第三章 崎山進の捜索(十四)
テレビ画面の中に出現した敵キャラクター牛頭に進の影を見たさっちんは、話しかけるコマンドを選択するように正弘に言う。正弘が話しかけるを選ぶと声が…。
オレは足早に後ろから龍神に近づいていき、一撃を浴びせた。
龍が振り返る。この分じゃあまり攻撃は効いていないようだ。そして黒い水晶でじっと見てくる龍神。
竜神を怒らせてしまったようだ。これでもうブチャノバの小屋で生活できなくなるかもしれないが、従兄が危ないのだ。
もうどうなっても知るものか…である。
「すすむ」は後ろで剣を構えてぶつぶつ何か小さい声で独り言を言っている。頭や手から少し出血していた。
――ゲームキャラとはいえ、大丈夫かな――
すると、そのすすむが急にオレの方をきっ、と見て、口を大きくぱくぱく動かした。
「仲間にならないか?」
聞き覚えのある声だった。だが、何だか不自然な動きだった。
「正兄?」
オレは聞き返す。
そして次にもっとリアルな言葉が聞こえてきた。
「おい、進!僕が分かるか?」
今度はちゃんとオレに向けて自然に話す正兄の声である。
「え…正兄?」
「進!あたしよ、幸子!聞こえる?」
「さっちんか!」
嬉しさで飛び上がりそうになる。
「話す」を選択する僕。
だが、テレビ画面の中の牛頭に反応はない。
「おい、進!僕が分かるか?」
思わず声を上げてしまう僕。
「え…正兄?」
――え――今テレビから声が聞こえたような…。
水沢さんも叫ぶ。
「進!あたしよ、幸子!聞こえる?」
すると今度はテレビからはっきり声が聞こえた。
「さっちんか!」
これはまぎれもない進の声だ。
僕はかなり興奮していた。
「進だっ!進だよ、これ!」
「進よ!これ進!」
僕と水沢さんは同時にそう叫んでいた。
急にオレの声が通った!向こうの世界の正兄とさっちんに通じた!
そう思った瞬間だった。こちらを振り向いている龍神の後ろの背景に雲のような塊がもくもくと出現し、それが大きくなっていった。そして、その雲が一定の大きさになったと思ったら素早く左右に割れ、空中に正兄とさっちんが現れた。現れたといってもはっきり見えるわけではなく、うっすら見える感じだ。二人はあぐらをかいて座っており、正兄はコントローラーを持っている。二人とも同じくらい口をぽかーんと開けてこちらを見ていた。二人のそばにはお盆と蓋の開いた箱があり、食べかけの白いケーキのような物も置かれていた。
――これオレの部屋⁉――
「進、こっちが分かるか?」
と正兄の大きい声が届いた。正兄がしゃべっているのが見える。
オレは今目の前で起きていることを伝えようとするが、言葉が見つからない。
「分かる!今見えたよ!二人ともオレの部屋にいるのが見える!」
そう言うのが精一杯だった。
その時、龍が口から火を噴いた。
オレは伸びてきた火炎を盾で防ぐ。
「マジか?見えるんだ…すげー」
と正兄の感心している声。
「そっちの世界はどおー?楽しいぃー?」
とさっちんの質問が飛んできた。
いや、楽しいって何をのん気な…!ま、楽しくないわけじゃないけど…毎日鍋パーティーしてるし!いや、それより!
