第三章 崎山進の捜索(十六)
無事龍を倒し、過去において勇者が大量発生したことがあるという話をバサー達から聞く正弘たち。そんな中、行方不明の宗明の話になり、今後のパーティの方針について話し合うことに…
さっちんがはっとした顔をしてバサーを指さして叫んだ。
「あっ…勇者がたくさん来て魔物が死んだのは大神官の治め方がおかしいから!バサーちゃん、そういうこと?」
オレは首をかしげてさっちんに訊いた。
「勇者が来ることと大神官に何の関係があるんだよ」
「あんたちゃんと勉強しなさいよね。昔の日本も地震や飢饉がよく起きると、天皇の徳が足りないからと言われる時代があったのよ。きっとそれと同じことよ」
「幸子正しい!幸子正しい!クアアー!」
「ほれ!見たことか!」
と喜ぶさっちん。
オレははっとして言った。
「あ、なるほどな。そういうことか。で、宗明さんが代わりに大神官になったんだ。で、その後、前の大神官はどうなったんだ」
「確か、部下からクーデターが起きて追放されたよ」
とさゆ。
「マジか…」
正兄は真剣な顔をしながら、
「さゆさん。大神官って戦闘になるとどんな攻撃をしてくるんですか?」
「さあね。あたしも詳しくは…何しろあたしは下々(しもじも)の魔物なんで。夜巣でも見かけたことはないから固族なんだろうね。飯食って寝てるとこ見たことないし」
「ヨルス?コゾク?何ですかその言葉は」
オレがさゆの代わりに言葉の意味を説明する。正兄とさっちんは不思議そうに聞いていた。この世界のことを全く知らないのだ。無理もない。
「進は何か大神官のデータ情報知らない?」
「知らないよ。古いゲームだから攻略本も手に入らなかったし。オレも聞いたことがあるだけだ。オレのイメージとしては蛇神一族で一番えらい人という感じだな…神官は蛇神と一緒に出てくるボスキャラで、主に蛇神の体力回復を担当するキャラだったな。その神官に「大」がつくから、超強い大蛇を呼び寄せることができる召喚士みたいな感じだと思う」
「うーん。やばいな。宗明さんがそんなのになっているとしたら、この世界にどっぷり浸かってしまっているのかな。元の世界に帰ろうと言ってもオーケーするかな?北朝鮮に拉致された人みたいに帰国を躊躇するかもな」
と首をかしげながら言う正兄。
オレは宗兄を救いたかったので、
「うーむ…どうかな。とりあえず会えば帰りたいって言うんじゃないかな…まずは会ってみないと話は始まらないと思う」
「そうだな」
そんな話をしていると、小屋からブチャノバが出てこちらへ歩いてきた。
「あ、ブチャノバだ」
「スズブー。お前、あの魔物に看病してもらったって言ってたよな」
と正兄。
「ああ、そうだ。その後、戦いの稽古もしてくれた。それから鍋も教えてくれた」
「鍋?」
「あ、いや。とにかく恩人なんだ。荒っぽいとこもあるが、いい奴だよ」
「ふーん、さっき話しかけたら剣を作ってやるから三つアイテムを出せって言われて、持ってなかったから断れたんだよね」
「どんなアイテム?」
「さっき手に入れた緑龍のうろこと、白蛇の皮と、月夜のしずくだね」
「じゃあ、次は白蛇の皮か、月夜のしずくのどちらかを取りに行くかぁ。宗兄のところまで行って、説得するには強い奴と戦わなければならないかもしれないしさ」
「そうだな。宗明さんとも戦闘になるかもしれないしな」
「なるかな…?」
「分からんぞ」
まあこっちで裕福な暮らしをしているならそれも分からんでもないが…。
「…よう。さっきの勇者もいるではないか。仲良くなったのか。さっきから話が盛り上がっているようだが」
ブチャノバがそばまで来て話しかける。
「そうなんだよ。突然霧が出てきたと思ったらそれが晴れて、人間の男と女が現れたからさ、驚いたわさ」
とさゆが草むらに足を伸ばして座った状態で答える。
するとブチャノバが怪訝そうに
「人間の男と女が?どこにいるんだ?」
オレが正兄達の方を指さして
「そこにいるだろう」
「何?男女がか?この山んばとオスのオオタカのことか」
