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第三章 崎山進の捜索(十)

勇者が現れた!魔物になっている進はさゆりんとバサーとともに戦闘に。だが、勇者の様子がどうもおかしい。一方、従兄の正弘は進の部屋でゲームをしていた。進の捜索をするためだ。初バトルは説明書を読みながらやっていた



 僕は初めての戦闘画面の様子に戸惑っていた。戦闘の説明を見ても書いている箇所が見つからないのである。

 ――何か…勝手に戦闘が始まってるな…――

コントローラーでコマンド選択して戦う方式じゃないのか、このゲームは?と思いながらいろいろボタンをいじってみる。

 今、「すすむ」は牛の頭をして剣と盾を持ったモンスターの「牛頭」と髪の長い「山んば」、茶と白のまだらの体を持つ「オオタカ」と戦っている最中だ。「すすむ」が勝手に攻撃を開始しているのである。

 「牛頭」にはすでに五撃ほど加えているが、大したダメージは与えられていないようだ。「オオタカ」には大ダメージを与えたが、敵の呪文で回復されてしまった。

 「何だよ、これ~」

 疑問に思いながら、コマンド欄を見てみる。「戦う」「呪文を唱える」「逃げる」「道具を使う」 「話す」というコマンドが並んでいるが、それらを選択できないのだ。他に何かないのだろうか。そう思っていると、その一番下に矢印のようなマーク「➔」が出ているのを見つけた。

僕はそのマークを押してみる。すると、さっきまであったコマンドが全部消えて「オートを解除」という選択肢が現れた。

 「あ、これかな」

 僕はそれを選択してみる。ピッと音がして「オートを解除した!」というメッセージが戦闘中の画面に表れた。

 すると、今度は「戦う」や「呪文を唱える」などの選択肢を選べるようになった。

 「おお、これだこれだ」

 すると、一瞬立ちくらみがして、変な映像が見えた気がした。目の前に筋骨たくましい牛頭が武器を持って構えている、近くでオオタカらしき大きな鳥が倒れている、遠くでは妙な大入道のような男が岩場に腰掛けてこちらを見ている。後ろから女性の声がした。「あんたぁー!」とか叫んでいるのは山んばだ。それは草原での光景のようだった。

 「あっ……」

 映像は一瞬ですぐに消えた。

 今のはテレビの二次元の映像ではなかった。頭の中で見たようなリアルな光景だった。

 「何だ、今の?」

 僕はテレビ画面を見直した。二次元の魔物の絵がそこにはあるだけだ。牛頭、オオタカ、山んば…さっきの映像はこの魔物達か?どうして急にリアルな映像を見たんだ?

 そういえば岩場に腰を下ろしていたあの大入道は何だったんだ。




 オレは額をケガしてしまったようだ。

 「いつつつ…」

 盾の後ろに隠れながらうめく。額を触ると、手のひらに血がついていた。

 やばい――もうだめかと思った。すぐに攻撃が来るだろう。オレは死ぬのか…。

 だが、不思議と次の攻撃はいつまでも来なかった…。

 変に思い、おそるおそる盾の上から顔を出してみる。

 正弘の顔をした勇者は動きを止めており、なぜかだらしなく口を開いては「あっ」とか「何だ今の」「うまいなぁ、このプリン」といったようなことを言っていた。

 何か食ってるのか?――今は逃げるチャンスだ。

 オレは後ろを振り返り

 「さゆ、逃げるぞ」

 と言った後、そろそろと後退していく。

 やはり正弘は追ってこない。そこでただ立っているだけだ。

 さゆりんの方を見ると、乙女のように後ろで顔を覆っていた。泣いているのかもしれない。まあ 「すすむ」とは昔馴染みなのだから仕方ない。この戦闘は酷だろう。ここはオレが何とかするしかない。

 バサーは草原を転がっていて、まだ少し苦しそうだ。空は飛べないだろう。

 奴が動こうとしない今はチャンスだ。オレの傷を回復できるぞ。

 何か薬草はなかっただろうか。そういえばさっき、さゆから、これは傷を回復させる薬草だとか言われ、もらった物があったな。あれは右、左、どっちのポケットにいれたっけ?

 オレはまず右のポケットを漁った。今は左右にポケットのある麻の服を着ていた。

 何だか柔らかく薄い物に触れた。

 ――何だ、これは?――

 細長い布か紙のような手触りの物だ。それをポケットから出してみた。バンドエイドだった。かわいい熊の絵が描かれている…。




「そっか、なるほどなぁ…」

説明書を読むと、どうもこの和風RPGは魔物を仲間にできるシステムのようだった。結構面白そうだ。

説明書を閉じると、お盆の上の残りのプリンを食べて、お茶を飲んだ。

「うまいなぁ、このプリン」

僕は昔読んだ絵本や昔話を思い出した。

昔話に出てくるときの山んばは人を食うし、遠野物語の山の神は村人と争って殺すこともあり、ぶっそうな連中だが、そういうのが味方になっていると心強いかもしれない。

今は龍神の剣を作るために必要なアイテム「龍のうろこ」を取りに行くところらしいことも進のメモから分かった。

プリンを銀のスプーンで口に運びながら考える。さっき一瞬見た映像は何だったのだろう。一瞬だったし、ただの思い違いだったのかもしれない。しかし、あんな鮮明な幻を見たのは初めてだった。

やはりこのゲームには何かあるのか。

僕は改めてテレビ画面を見る。相変わらず勇者「すすむ」は攻撃を停止していた。

オオタカはもうすぐ倒せそうだったが、さっき牛頭の呪文で回復されてしまっていた。

すると突然、



【牛頭は逃げ出した!】

【山んばは逃げ出した!】

【オオタカは逃げ出した!】



という文字が出て、三つの絵は消えてしまった。

あっという間の出来事だった。

戦闘画面から元の草原のフィールド画面に戻る。

さてと…どうするかな。

まあ、ここは進が到達していた「試練の谷」だ。すぐに何かわかるかもしれない。

湯呑を盆に置いて、コントローラーを持つと、玄関のチャイムがピンポーンと鳴る音がした。


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