表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/74

第三章 崎山進の捜索(ニ)

進が行方不明になってしばらく後、従兄の正弘が進の家にやって来た。オカルトに関心のある正弘は進のメモを見て、違和感を抱き、竜神の剣のゲームに行ったのではないかと推理する



 僕は進の部屋へ戻ると、お盆を床に置いた。そしてテレビをつけて、ゲーム機の電源を入れた。まずは進のセーブデータをさがそう。何かわかるかもしれない。

メモリーカードが本体に刺さっていることを確認し、タイトル画面でコンティニューを選択。あった。この「すすむ」というセーブデータがそうだろう。「すすむ」はレベルが二十五だった。

 僕はデータを選択して、このゲームを進めることにした。

 山に囲まれている黄緑色のフィールド画面が現れた。「試練の谷」という文字が画面の下に表示されて、すぐに消える。

 ビュウウウという効果音がして、フィールド画面の中央が輝き始め、「すすむ」らしきキャラが一人、画面中央に現れた。

 ――よおし、こいつを動かせばいいんだな――



 オレが夜巣の中で寝そべっていると、突然じりりりと目覚ましのようなアラームが巣内に響き渡り(いったいどこから鳴っているのかと思ったが)、オレが起きると、横の空間からみるみる穴が広がっていき、陽光が差し込んできた。他の場所でも同様のことが起きているらしく、あちこちの魔物達のそばで穴が開いていた。そしてさゆが穴の外に出るともう一人の山んばの「ゆかりん」と挨拶をしている声が聞こえてきたという訳だ。

 何でも穴は朝になると魔物達の近くで自動で開くのだそうだ。そして毎回、交代する魔物達がいる近くに自然と出られるようになっているのだそうである。ただ、その交代する相手が一定の場所にいるときだけで、例えばその範疇外の遠くの草原や、あるいは山、海などの平地ではない場所にいるときは近くに穴ができないそうなのである。そのときは別の場所に穴が現れ、交代できないということになるらしい。キノコ狩りのとき、さゆりんが山で魔物達に捕まったため、ゆかりんは交代ができなかったらしい。

 ゆかりんは「じゃあ、あたしは昼巣に帰って、ししゃもでも食らうかね」と言って穴に入って来た。夜に現界で活動する者達は朝に帰って昼間寝るので、夜巣のことを昼巣と呼ぶらしい。つまり、昼巣も夜巣も同じ場所のことなのだ。

 「現界」でのブチャノバの特訓は厳しかった。

 最初は薪割りの続きから行い、茶色い牛の頭の魔物である牛頭ごずというキャラになった。変身にはさらに上があるのだが、この牛頭が強くなるにはいいということで薪割りはおしまい。剣の訓練が始まった。

 さゆが携帯している手鏡を見せてもらうと、完全に牛さん頭になっていて、もはやオレの原型がないことに一抹の不安、いや、そんなものではないぐらいの不安を覚えた。

牛頭は剣を装備しているキャラで、変身と同時に宝石がたくさん付いた黄金の宝剣も現れた。ブチャノバの話によると、これを振るたびに体が自然と浄化され、傷口はもちろん、風邪なども治るのだそうである。

 まずは剣を鞘をおさめた状態から抜くまでの動作の訓練から始まった。今は試練の谷の湖のほとりである。例の黄緑の草原が広がり、蝶が遊ぶのどかな場所だ。遠くで龍神が鼻だけ水面に浮かべて泳いでいるのが見える…。

 ブチャノバの特訓は互いに向き合う形で始まった。バサーとさゆりんは近くで寝転がって見物していた。

 「いいか。汝の前に勇者が立ちはだかり、敵意のないそぶりを見せたとしよう。汝はどうする?」

 「こちらは先制攻撃か?」

 「そうではない。こちらも敵意のない形で相対するのが構えというもの。それには鞘の中で剣をおさめているのが良い」

 魔物なのに随分と礼儀正しい作法を教えるな…と意外な気分になる。

 「そして相手が危険な奴と分かれば…」

 そう言うとブチャノバは鞘に手を置き素早く剣を抜いた。ひゅんと空を切る音がして、いつの間にかオレの前で剣の先が静止している…。

 「こちらから剣を払うのだ」

 まったく油断ならない…。

 「やってみよ」

 このように剣を抜く前の動作から何度も練習させられたのだった。平和な時代の剣術という気がしたが、これもやっておいて損はないだろう。

 次に剣の構えから始まり、振り下ろし、素振り、盾の使い方、実践、筋トレ…と続いた。

 実践はブチャノバとの一対一の戦いでブチャノバ曰く「当たっても痛くない木の棒」を使って行われた。と言っても十分痛いのだが、ブチャノバにとってはそれほど痛くないのかもしれない。

何度も棒を交差させ、腹や腕に棒の一撃を食らう。交差のときは手が痺れることもあった。こちらの攻撃はなかなか先に命中しない。

 剣を振るばかりだと

 「そこでなぜ盾を使わん!」

 疲れてくると

 「左に振るのが遅い!」

 弱気になると

 「攻撃を受けたらすぐに踏み込め!」

 とかブチャノバから的確なアドバイスが来る…が、だからといって、次にできるとは限らないのだが。

 攻撃を受けたり、突然タックルを浴びせられて何度かふっとばされた。傷を負い、あざもできたが我慢した。奴の力は恐ろしく強いだけでなく、素早い動きもでき、体も固いようだった。攻撃を受けるのは刃こぼれをするため、なるべくなら避けた方がいいようなのだが、まあそうも言ってられないのが現状だ

 いい加減、途中でやめたくなったが、言いだした手前オレは続けた。

 まったくこんなことになるなら剣道の一つでもやっておけばよかったと思った。昔剣道の見学をしたときにみんな姿勢が良かったことを思い出し、ブチャノバに背筋を伸ばした方がいいのかと聞いてみたが、関係ないとあっさり言われた。そういえば戦国時代の戦いの絵などを見ると、猫背のものもあったのを思い出す。今の剣術とは違うのかもしれない。

 ちょくちょく休みを入れ、特訓は続けられた。物理戦闘の練習が終わると、呪文の練習だ。これは山んばのさゆりんが担当してくれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