「正兄、さっちん。まずは龍を倒そうぜ!話はそれから!」
「分かった!」
「今、俺の仲間も呼ぶ!味方だから攻撃はしないでくれ。山んばとタカだ!」
そして盾の後ろから振り返って叫ぼうとすると、
「もういるよ!」
とさゆが走ってきて、オレの脇をすり抜け、龍に向かって突進する。
龍がさゆの方へ向いて地上へ火を噴きかける。
さゆが走りながら火を避けようとするが、少し着物に火がかかってしまった。
「あっちっち!」
さゆが着物をたたいて火を消し始める。すると、向こうの世界で座っている二人に気づいた。
「わあっ⁉何だい、こりゃ誰だい⁉」
「あれ?気づいたのかな…どうも初めまして。正弘と言います」
「あ、幸子と申します」
とお辞儀をする正兄とさっちん。
さゆは目を丸くして叫んだ。
「はああ⁉…ん?あーっ!さっき見た本体がいるよ⁉これだよ、スズブー!この人だよ」
オレは剣を持ち直して龍へ走った。龍がオレの動きに気づく。オレは龍の巨大な胴体めがけて剣を横に払う。
強い振動が手に走る!手ごたえがあった。
龍の体が横にぶれて「きええええん!」と高い叫び声をあげた。
オレが上を見ると、バサーが攻撃の機会をうかがって旋回していた。
その間に、すすむが水際の龍の胴体に接近してきて、一撃を加えた。今のは会心の一撃かもしれない。
また龍が悲鳴を上げた。
これはいい感じだ。
「さゆ、その二人はオレの知り合いだ!味方だから気にせず戦ってくれ!勇者を動かしているんだ!」
とオレは叫んだ。
「分かった…あいよ」
突然の出来事に消化しきれていない感じのさゆの返事。
その後、気を取り直したさゆが呪文を唱えると、ゴロゴロと上空で音がして、雨雲が集まってきた。そして周囲が光ったかと思うと、龍の上に太い雷を落とした。すさまじい轟音だった。
「うおっ!」
思わず剣を原っぱに落として耳をふさぐオレ。
だが、音の割に大したダメージ力はないらしく、顔を上げて見上げると、龍はバサーを見つけて火を噴いている…。
「あれ?」
バサーも何事もなかったかのように旋回して攻撃を避け続けているし、さゆも龍の体を右手でつかみながら左手でひっかいたりしている…大きい音に平気らしい。
魔族は強い。
そういえばゲームをしていたとき思ったことだが、呪文「いなびかり」は大げさな演出のわりにあまりダメージを与えられないものだったな…。
「進ー、アイテム欄にあるこの「貝の耳飾り」って、どんな道具だああっ?」
と正兄の大きな声が前方から聞こえてきた。
「それはオレ達の呪文防御力が上がる道具!」
「よーし、じゃあ今から使うわ!援護するからな!」
――いや、あのさ。なぜ使うの。龍神は呪文使わないんですけど――正兄はこのゲームを始めてまだ日が浅いようだった。
オレが答える前に龍の尾が飛んできた――跳んで避けたが、転んでしまうオレ。尾は草を薙ぎ払って、土煙を上げる。
「あ、進がダメージ食らった、進ぅ、痛くない?大丈夫?」
とさっちんの声。
「大丈夫だ、今のは転んだだけだ!」
「転んでもダメージになってるよ!一ダメージだって!」
そりゃどうもご丁寧に。そうか、あっちではあれは一ポイントのダメージと表示されているんだ…。
こんな感じで俺たちは協力し合い、その後、五分ぐらいで龍神を倒したのだった。
倒した直後、オレの頭の中で音楽が流れて、レベルが一気に六つも上がった。もちろん外見は変化しなかった。さゆとバサーもレベルが上がった。
さゆに聞くと、勇者の仲間になってから変身アイテムを使っても、もう外見の変化はしなくなるらしい。
つまり、オレがブチャノバの家の裏の薪を割った場合、次は「前鬼」という魔物に変わるらしいのだが、今は勇者の仲間なので、「牛頭」のまま強くなるしかないらしい。ちなみに今は牛頭のレベル三十五だ
山んばも勇者の仲間にならないなら、次は山女というのに変わるらしいし、オオタカも次はトサカオオタカというのになるらしい。
そう言えばさゆは「それが魔族の運命なんだよ」と言っていた。




