第三章 崎山進の捜索(四)
従兄の正弘が進の部屋で「龍神の剣」を見つけてゲームを始める。一方、異世界の夜巣では日本風の手作りカレーを振る舞い、ブチャノバやさゆの話を聞く進。そこへ…
「おお~い、おお~い」
遠くから声がしたので、オレが振り向く。
「ははぁん、この匂い…きっとあいつらだ。前にあたいとバサーを捕まえた鬼どもだよ。黄色と茶色のね」
とさゆがつまらない物を見つけたように言った。
暗闇の中、声がした方向から小さな人の形が徐々に大きくはっきりして来る。さゆの言う通り、黄鬼と茶鬼がこちらへやって来るところだった。黄鬼の手にはひょうたんが握られ、それを二匹で回し飲みしながら歩いて来るのだ。
「おう!汝ら二名はこの前の。どうしたのだ」
とブチャノバ。
黄鬼がひょうたんから口を離し、
「宗明のことが分かったのだ」
茶鬼がひょうたんを黄鬼から受け取り、
「宗明のことが分かった」
と同じことを言ってからひょうたんに口をつけた。
早速情報を教えてくれるらしい。オレは心臓が踊った。
ブチャノバが「まあ座れ座れ」と促す。
「お前ら飯食ったカアー?」
と首を傾げるバサー。
茶鬼が胡坐をかきながら黄鬼にひょうたんを渡す。
「食った食った。猪肉をたらふく食ろうたわ」
「そう。今胃袋の中で味を付けているところさ」
と黄鬼が胡坐をかきながら受け取る。どことなく嬉しそうだ。
「その中身は何だい」
とさゆが訊くと、黄鬼がひょうたんをちびちびやりながら
「みりん醤油酒よ」
何ともけったいな酒があるものだ。
「安い酒を飲むね!酒は味噌酒が一番だよ」
さゆは前に捕まったことを根に持っているようだ。
茶鬼は笑って
「いいや。値は張るがコショウ酒が一番さ」
黄鬼は続けて
「いや、酒は希少な紅茶酒が一番さ。二番はみりん醤油さ」
と自分の推し酒の名を口にした。もはやこの世界は何でもありのようだ。未成年ということもあり、酒には興味がなかったが、その名を聞くと飲んでみたくなるような酒だ。
「我も酒は味噌に限るわ。なあバサー」
とブチャノバ。
「クアー!」
と返事をする怪鳥さん。
さゆが不機嫌そうに言った。
「というわけであたい達と趣味が合わないね。さっさと用を済ませて帰りな」
同じ酒好きだろとツッコミたくなるが違うらしい。
オレが聞きたくてうずうずしているのを察してか、ブチャノバが早速問う。
「で、宗明はどこぞにいる」
茶鬼がもっそり答えた。
「神殿ぞ」
「神殿だと!」
ブチャノバがぐあっと口を開けてすっとんきょうな声を上げた。中のカレーが見えた。
何やら大変な場所にいるらしい。
「茶鬼。その神殿ってどこにあるの?」
と素朴な疑問を口にする。
茶鬼がじっと不思議そうにこちらを見て
「知らぬか」
黄鬼もつぶやく。
「知らぬとは笑止千万」
だが、ぴくりとも笑わない。
あ、やばいな…あまり不用意に聞くのは…。金助のときにこりたので、もう少し慎重にならねばならない。ここは質問しても安全な日本とは違うのだ。
ブチャノバが黙っていたほうがいいぞとオレを諫めるように見て
「大神官のいる神殿だ。この国の魔族達を治め、蛇神を使い、龍神一族を滅ぼそうとする大神官だ」
あ、かなりやばい奴だ。ラスボスの手前ぐらいの。確かに北の方にあるんじゃなかったっけ。説明書にマップが載ってたな…。
さゆがルーのかかっていない箇所のオレンジ麦をむしゃむしゃしながら訊く。ほっぺに七粒ほど米と麦が付いている。
「でもどうして神殿にいるって分かったのさ?」
黄鬼がさゆを見て
「神殿に仕える魔族がそう言っていたのさ」
茶鬼がカレーを見て
「妙な匂いだ。お前何を食っている?」
とさゆに質問をした。
「見て分からないのかい。麦だよ。」
とさゆははぐらかす。
茶鬼もそれ以上は訊かなかった。
「まあこれでも食ったらどうだ」
とブチャノバが茶鬼に緑色の漬物のような物を勧めた。黄鬼が横からその小皿をのぞき込み、嬉しそうに発した言葉は
「龍神漬けか!」
というものだった。
何だそれは…福神漬けじゃないのか。
何だかオレのいる世界と違うようでいて似た世界。どうなっていやがる…。
黄鬼の口からポリポリと音が聞こえてきた。
茶鬼も
「こりゃ酒の肴にちょうどよい」
などと手でつまみ始めた。




