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第二章 龍神の剣の世界へ(二十三)

夜巣で食材を買い込み、ブチャノバと合流した進。さゆりん、バサーと四名で鍋を囲む…



オレは酔っぱらって寝てしまいそうだったので、その前にブチャノバにいろいろと質問を浴びせた。

「そう言えばブチャノバはどうしてすぐにオレだと分かったの?初めて会ったときは緑の小鬼だったのに」

「ん……それはまあ「本体」を見れば分かるからな」

とさかずきの味噌酒を飲みながら愉快そうに答えるブチャノバ。少し笑って牙が見えている。

今、さゆはバサーと何かしゃべりながらお玉で鍋を漁っている。どうやら生肉ばかり食べないで、茹でた肉や野菜もうまいから食わないかとバサーに聞いているようだ。

「本体って何?」

「あきれた奴だ。まだ何も知らんのだな。本体とはその魔物がどんな性格であるか、どういう考えを持っているかなどを表す本質だ。ぼんやりと体の中心にあるように感じたり、見えたりするものぞ。何か実体があるわけじゃあない。ま、緑の小鬼だったしな…生まれたてなら知らんのは当たり前か…」

「本体」とは何だか不思議なものらしい。その者のエッセンスを集めたようなものだろうか。オレはそういうふうに理解することにした。さゆりんもすぐに「すすむ」とオレは同一人物だと認識していたが、それはオレの本体を感じ取っていたからなのか。

「緑の小鬼だとなぜ知らない?どうして…?」

「そりゃあお前、当たり前だよ。最初生まれたときは、みんな緑の小鬼から始まるからな。世間知らずで当然。まあ動物系は大和狼か毒持ちトカゲ、虫系は芋虫。種族によって異なるが、そこからだんだん経験を積むと姿が変わっていくのだ」

なるほど、やはりそういうことか。そういえば金助がオレにお前は最近生まれたのかと訊いてきたことがあったが、この世界に生まれたときは弱い魔物から始まるようだ。

「薪割りはそのためにやらせたの?」

「ふふふっ。質問の多い奴め。どうだかな」

と牙をきらりと見せる。

本当に見えるのだろうか。何だか心もとない。

「オレも本体は見えるかな…」

「ああ、それは練習すれば誰でも見える。目を凝らさず、聞こうとせず、かといってただ見るのではなく、ただ聞くのではない。中庸を心掛ければな。もっとも、できない者も多いのだが」

練習して身に着けるものらしい。だが、見ることができない魔物もいるということか…以前の俺が人間だったことを知る魔族に会ったら、オレが勇者だったことがバレてしまうのだろうか…それはやばい。けどゲームで、魔族は会えばたいがい倒していたので大丈夫だろう…。

じゃあ、現界でさゆが見ればあんただとすぐに分かるとか言っていたのはこの能力を持っているおかげだろう。

「んー…そうか。体の中心を見るのか…」

さっき、さゆにこの世界の歩き方を教えてもらったような感覚でやるのだろうか。

オレは皿の上の湯気が立っている肉を熱そうにつつくバサーを見つめた。肉はさっき、さゆがのせてやった物だ。ちなみに皿の端にはしいたけとほうれん草もある…。さゆりんがタレによく浸して食べろよと言っている。バサーの中心を見ても、特に見えてこない…その後さゆりんを見たが、何も浮かんでこなかった。まあ今はいい。それより今は質問だ。酔っ払ってしまう前に…。

「ブチャノバのレベルは上がらないって本当なの?」

「ああ。我は固族だ。成長しない」

「どうしてなんだろうね」

「知らん。我は生まれたときからこうだった。気づいたらここに住んでいた。そういうものだろ。汝も気づいたら、外にいたはずだ。つまり、生まれていた…それと同じことだ」

いや、オレはこの世界に来る前のことは、はっきりわかっているんだがな…。

「湖の龍神は?あれも?」

「龍神も元々いたものだ。だから体は変わらない。あのままだ」

はっきり理由は分からないが、最初から存在していて、レベルは上がって強くはならないキャラがいるということだ。まあそういうものなんだろう。元は、人が作ったプログラムだからかもしれない…。

