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第三章 崎山進の捜索(十三)

勇者との戦闘で逃げ出す進達。その後、勇者は正弘のコントロールでブチャノバの小屋へ行き、すぐに戻って来た。そして村長のお札を使って湖の龍を呼び出す。その様子を遠巻きに見ていた進は…



 ムービー画面の龍うろこがボコボコと体から盛り上がっており、目が艶やかに黒く光っていて凄味がある。




 【龍神「われは龍神。この谷にて人と自然を統べる者ぞ。若き眷属よ。長旅ご苦労。して何の用じゃ」

 すすむ「蛇神族の野望を食い止めるため、龍神の剣を作りたいのです。龍神様のうろこをください」

 龍神「蛇神族か。翼を失い、地を這う生き物と化した哀れな神を祭る一族か…ふむ。よかろう、だが、剣を作ったところでお前に力がなければあの白大蛇はくだいじゃ翼蛇神よくじゃしんとは戦えぬ。特に蛇神一族のヌシである大神官が操る翼蛇神は強い。お前にはその力があるかな?」

 ➡はい

 いいえ】




 さて「はい」を選ぶか。オレはみんなの体力を確認する。すすむの体力は十分だ。レベルは二十五と表示にある。

 僕は「はい」を選択した。




 【龍神「では、その力試させてもらう」】




 こうしてボスキャラとの戦闘に突入した。

 


 

 オレ達三名は遠巻きに正弘顔の勇者の行動を見ていた。

 龍はでかい。そしてうろこがボコボコと盛り上がっており、いかめしく、陽光を反射させていて美しかった。ここからだと何を言ってるのかまでは判別できなかったが声は低音だった。

 湖から半身を出した緑の龍と勇者「すすむ」は少し会話を交わした後、急にきびきびとした動作で熾烈な戦いを始めた。まあ、オレがゲームでやった展開だ。けれどもあの時は山んばとオオタカがいた。だが、すすむは一人だ。

 今はすすむが剣を払い、龍がしっぽで攻撃している。

 牛頭のオレはその様子を離れた場所から見ていた。

 むくむくと疑問が湧き出て来たので、隣りで座っているさゆに聞いてみる。

 「勝てるかなぁ」

 「どうだろうね」

 「一人だときつくないかな…」

 「そうだね」

 オレは止まったり、動いたりする「すすむ」を見ながら訊ねた。

 「さゆ。さっきと動きが違う気がするんだが」

 「なるほど。本当だね」

 「さっきは空っぽのからくり人形と戦っている気がしたのに、今は中に人が入っているみたいに思えるんだが…」

 「たしかに…見てやろうか」

 「分かるのか」

 「ああ、「本体」を見ればどんな奴かは分かるよ」

 「頼む」

 さゆはじっと勇者すすむを見つめた。ただ見ているという感じだ。目を凝らすわけでも、首の角度を変えて眺めまわすわけでもない。

 「ああ、本体がある…何者だろう……うーん、この本体は、おとなしそうな男だね、何となく冷静な感じがするね。そして賢い感じがする。欲は少な目だね…あんたより年上かなあ。何かどこかで座っているのが見えるよ。何だろうね…今、何かを両手で持っている姿が浮かぶんだけど…」

 「両手で?剣は片手で持ってるし、もう片方の手は盾だぜ」

 「いや、そういうことじゃなくて、本体はそう見えるんだよ。なぜかは知らないけどね」

 「何かね、雰囲気はあんたに似てるよ。顔も似てる…知り合いじゃないかな…」

 「まさか…それって、向こうの世界のオレの部屋かな、そこにいる人を見てる?」

 「んー知らないね」

 「名前は…正弘じゃない?」

 「うーん、正弘…あ、そうだ、この人正弘って名前みたいよ。呼ぶと反応があるから」

 「それ、向こうの世界に住んでいるオレの従兄だ。やっぱり従兄だったんだ」

 「あんたに雰囲気が似ているね」

 「じゃあ、やっぱりあれは正兄が動かしているのかなぁ。もっと正兄の名前を呼んだり、オレだオレだとアピールしとけばよかったかな」

 「いや。言ったってわかる雰囲気じゃなかったね」

 「そうだよな…今は動きに人間臭さがあるけど、さっきは機械みたいな動きだったし。心がないみたいだったもんな」

 「うん。ところで頭に貼ったその小さい湿布みたいなのは何だね」

 「ん。これか?バンソウコウって言うんだ」

 これは、さっきのすすむとの戦闘で頭にケガして貼ったものだ。ポケットの中に入っていたのだ。かわいい熊の絵が描かれた白いバンドエイドが。ワープするとき、制服のポケットの中に入っていたのだろう。

