第三章 崎山進の捜索(九)
村への出発前、突如勇者が出現した!パーティ編成をする進達。一方、従兄の正弘は龍神の剣のゲームを始めていた
さゆが言った。
「あれ、誰だい、こいつは。あたしゃ知らない人間だよ」
そして鼻をくんくんやって、
「おかしいね。「すすむ」と同じ匂いだってのにさ」
と改めて勇者を見る。
勇者「すすむ」は手を下げた状態のままでいる。何となくだらしがない。最初、オレを見ているのかと思ったが、どうも目の焦点が定まっていない感じだった。どこか宙を見ている感じなのだ。
話しかけようか迷ったが油断しているといきなり攻撃をくらう可能性もある。「おい、正兄。オレが誰かわかるか?」とか「まあ話し合おう」とか、戦闘の前に言うべきことがある気もする。
オレが戸惑っていると、正弘の顔の勇者はオレの方へは目もくれずに体を横に向け、急にあちこち行ったり来たりし始めた。そして高速でジグザグに歩いて徐々にこちらへ来るのだ…。
あれだ。鬼達を瞬く間に屠った…あのときと同じだ。あの「よしお」もこういう動きをしていた。
そして、オレ達のいる方へ近づいてきた。オレ達の普段の歩く速度よりも数倍速い感じだ。
そして無言でいきなり斬りかかってきた。
――速い!――
ガシーン!盾で防ぐ。
「あれ?勝手に攻撃しちゃったよ」
そんなセリフが正弘の顔をした勇者からつぶやくように発せられた。
え?今何て言った?――いや、それより集中だ!
すぐに第二撃が来た。
ガシーン!またも何とか盾で防ぐ。オレは少し後ろに下がった。手が痺れる…。
正直焦った。剣先が見えないのだ。動きが速くて圏の動きが予想しづらい。
さゆりんが高速で走っていき、すすむの後ろへ回り込む。さすが山んば足が速い。牙をむき出しにして、爪でひっかこうとしている。こわ…いつものさゆりんではない……。
すすむが後ろを向いた。さゆりんの方へ歩を進める。
オレは後ろから斬りかかろうとした。
いきなり振り向くすすむ。
カシャーン!
オレの剣とすすむの剣が交差した。
オレは間近ですすむの顔を見ることになった。やはり目の焦点がオレに合ってない。どこか別のところを見て攻撃していた…。
何だかぞっとしてしまった。うまく説明できないがこれは正兄だけど、正兄じゃない…相対しているとそんな感覚だ。
「正兄!分かるか?オレだが分かるかっ!?」
とオレは話しかける。
正弘は視点が合っていない。無言のまま押す力が増してきた…。
オレはよろめく。
正弘の顔をした勇者が剣でさらに攻撃を加えようとしてくる
するとバサーが空から急降下して足の爪で正弘の頭に打撃を与える。
オレを突こうとしていた剣を勇者が素早く上へ突き上げる。バサーが刺された。勇者はそのまま右方向へジャンプして位置を移動する。
「クアアアー!」
飛ぶ速さ、着地の速さ――これは人間の動きではない。機械の動きだと思った。
「バサー!」
一方、さゆは後ろから勇者を襲おうとするはずが、ぴたりと動きを止めてしまっていた。
「どうしたっ」
とオレが叫ぶ。
「だめだ。だって、こいつはすすむだもん、すすむの匂いなんだよ!」
さゆは鼻が良すぎる。昔のすすむの姿とダブるのだろう。
これはまずい。
オレは正直に思っていることを言った。
「さゆ、この人オレの知り合いだと思う。従兄なんだ」
「こいつがかい!」
「うん!顔が従兄と同じなんだ…」
オレは素早く今の頭の中の考えをまとめた。
さっきこの勇者が言ったことはやはり独り言ではないのか――そうなら説明がつく。
今まで漠然としていた頭の中の予測がはっきりとする。
「きっと従兄はオレの部屋でゲームをしているんだと思う。だから今顔が従兄なんだ。勇者の顔は 名前じゃなくてゲームをしている人が誰かで変わるんだと思う」
「何だかよく分からないね!とにかくこいつはあんたの従兄…そしてそいつがあたし達を駒にしたすごろく遊びを今していて…そうすると動かしているその駒が従兄になるということかい?」
さゆは頭がいいな、と思う。オレが逆の立場なら理解できるか怪しい。テレビゲームのない世界。 自分の部屋の中でテレビとコントローラーで遊ぶ実体験がないのだ。
「ああ、そうだ」
正弘が剣をぶんぶん振って、バサーの体から抜く。バサーの体は草の中に落ちた。赤い血が草を染めていく…。やばい。
「クアー…」
オレは呪文「小気」を唱える。
「バサーは元気!バサーは元気!」
バサーの傷口はみるみる閉じていき、半分ぐらいの大きさになった。
正弘が奇妙な構えで突っ込んでくる。
ガシーン!ガシーン!二連続攻撃だった。何とか盾で防ぐ。勢いに押されて額にゴツン!と盾が当たった。
「いたっ!」
やばい、勝てる気がしない…もう少しレベルを上げてから挑むべきだったか。剣の動きが見切れないのだ。やはり鎧も着ておくべきだったんじゃないか?ブチャノバ!




