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第三章 崎山進の捜索(八)

魔物達と人間の村を襲撃することになっているので、ブチャノバとの剣の稽古を中断し、進はさゆとバサーとともに出発しようとする。そこへ…



さゆに足元にはどこから持ってきたのか、大きな頭陀袋が置かれていた。旅の道具でも入っているのだろうか。

正直気が進まないが、昨夜鬼達に何度も念を押されたので、行かないわけには行かないし、遅刻して行くのもはばかられた。

昨夜毛布の中でああいうことがあったが、さゆはどこ吹く風といったふうで、何事もないかのようだった。

足元に咲く小さい黄色い花々が風にそよそよ頭を揺らしている。陽光の中、ときたま蝶と一緒に春の匂いを運んでくるのだ。

もし元の世界に戻れないのなら、こっちで暮らすのも悪くないかな、とふと思った。

この世界は空気も澄んでいるし、気候もいいし、自然が美しい。どんな魔物ともうまくやっていける自信はまだないが…。

歩いていくと、さゆが草の上の袋を指して

「ここにあたしらの携帯食と水筒は入れておいたよ。あと傷を負ったときに塗る薬草もね」

そう言って袋から干し草を少し出して見せた。これは見たことがある。前に持っていた頭陀袋の中にも入っていた。

「少し持っていた方がいいよ。使うときもあるから」

オレはそれを受け取ると、服の左ポケットの中に入れた。

「助かるよ。じゃあこれはオレが持つな」

オレは袋を持ち上げて背中にしょった。そんなに重くはない。筋トレのおかげだろうか。

ふぁさっと左の頬に風を感じた。

バサーがオレの左肩にとまったのだ。

「俺、先に行く!道案内する!木にとまる!そこに向かって来い!」

「そうか。分かった」

オレはバサーが飛びやすいように左手を前に出す。

バサーは左手の甲にまで進み、翼を十分に広げてからまた空へと飛んで行く。バサーはある程度の高さまで行くと、ターンしてオレの後ろへ飛んで行く。そして遠くの木の枝の一つにとまった。ここまで来いということなのだろう。まったく、頼りになる奴らだ。

「じゃあさゆ。早速行こうか」

「うん。ゆこう」

そのときだった。

「スズブー!クアー!クアー!クアー!」

と、木の上を離れたバサーが鋭い声で空を飛びながら鳴き始めたのだ。こっちへまた戻って来る…。

何事かと思っていると、前方でビュウウウ!というものすごい風が吹くような音が聞こえた。後ろのさゆが叫ぶ。

「あっ、スズブー来たよ!こりゃ「すすむ」だ!昔のあんたの匂いだよ!」

オレが振り返ると、空間が輝き始めて、中央がぼやけていた。

何かこの光景は、ゲームを開始したときに何度も見たことがある。

――セーブしたところから始めるときのあの演出か!――

ということは…もうすぐ、あの中から勇者の「すすむ」が現れる!

向こうから来てくれるとは、探す手間が省けたというものだ。しかし何で急に現れたんだろう――いや、今はそんなことより戦闘に集中しなくては。

ブチャノバが

「スズブー。我関せず!頑張れよ!」

と言って、勇者のそばから離れていく。たぶん向こうの岩場に行って高みの見物でもするのだろう。

「ああ、分かってる!」

そして二名に向かって叫ぶ。

「さゆ!バサー!戦闘準備だ!援護を頼むぞ」

さゆが緊張した顔で叫ぶ。

「分かった。あの「すすむ」はマジ強いから。ヤバかったら逃げるよ!」

「クアアアー!了解、了解」

光の中から人の形が現れていく。そういえば最初に戦う相手が魔物ではなく、自分とはおかしなものだ。

油断はならない。勇者はみんな強敵だ。鬼をあっという間に倒した「よしお」も強かった…オレはその時のことを思い出して背筋がぞっとした。

だが、今はオレも強くなっている…。

すると後ろでさゆが

「何か…やっぱり気がすすまないねえ。だって、あっちもあんただもんねえ…でもこっちもあんたなんだよねえ…」

と、この期に及んでゴニョゴニョ言い出した。

大丈夫か?あんま頼りにならないかもしれない…。

人の輪郭の中もだんだんはっきりしてきた。

――あ、ほんとにオレなのか…――いや!何か違うぞ。

確かに装備している物は見たことがある。だが、オレと同じ顔をした男ではなかった。

「あれ?何か…正兄まさにいみたい…」

そこにいたのは従兄の島田正弘そっくりの顔をした人物だった。

正弘の顔をした男が鎧を着て、剣と盾を持って立っているのだ。「空色の鎧」は確かどこかの祠で見つけた古代の鎧、複雑な模様の剣はたしかでダンジョンの宝箱で見つけた「渦巻き模様の剣」、紺色で龍神の模様の入った盾は武器屋で購入した「木の盾」だろう。昔コツコツオレが集めた物ばかり…。だからこれはオレが動かしていたキャラクターだろう。でもなぜ顔が違うのだ…。

疑問が湧いてきたが、勇者を前にしていてそういうことを考えるのは危険だ。

オレは今持っている装備を確認して勇者の物と比較した。宝剣は最初からあった物だが、盾はブチャノバ作。試練の谷に住む鍛冶職人が作る武器だから悪いものではないと思う。おそらく勇者の装備引けはとるまい。だが、今のオレは鎧を着ていない。綿が入ったような格子柄こうしがらの着物を着ているだけである、ブチャノバに言わせると、鎧は重いから動きが鈍くなる。軽装備でも盾で防げば問題ないらしい…。

まあブチャノバの体は筋肉質で象のように硬そうなので、それでいいのかもしれないが、オレは着た方がいいんじゃないかと思ったが、それでいいらしい。確かに人間より皮膚は硬いのだが…こうなりゃ全部防ぐだけだ。

山んばのさゆがオレの横に立つ。何だか険しい顔をしていた。バサーが戻って来て、その後ろでホバリング。オレはすでに宝剣を鞘から抜いて構えていた。




進のセーブデータを起動させてゲームを始めたものの、「試練の谷」というよく分からん場所に主人公キャラが現れた。

「さてと…まずはその辺歩き回ってみようかな」

僕は独り言を言って、コントローラーの十字キーを押してキャラを動かし始めた。

勇者「すすむ」が歩き回る。まずは敵を捜そう。

すると、真っ暗な画面に切り替わり、戦闘になった。



【牛頭があらわれた!山んばがあらわれた!オオタカがあらわれた!】



画面には牛の頭をした妖怪と、髪がぼさぼさの女の妖怪、そして鳥がいる。

ええと、戦闘のやり方を見ないと分からんな……。

僕は説明書を開いて、戦闘方法について書かれたページを探し始める。



【すすむの攻撃!牛頭に3ポイントのダメージ!】



「あれ?勝手に攻撃しちゃったよ」

僕はコントローラーを動かしてないのに、何でだろう…。

そういうのも含めて調べないとな…。

僕が説明書を見ている間、戦闘は勝手に進んでいった…。



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