が見える感じがするだけだ。だが、あれは間違いなく正兄だろう。さっちんの影が見えないが…。
それにしてもさゆは山んばだから足が速い――オレは蹄の足でどすどすと走りながら思った。
走り始めたのは山を下りた辺りからだった。オレ達は黄鬼の号令で駆け出しを始め、村に近づく頃には叫び出す奴も現れた。すでにオレを抜かして先に走り出している奴もいる。山男と山の神だ。先頭になった山男が太い足を動物の毛皮の間から飛び出すかのように前へ前へと動かしている。山の神はその後から両足を少し宙に浮かせながら前へ進んでいる。便利な浮遊術だ。
こうしてみると黄鬼に先鋒を頼まれたことは好都合だった。正兄が動かす勇者との戦闘は大勢が目撃してくれるだろう。
正兄の勇者が剣を抜くのが見えた。
牛頭のオレも走りながら宝剣を抜く…はずが提灯お化けが邪魔でできない。そんな提灯が口をパクパクさせ「もっと速く走れ!速く!」と急かしてくるのがイラッとする。
「ここで下ろしていいか!あとは自分で走ってくれよ!」
「ダメだダメだ。このくらい持てるであろう。な」
などと言う。
だが、これで速度アップは限界だ。
「あんたぁー、用意はいいかいっ」
今、さゆはオレより三歩下がった位置で後ろからついて来ている。さっき抜かされたのだが、後ろを振り返るとまた速度を落としてオレの後ろに来たのだ。ちなみに裾をまくり上げており、セクシーだった。
オレは走りながら答える。
「ああ!」
正兄にオレ達が迫る!
オレは叫んだ。
「見てろ!勇者はオレが倒す!」
そして提灯を高く掲げる。本当は宝剣を高く掲げたかったんだが…。
オレ達は勇者「すすむ」の前に来ていた。
正兄の動かす勇者が叫んでいる。
「私は勇者だ!魔物ども、覚悟しろ!」
動物の毛皮を着込んだたくましい山男が勇者に殴り掛かっていく。勇者は剣を振り上げて山男に一太刀浴びせてくる。山男も即座に拳を引っ込めて避けようとするが、それができず腕を斬られたようだった。叫び声をあげて後ろへ倒れる。
ざんばら髪の山の神がその後ろから杖を掲げて呪文を唱える。すると杖から火の玉が飛び出し、勇者へ飛んでいく。火はちょうど鎧の中央辺りに命中した。攻撃をくらった勇者だが、何ともないかのようにケロッとしている。
「おい、戦闘だ。投げるから着地しろよ」
提灯お化けが舌打ちしたような気がした。オレは提灯を脇に投げた。そして宝剣を鞘から素早く抜くと、勇者に斬りかかる。
正兄の勇者も即座にオレの方を向いて剣を振り、それがオレの宝剣と交差した。相変わらず正兄の目は焦点が合っていない。
それにしても後ろから魔物の大軍が駆けて来る音がするので、ここで敵と刃を交えて立ち止まるのはけっこう勇気がいる。止まったら後ろから踏み潰されるんじゃないかという錯覚を抱いたが、今オレは興奮状態にいたため、迷うことはなかった。
勇者の怪力でオレは後ろへ押し戻された。ぐらっとよろめく。
横から山男が再び勇者に殴りかかり、山の神が杖を振り上げて襲い掛かってくる。さっきの提灯お化けも飛び跳ねて、戦闘に参加してきた。
勇者は素早く剣を横に振って山男を斬った。闇の中で血が飛び散る。続いて勇者は返す刀で山の神を真横に斬った。山男がその場で倒れた。山の神が白い着物の裾をヒラヒラ揺らしてよろめいている。
その間にさゆが前方にぴょーんと跳んで、正兄の後ろに回り込んで鎧に覆われていない箇所を見つけて引っ掻いたようだが、ここからじゃはっきりと見えない。
周囲では魔物達が村へなだれ込んでいる。
すると勇者が剣を鞘に収めると突然自分の懐へ手を入れて、小さな羽のような物を取り出した。そしてそれを振っている。
道具「白い羽」を使い出したようだ。使うと、呪文の効果が高まる道具だ。
その間にオレは勇者に斬りかかる――当たった!
攻撃が命中し、振動が手に伝わって来た。
さゆが前へ回り込んで、手を横に払った。勇者の喉の辺りからピッと血が吹き上がった。
お化け提灯が舌を瞬間的に伸ばして勇者の胸を突いた。勇者が後ろへ数歩下がる。よろめいている…。
次に勇者は山の神の杖攻撃を兜にくらっていた。
勇者は無表情に今度は懐から四角い物を取り出して、それを振り出した。
道具「金の粉」だ。これを戦闘中に使うと、魔物を倒した後のお金が二倍になるというものだ。魔法の粉が四角い布から外に出て、宙に舞っている。だが、勇者がダメージをくらった状態でその動作をすることに疑問を感じる魔物もいないようだった。もともと動きに違和感がある存在であることと、こちらもギリギリの戦いをしていてそれどころではないのだ。
オレはさらに宝剣を勇者の横から浴びせた。胴体に当たり、ついに勇者は倒れた。
芝居とはいえ、信じられない感じがした。あの強い勇者が倒れたのだ。
だが、勇者はすぐに起き上がる。
さゆが勇者の首の辺りをボカリと殴って、左横に飛び退る。
そこへ山の神が杖で襲い掛かる。勇者が片膝をついた状態で再び懐を漁りだす。今度は「クレサト村のクルミ」を取り出した。洞窟内で使うと一階上へ戻ることができる道具だ。もちろん戦闘中に使っても意味はない。
山の神の攻撃をくらう正兄の動かす勇者。膝をついたまま腹を押さえて前かがみになる。
そこへ提灯お化けがタックルする。正兄の勇者がうつ伏せに倒れた。
不自然な戦闘だが、しょうがない。部屋にいる正兄からはこの光景は見えていないのだ。
「ぐあー。やられた!」
という声が聞こえた。体力が0になったら、そう言う段取りになっていた。勇者の体が点滅している。そして…。
「あ…体が消えた」
死ぬとこうなるんだ…。
「やったね、倒したよ!あたしたちが倒したよー!」
さゆが叫んだ。
オレもアピールする。
「勇者を倒したぞ!勇者を倒したぞ!」




