第二章 龍神の剣の世界へ(二十四)
夜巣で鍋を囲みながらブチャノバやさゆりんに質問をする進。この世界のこと、出会った者のこと…進はそうやってこの世界のことを理解をしていく。春の夜は更けていくのだった…
オレは元いた世界に帰る方法を探ってみることにした。
「奴らにもねぐらのような場所はあるのかな。そこを襲撃すれば勝てるかもしれないな」
「それがわからんのだ。白い旗が立っている祠みたいなところまで行くと、奴らは消えることがあるらしい。見た者が何匹もおる。魔族達は呪いの祠だと恐れて近づかん。いずこかへ去っているのであろう。どこに行くのかは謎だ。見た者はいない」
「ほ、ほう…そうなんだ」
そりゃセーブポイントのことだよ。こっちでは呪いの祠かい。
オレはうなずいた。
「うん。そりゃ、どこかに行ってるんだろうなぁ」
そこに行けば向こうの世界に戻れるかもしれない。今度試してみようかな…いや、待てよ。前の「すすむ」はセーブポイントでセーブした後でもこっちの世界にいたんだよな。さゆがそう言ってなかったっけ。
オレはそう言うとちら、とさゆの顔を見る。さゆはせっせと緑の野菜を口に運んでいる。
「さゆ。勇者って白い旗のある場所からどこに行ってるんだろう?」
「さあね…知らないね」
と素っ気ない。あたしが何でも答えられると思っているのかい!と言った感じだ。
ブチャノバはじっとさゆを見て、ふんと鼻を鳴らし、
「…汝は知ってるだろう。勇者とともに行動をしていたはずだ」
「すすむは帰らない勇者だからね。だから知らないよ。白い旗の場所には何度も行ったことあるけ ど、あの人はそこで何かおまじないをして気合をいれていたね。それだけで、別段どこかへ消えるなんてことは一度もなかったな」
「夜巣に泊まってたんだよな?」
とブチャノバ。
「たいがいそうだったね。ま、あの人は現界に残ることもあったけどさ」
何だと…じゃオレはセーブポイントまで行っても帰れないのか。しかしここに泊まるって…。
「大丈夫だったの?こんな魔物がたくさんいるところなのに」
「まあ、周りから白い目で見られはしたけどね。けど、ここは中立地帯だからさ、争いごとは持ち込まないって決まりがあるからね」
そう言えば、スーパーからの帰り道、俺たちを見る目が厳しかった気がするが、あれは気のせいではなかったということか…。
「さゆ。お前すごいな…」
「そうかい?あたいは昔から諦めがいいからね」
そういう問題なのか?魔物を殺しまくっている勇者と一緒に行動して、しかも夜巣にまで一緒にいて…それは白い目で見られるだろう。怒った魔物から攻撃されてもおかしくない。
「魔物ってすげーな」
オレが感心すると、ブチャノバが笑った。
「何でだ。汝もその魔物ぞ」
「いや、あっさりしてるからさ。勇者が殺した仲間とかもいるのに、復讐とかしないじゃん」
すると、ブチャノバが笑うのをやめて不思議そうにオレを見ていた。
「そうか?別に普通だろ」
「いや、すげーよ。徳が高いというかな…オレはそう思う」
ブチャノバは味噌酒の入った小皿を持って、ぽつりと言った。
「死ねば生まれればいい。それだけよ。気づくとまたどこかの世界に現れるんだろうな」
「……俺達は親から生まれないの?」
「親から生まれる?何を言ってるんだ」
「いや、そういうものだろ」
オレがそう言うと、ブチャノバはまたおかしそうに笑った。バサーがじっとそれを見ていた。さゆは 黙って鍋をかき回している。
「生まれるとはこの世界に急に現れることだ。そのとき近くにいて面倒を見たいものが親になるこ とはある。しかし一人で生きていく者も多い」
なんつー世界だ。不思議だ…。
この世に現れるね…オレは気づいたら山んばと見知らぬ草原で寝ていたし、起きたら金助がオレの体に何かしたらしく、小鬼に変わっていた…そんな感じで気づいたら現れているってことか?
あ、そうだ。金助のことを訊かないと。
「あのさ、ブチャノバ。金助って知ってる?」
すると、ブチャノバの顔の中心にみるみる皴が集まっていった。
あ…何かやばいかな…。
ブチャノバは不機嫌そうに低い声で言った。
「どこで奴のことを聞いた?」
「ええと…草原で、その、よしおにさ。奴は金助を探してるって言ったんだ」
森の中で金助に会ったことは言わないほうがいい。勇者「よしお」に会う前の話になるので信憑性がなくなり、ややこしくなる。
「むう。よしおが…」
さゆはオレの顔を見て、
「金助は噓つきだよ」
「まったくけしからぬ」
ちなみにさゆには金助に騙されたことをすでに話してある。金助の家で鬼の姿に変わったことを言 っても別段驚きもせず、そういうこともあるかもねなどという静寂極まる感想を述べていた。
「あいつは人間なんだって?」
と俺が言うと、ブチャノバが
「という話もあるが詳しくは知らぬ。近くの森の中に別荘があると聞くぞ」
そこで会ったんだよ…。
「じゃ他にも家があるんだ」
「奴はあちこち移動しながら暮らしているらしい」
「ふうん」
じゃあ、あいつはどこかの別荘へ行ったのかもしれない。奴を捕まえて、どうにか人間に戻る方法 を探さないと…。
その後、料理をたらふく食べ、味噌酒を勧められたオレは飲んでいるうちに案の定、酔っぱらって、その後は魔族に伝わる踊りをさゆに教えてもらいながら踊り、そして寝てしまった。味噌酒の味はしょっぱくて、むっとするような芳香と一緒に後味に甘さが残った。
今頃、父さんも母さんもどうしていることだろう…という思いが一瞬、脳裏に浮かんだ。
明日は、というかこの世界には明日はあるのか不明だが、ブチャノバとの特訓だろう。どうなることやら…。