オレは勇者について聞いてみることにした。

「勇者にはすすむの他にも会ってさ、危うく死にかけたよ」

「何?…いつ会ったんだ?」

「えっと草原で倒れるちょっと前かな…」

「何?草原で生まれたとばかり思っていたぞ」

「え。生まれた?オレが?」

何か下手なことを言うとまずいかもしれない。ついこの前まで人間であったことは悟られたくない。どう答えたらいいか戸惑っていると、さゆが

「生まれて歩いていたらすぐに会ったらしいんだよ。そいつにやられて気を失ってしまったらしいんだ」

と助け船をした。もちろん嘘である。

「なるほど。そうだったのか。お前も運がないな。勇者にどうやられたんだ?」

「うん、たぶん呪文をかけられてね。何か冷たい感じの奴だったな。表情がないんだよね」

「うむ。勇者とはそういうものぞ。げに恐ろしい…そいつはどんな顔をしていた?」

「えーと、一人で歩いていて、顔は白くて、無精ひげがあって…」

「…じゃ、そいつはおそらく勇者の一人「よしお」だ」

「よしお?」

「うむ。よしお、トンヌラ、アリーナ、コミコミ、そして、すすむ…よく現れる龍神族の勇者だ。汝も気を付けろ。この夜巣には定期的に密偵からの情報が寄せられる掲示板がある。そこで名前や顔、武器やレベルを確認することだ」

「そんな場所あるんだ…何かいろいろびっくりだよ。あいつは「よしお」というのか…一言も喋らなかったんだよな、あいつ…」

「うむ。龍神族の勇者とはそうなのだ。奴らには深い感情というものがない」

すると、さゆが首を傾げ、

「そうでもないさ。すすむはよく喋ったよ。夢のこと、好きな食べ物のこと、故郷のこと…あたしはあいつのそこが気に入っていたんだ、あれはそんじょそこらの普通の勇者じゃないのさ」

ブチャノバはさゆを見てうなずく。

「確かに奴らは感情はあるな。そういうもたくさん見たぞ。「何だこの魔物、つえー」とか叫んだり、何か冗談言いながら戦っていたり、死んでも「あーあやられちまったよー」とか言って消えていく…不思議な奴らだ。人間はいつも何か真剣味が足りないというか、命のやり取りをするときでも余裕がある気がする」

ん?んん?……なんか変だな。それって、もしかしてゲームをやっているプレイヤーが言う独り言のことか?真剣な戦いの最中に、みんながみんなそんなことを言うなんて他に考えれないんだが…でも待てよ。じゃあ、何で前の「すすむ」はさゆと普通に喋れたんだ?雑談をしていたようだが。

「ああ。確かにそういう時期もあったね…でも会って二日目ぐらいで普通にあたいと向かい合って喋れるようになったのさ。確か…そう、急にあの人は変わったんだよ。あたいとは愛の言葉も交わすようになったのさ。ねえ。あんた」

さゆがオレの肩に手を置いた。何だか寒気がした。

オレはなまめかしいさゆの目を見ないようにしながら

「へえ。前のすすむはそうなんだ。よかったね」

と内心焦りながら今のオレと前のオレを区切った言い方で返す。

そうだったのか…じゃあ恋人同士だったのかよ?道理で呼び方が何か艶っぽいわけだ…まずいな…。待てよ…じゃあ、もしかしてセックスもしてるのか?マジ?

魔物と?あ、いや…でも子供とかできるのか。

ブチャノバは釈然とせぬといった渋面で、

「ふーむ。そうなのか。すすむというのは変わった奴だな…勇者はみんな喋りはするが、心ここにあらずという感じで、我に向かって話をするような話し方ではないんだがな…」


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