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第三章 崎山進の捜索(五)

剣と呪文の練習が終わり、進達が食事をしていると、黄鬼と茶鬼が来て情報をもたらしてくれた



さゆがカレーを平らげて口を拭いながら

「じゃあ、宗明はそこの牢屋にでも入れられてるのかねえ」

すると黄鬼が首を振る。茶鬼が代わりに答えた。

「大神官だ」

さゆが首を傾げて

「え。大神官?」

今度は黄鬼が言った。

「大神官の名前を言ってみろ」

さゆが宙を見つめる。

「名前…何だっけかな。あ、ええと……む……むね…………ああ、思い出した!「むねむねあきんど」じゃないか!」

何だ、そのキラキラネームは?

茶鬼が当然のごとく、

「そうだ。「むねむねあきんど」だ」

続けて黄鬼が

「恐れ多い「むねむねあきんど」…」

などと言うものだから、オレはうっかり吹き出しそうになった。

鬼の漫才コンビはタイミングを見計らって一発ギャグをかましてくるようだ。油断してはいけない…そう言えば小学校の頃、給食の時間にさっちんを笑わせて、奴の口から大量の牛乳を浴びたことがあった。

「むねむねあきんど」とは妙な名前だ。まるでプレイヤーがゲームの主人公キャラに付けるときのような気楽さで付けることはありそ……ああっ!そうだ!宗兄だ!自分の名前が宗明むねあきだから、きっと勇者に「むねむねあきんど」とか付けたに違いない!宗兄カッコ悪…。

「な、なるほど…大神官になっていたのか、宗明さん…」

どういう背景でそうなったのかは不明だが、行方不明になって八年ほど経つのだ。すっかり変わっている可能性はある。ただ、まさか大神官だったとはね…。

さゆが不思議そうにうなずく。

「ふうん、名前からして同じ奴だね。宗明ってのはずいぶんえらくおなりだこと。あたいらもうっかりしてたわ」

黄鬼が言う。

「仕方ないさ。みんな大神官と呼ぶから、普段名前の方は忘れちまっているからな」

続けてオレもフォローする。

「そうだよな、分かるよ。天皇陛下だって普段名前はニュースに出なくて、呼び方が天皇だし」

茶鬼が首を傾げる。

「お前は何を言っている?何の話だ」

やべっ!

「いや、その…うちの親父の呼び方の話だ。お父さんと普段呼ぶからみんな親父の名前を忘れてしまうというやつだ…」

よくわからんごまかし方をした。

黄鬼が真顔でオレを見た。

「いや、忘れないだろ」

茶鬼がさらに首を傾げ、

「いや、忘れないと思う」

ブチャノバも顔の真ん中に皴をキュッと寄せて

「そんな変な奴がいるのか。汝は親はいないんじゃなかったのか」

「ま、まあオレの話だ!みんなの話じゃなくてさ!」

ごまかしきれてないがそれ以上は追してこなかった…闇の空間に微妙な空気が漂う。

さゆが話をそらすためだろうか、

「そう言えば友達が言ってたけど、今日は雨が降るらしいよ。「のぼり」らしい。そろそろじゃないかな」

と天気の話を持ち出した。

茶鬼がブチャノバに

「ここに防水座布団はあるか」

と訊くと、ブチャノバ脇に置いたリュックの中から薄い座布団を三枚ずつまとめて出してきた。いろんな色がある。

「もちろんだ。これを使ってくれ」

と言って全員に配り始める。オレは山吹色をした座布団を受け取る。妙に硬い。

ブチャノバが小声で

「使い方は分かるな」

と訊く。

「雨が降ったら、これを頭に被るんだろ」

「いや、体を座布団からはみ出さないように座って、そのままでいろ」

オレは座布団を尻に敷くと、足や尻がはみ出さないように座った。

さゆが怪鳥に向かって叫ぶ。

「バサー!お前の体内時計は今何時だい?」

バサーは羽繕いを中断して宙を見上げて何かを思い出すような動作をし、

「クア~。ただ今八時五十ニ分!次に腹がすくのは五時間二十二分後!」

「九時頃って言ってたからそろそろだね」

斜め上や斜め下を見ると、くつろいでいる魔物達がみのを着たり、座布団を敷き始めていた。

 そしてそれからしばらくして、ぽつぽつぽつと尻に妙な感触があった。そして雨がざーと降って来たのだ。下から。

 でも座布団を敷いているからオレ達は平気だった。

置いてあるカレーの皿が下からの雨粒でカタカタ揺れていた。

 「マジかこれ」

 下から降る雨初体験で改めて異世界にいると実感するオレ。

 さゆは皿をひっくり返して洗い始めている…。

 いったいどこから降って来るのだろう…雲一つ見えないこの世界の下をのぞき込んだが、雨粒が彼方から次々飛んでくることしか分からなかった。

 黄鬼が

「ところで物は相談だが…」

とまで言って言葉を止めた。

茶鬼が残りを引き継ぐ

「明日の夜、人間どもの村を襲撃しないか」

さゆが茶鬼に訊く。

「どこだい」

黄鬼が答えた。

「ニノサト村だ」

スタート地点から割と近い所にある村の名前だ。


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