 「…やばいな…やられてきた…」

 今、すすむは龍の攻撃をくらって、疲れてきていた。あの龍はさゆとバサーの協力があってやっと倒してボスキャラだ。一人では無理だろう。

 「ちょっと加勢してくる!」

 「え、ちょっと、あんた!」

 武器を持って湖のそばまで駆けだすオレ。




 龍は強かった。コントローラーを握る手にも力が入る。薬草を使って体力を何度か回復させたが、すぐにまた減らされる。

 どんどん体力がなくなってきた。

 「水沢さん、どうしよう」

 「えっと、えっと…ええっと!」

 とゲームをやっている僕以上にテンパっている水沢さん。

「何か使える道具とかないかな。大ダメージ与えられるやつとかさ」

「そ、そうね、それがいいです。正弘さん早くさがして!進がやられる!」

とせかす。勇者の名前がすすむなので、感情移入してしまっているようだ。

僕がアイテム欄を出して何かいいアイテムがないかさがしていると、さっき戦った牛の頭の魔物が画面に現れた。




 【牛頭があらわれた!】

 



 「え?」――何だ、これは――

 水沢さんも戸惑っている。

 「えっと…急に?何なの、このゲーム!」

 



 【牛頭の攻撃!龍神に3ポイントのダメージ!】


 


 「は?」

 「あ、これ味方じゃないですか?」

 「え、そんなはずない。この敵とは前に戦ったし」

 僕は牛頭に攻撃を加えようと「こうげきする」のコマンドを選択した後、カーソルを牛頭に合わせる。

 「待ってください。この人味方ですよ、やめましょうよ」

 「いや、人じゃないし。それにボス戦の時は弱い敵から先に倒さないと!君、ロールプレイングの鉄則だよ」

 「でも助けてくれているんですよ!正弘さん、人としておかしいですよ」

 「いや…それは現実世界の話の話であって、これはゲームの世界で」

 「さあ、ボスにカーソルを合わせましょう!正弘さん」

 「えっ…うーん。はあ…じゃあ…」

 言うとおりにする僕。

 「あれ…?このおでこ…」

 「え?」

 「何か見覚えがある気がします…」

 「このゲーム見るの初めてでしょ?」

 「それが…うーん…」

 水沢さんは目を凝らしてきれいな顔をテレビに近づけている。

 「小さいからよく分からないんですけど、これもしかしてバンドエイドじゃないですか?」

 「あ。さっきこんなの頭になかったぞ…何これ」

 「正弘さん。虫眼鏡ありますかね」

 「うーん。あるかな。叔母さんに言えば分かるかもしれないけど」

 「あたし借りてきますね!」

 バッと部屋を飛び出す水沢さん。どんどんと階段を駆け下りる音がする。

 僕はどうしたものかと迷うが、しばらく待つことにした。どんどん音を立てて水沢さんが銀色の虫眼鏡を持って戻って来た。そして虫眼鏡のレンズを牛の頭に合わせる。

 「う…これは七十パーセント。いや!やっぱ八十パーセントぐらい進だよね」

 「はあっ?何言ってるの?君。虫眼鏡でこの牛頭を見ると進の顔になってでもいると?」

 「進っぽい!」

 「ど、どうしてそうなる?また女の勘?」

 「いや、そうじゃなくて、頭のバンソウコウ。これ、あたしが学校で進にあげたことがあるやつです。ほら、よく見て。小さいけど、ここ。熊さんみたいな絵が描いてあるでしょ。あたしこれ持ってるもん」

 そう言って虫眼鏡を渡してくる。僕は虫眼鏡でまじまじと牛頭を眺める。確かに熊のような絵が描いてあるではにないか。

 「な?バカな!そんなことがあるわけが?」

 「バカなって、正弘さんがこのゲームの世界に進がいるかもって言ったんですよね?」

 「らしいな…」

 「これが進ですよ。だって現に味方してるし」

 「ほんとかな?牛の顔してるぞ?だいたい何で魔物になってんのよ!?」

 「女の勘がそう言っています」

 いきなりこんな展開になるとは思わなかった。

 さて、どうすべきだろうか…。そして進はどうしてこうなったのか…。やはりゲームの世界に閉じ込められたのか?

 しばらく待ってみたが、画面の「すすむ」は何も言ってこない。

 こちらから攻撃をしかけるのはやばいだろう。もし本当に死なれても困る。

 何の反応もないが、向こうはこちらに気づいているのだろうか。

 「話しかけられないの?」と、水沢さんが言った。

 「ああ!そうか!できる!してみよう」


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