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第三章 崎山進の捜索(十二)

従弟の進の家にやって来た正弘は龍神の剣をやる。そこへ進のクラスメイトの幸子がやって来たので、叔母に言って二階へあげてもらい、ゲームをしながら話を聞くことになった。



 「じ、神社?あいつが?」

 「いえ。そこの龍神神社で目撃されている怪物についての話なんですね。ネットで話題になってて」

 「ん。あそこの?」

 「ええ。牙の生えたリスとか、首のないこうもりみたいな鳥とか龍が目撃されてるんですよ。そういうことについて私たちと話すことはありますね」

 「へえ…」

 龍…だと。あれぇ?このゲームの名前は「龍神の剣」だが、まさかそれとは関係ないよな。

 僕はフィールド画面上の勇者を動かす。上の方に小屋の絵が見えた。そこに入ってみることにする。

 コントローラーを動かしながら龍神神社の話をふってみる。

 「進も見たことはあるのかな」

 「いや、ないと言ってました」

 「じゃあ、動物をさがしていたことは?」

 「あるみたい。クラスメイトの桑田君と薫さんとはよくそういう話をしていましたよ」

 「なるほどね…」

 じゃあ、いよいよ進はこの世界へ行ってしまったのかもしれないではないか。

 コントローラーを動かして小屋に入ると、ベッドと机と椅子があるだけで、一人の太った怪物が座っていた。

 



 さっきから一向に勇者「すすむ」は動く気配がない。今オレとさゆとバサーは後退し、離れた場所から様子を見ていた。正弘の顔をした勇者「すすむ」はぶつぶつ小さく何かを唱え続けている。「そのふくろ…けーき…はいり…よかっ…」とかよくわからない呪文だ。

 ――もしや…――

 今からすごく強烈な呪文攻撃が来るのではないか。「すすむ」はこの数日でそういう呪文を覚えたのかもしれない。

 ――そうか、強力だからこそ長いんだ!――

 オレはもう一度「小気」を唱えて、バサーの体を回復させると、

 「さゆ!バサー!すすむは強烈な呪文を唱える気だ!さらに後退するぞ!」

 「分かった!」

 とすすむから高速で離れながら答えるさゆ。長い髪が後ろへなびいている。バサーも「クアー!」 と鳴いて、オレの方へ羽ばたいて来る。

 それを確認してから奴に背中を見せて駆け出すオレ。

 しばらくして後ろを振り返ると、やはり勇者すすむはブチャノバの小屋の方へ歩いて行った。

 それを見たブチャノバが慌てて小屋へ戻っていくのも見えた。

 ブチャノバが小屋の中に入って、しばらくしてからすすむも小屋に入った。

 しばらくすると、すすむがまた出て来た。

 何かあったのだろうか、だがすすむの剣は汚れていないし、鎧に血しぶきのようなものはない。だから戦闘にはなっていないようだった。

 すすむは湖のそばまで近づくと、自分の懐を漁りだした。

 最初に茶色い袋を取り出して湖の上へかざした。何も起きない…。

 「何をやってるんだい、ありゃあ」

 とさゆがつぶやいた。

 バサーは関心なさそうに近くの木の上で片方の翼の毛づくろいをしている。

 「うーん、謎だな」

 でもどこかで見たような光景だ。

 次にすすむは袋を懐にしまい、長方形の紙のような物を取り出した。

 「ああっ!思い出した。今、すすむは龍を呼び出しているんだ!オレがゲームを最後にやっていた箇所だよ!」

 「ああ、そういえばそんなことしてたねえ。龍神様をおふだで呼ぶんだっけ…」

 すると湖からあわがぶくぶくと徐々に上がり始め、それがだんだん大きくなり、水面が光りはじめた。

 こっちの世界で見るときれいで、とてもリアルな光景だ…。

 ――待てよ――すすむはどうしてこんな行動をとり始めたんだろう。戦闘の最初の頃とは少し様子が違うような気がしないでもない…今はまるで人が動かしているような動きだ。

 ――誰かが動かしているのか?誰が?――




 僕はコントローラーですすむを動かし、話しかける。

 怪物はしゃべりだした。




 【魔物の鍛冶職人「我の名はブチャノバ。汝のような客は珍しい。ここに人が来るのは二百年ぶりだ。剣を作ってほしいのか。緑龍のうろこと白蛇の皮と月夜のしずくが必要だぞ。汝は持っているか?

 ➡はい

  いいえ】

 



 「はい」か「いいえ」を選ぶようだ。僕は「はい」を選ぶことにした。




 【魔物の鍛冶職人「嘘をつくな!」】




 それっきり何も起きなかった。

 「持ってないみたいですね。今言ったアイテム…」

 「そうだね…ここは出よう…」

 僕は進を動かして、小屋の外に出る。黄緑色の草原が広がっていて、その中に大きい湖がある。僕は水際まで行ってみることにした。

 だが何も起きない。

 「変だな。この谷で龍が出てくるらしいんだけど、ばしゃっと出て来ないのかな」

 「何かアイテムを使うとかないですかね」

 「うーん、それはないんじゃないかな」

 僕はいちようアイテム欄を見てみる。

 【薬草 煙玉 寝袋 だんご 塩 星の砂 蛇皮の財布 シソの葉 不思議な頭陀袋 村長のおふだ カエルの足 貝の耳飾り…】

 水沢さんはアイテム欄をじっと見ている。

 「んー……この不思議な頭陀袋って怪しくないですかね。選択してみてくださいよ!」

 僕は頭陀袋にカーソルを合わせて「使う」を選択する。

 何も起きない。

 「じゃあ、次。村長のお札」

 「これが?いやいや、ないでしょー」

 僕はそこへカーソルを持って行き「使う」を選択してみる。すると、ゲーム機本体がカチャカチャ音をたてはじめた。

 「え?」

 その後、フィールド画面が消えて、リアルなイベント画面に切り替わった。そして、湖からぶくぶく泡が出て来て、緑の龍が姿を現し始めていた。

 「ええっ?なぜわかったの?」

 「女の勘です」

 と画面を見ながら、得意そうな横顔の水沢さん。

 「マジ?」

 「マジですよ」


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