「いや、違う。そこにいるって。見えないの?」
キョロキョロ辺りを見るブチャノバ。
どういうことだ。二人が見えないらしい。
「こんにちは。ブチャノバさん」
とさっちんの声が響いた。手を振っている。
ブチャノバは相変わらず周囲を見回し続けていた。
「そこにいるだろ」
とオレは二人がいるところを指さした。
「その勇者がしゃべる声は聞こえる。急に女の声になったな。妙なものだ」
と不思議そうなブチャノバ。
さゆりんがブチャノバに教える。
「本当だよ、ブチャノバ。あたしたちにも見えるから。そこに座っている男と女が二人いるでし ょ。今はその女の方があんたに話しかけたんだよ」
「何だと⁉…匂いもしない。ふーむ、これは…汝ら我をからかっているのではあるまいな」
ブチャノバが不機嫌そうになったので、慌てて訂正するオレ。
「いや、そうじゃない。じゃブチャノバには見えないんだな…」
「我に見えず、汝らに見える…そんなことがあるのか。不思議な話だ」
――言われてみれば――
「ブチャノバさん!」
と今度は正兄。勇者すすむを通して声を掛けているのだ。
「ん?何だ。人の子よ」
とブチャノバは勇者すすむをじっと見る。
正兄が
「こんにちは」
と言うと、勇者の口が動いてしゃべる。正兄がしゃべりだすと、勇者もしゃべりだすからだ。
「うむ?こんにちは」
と、すすむに向かって、あいさつを返すブチャノバ。
「正兄。ちょっと試したいことがあるんだ。コントローラーをさっちんに持たせてみて」
「いいけど」
コントローラーをさっちんに渡す正兄。
すると勇者の体がぼやけ、一瞬テレビの映像が乱れたようになり、すぐにさっちんの顔に変わった。身長や体格も変わり、一回り小さくなっている。
ブチャノバは下あごの牙を揺らしながら
「何だこれは?魔物の術か?」
さっちんの顔を見るのはずいぶん久しぶりな気がした。妙に懐かしい…オレは言った。
「さっちん。何かブチャノバに言ってみて」
さっちんの顔の勇者すすむの口が動く。
「うん。ええと、ブチャノバさん、そこにいます?」
「います?いや。目の前にいるではないか!」
「ツッこむところはそこじゃないだろう?よく考えな!」
とさゆ。
するとブチャノバははっとして、
「あっ…何だこれは。今、急に声まで変わったぞ!」
さゆがうなずいて
「そう、そこだよ」
オレはそこに割り込む。
「な?二人いるんだよ。その二人が勇者を動かしているのさ」
「動かす…?こやつをか?」
ブチャノバの耳には勇者の口を通して異世界の人の声だけが聞こえている。ピンとこないのも無理はない。
ブチャノバにはこの二人が従兄と友達であることは伏せて説明しておいた。オレが人間であることがバレたらいろいろ面倒そうだからだ。
向こうでも「ああ、なるほどね。そうなってるんだ」「あたしがこれ持ってると向こうの顔も変わっているってこと?どうしてそうなるんですかね」「さあ…」と話している。
「正兄、さっちん。とりあえず、次は白大蛇を倒しに行くか。そうすればそこで白蛇の皮は手に入るだろう。龍神の剣が作れる」
と正兄とさっちんに向かって提案するオレ。
「ああ、いいよ」
と快諾する正兄。
「あたしはプレイヤーじゃないから別にどこでも!これからも横で応援するだけだし」
と消極的なのか積極的なのかわからん発言をするさっちん。まあ、当事者じゃないからそんな気分になるわな。オレはそういう立場も考えてやれる人間だからな。わかる!でも、もうちょっと前向きに何か言ってほしかったけども!
「いいよな、さゆ、バサー」
とオレはこっちの仲間に話し掛けた。
まさか、さゆも、さっちんみたいに「別にあたしたちはついていくだけだしぃ。どこでもいい」みたいなことは言わないだろう。
「いいさ」
とさゆが案の定の返事。
バサーの方はどこか散歩にでも出かけたらしく、見当たらなかった。まあ奴もオーケーだろう。
さゆがおもむろに言った。
「で…あんた。アドガミ村はどうするね。バサーは先に行ったようだけど」




