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第二章 龍神の剣の世界へ(二十)

魔物になってしまった進。その後、パーティ・メンバーの山んばとオオタカが魔物に捕まる。進は魔物の姿で魔物達と交渉し、その解放に成功。そこでブチャノバに自分が武器の稽古をしてもらう約束までとりつけたが…



「何と言うかな…昨日、こっちに来たばかりなんだよ…気づいたら君らがいてさ…」

この二名にはオレの身の上に起きたことを説明しておいた方がいいかもしれない。もちろん他の魔物には言わないと口止めしたうえで。これから共に戦うことになる仲間だし。

オレは山んばとオオタカを近くの石の上に腰掛けさせると、自分も座り、今まであったことの説明を試みた。ここはゲームの世界であること、向こうの世界でオレは「すすむ」を操作していたこと、だから山んばもオオタカも知っているということ、ワープしてここへ来たことなどだ。山んばはうーとかへーとか言って、つまんなそうに聞いていたし、オオタカもたまに口ばしで自分の胸のあたりをつついたりして暇を持て余したように黙って聞いていた。

「…というわけなんだ。まあ分かるよ。こんなこといきなり言われてもピンと来ないよな。この世界とはあまりに違う世界の話だからさ」

 オレが話し終えた頃には外は薄暗くなっていた。山んばが自分の肩をトントンたたきながら、

 「うん、昔すすむから聞いた話が多かったから、たいがいは知ってる内容だったよ」

 とあっさり言うので、

「ええっ!何それ!どうして?」

 と反射的に叫ぶオレ。

 「四角い箱の中に小さいあたしたちが住んでいて、あんたがそれを見ながら、動かしているんだろ?あたしたちは遊びの中に登場する、何と言うか、すごろくみたいな駒なんだよね。昔のあんたはそう言ってたよ。あたしたちは駒じゃなくてちゃんと生きてるってのにさ。失礼しちゃうよ」

 オレは口を開けっぱなしで、次のような感想を漏らした。

 「い、いや、前のすすむさんは表現がお上手なことで…」

 「すごろく」とかよくそんな例えができたな、と感心した。ゲームの世界のオレはこの世界の知識や常識があるからできたのだろう。それと、どうやらテレビという言葉はこの世界にはないらしい。

 「まあ「すすむ」の夢の話なんだけどさ」

 「夢?」

 「ああ。よく見るらしいんだよね」

 「夢じゃないよ。現実なんだ。オレはほんとにそういう世界に住んでいたんだよ」

 「ふうん…不思議なことがあったもんだね。じゃあ前にあんたの体にいた「すすむ」はどこへ行っちまったんだろうねえ」

 「さあな…」

 「ま。別段驚くほどのもんでもないけどね」

 「そうか…そうなのかな」

 「だって、別に驚くことはないじゃないか。別段、おかしなことじゃないだろう?」

 「いや、おかしなことだよ。だいたいオレは君達としゃべった記憶はないぞ…けど、あの「すすむ」ってのは、そんなにしゃべれるの?」

 「オアー、よくしゃべる!よくしゃべる!」

 どうやらすすむはおしゃべりな人物らしい。

 「いや、今のあんたとあまり変わりゃしなかったよ。あっちの「すすむ」も。しゃべり方もそっくり。あのときまでね」

 「そ、そうなのか…」

 でも何だか引っかかる…あのときまで?

 「いつから、変わったの?」

 「うん。何を聞いても答えなくなっちゃってさ。ある日、話ができなくなっちまったんだよ。魔族を見つけては斬りかかるようになるし。その前はそんなに何でもかんでも斬りつける感じじゃなかったんだけどね」

「そうだ、お前!おかしくなってしまった!」

「そのあと急にばったり倒れて寝ちまってさ、目が覚めたら何だか元のあんたに戻ったみたいで安心したんだよ。そいであたいはキノコを採りに行ったらあいつらに捕まっちまったというわけさ」

 何とも不思議な話だ。自分のことでもあるし、よけい気になる。体調でも悪くなったのだろうか。

「どういうことだろ…オレがいつから変わったか覚えてる?」

「えーと…今日は卯月うづきの二十四日だから…二十一日だね」

「そんな最近なんだ。何だろうな」

 いきなり狂いだしたとでもいうのだろうか…。

 「何か変わったことはなかった?変なもの食べたとかさ」

 「うーん…」

 山んばは思い出そうとしてるようだ。

 そういえば、こっちの世界に来たのはいつだ…。

 ブチャノバはどのくらいオレを看病していたのだろう…。

 ――あ、待てよ。薪を割りに行く前に何か言っていたな――

 たしか…「もう二日も寝ていたんだからいいだろう」とか言っていた…。

 じゃあ…二日間は寝ていた。その前だからこちらに来たのは、この世界の四月二十一日だろう。そのときはまだあちらの世界の自分の部屋にいた……では、そのときに例えば、何かオレの体調でも悪くて、それがこちらの世界の「すすむ」にも影響を与えたと考えられないだろうか。何かあったっけ…特に思い当たる節はなかった。

 変だな…まあいいや、いずれ分かるかもしれない。

 その後、オレは、ブチャノバや他の魔物の前ではオレのことを「スズブー」と呼ぶように二名に伝えた。「すすむ」だと分かったらどんな目にあうか分からないからだ。二名はすぐ了承してくれた。

 すると、小屋からブチャノバが顔をのぞかせ、

 「おおい、今晩飯を一緒に食おう!鍋にするから何かおかずになる物を頼む!」

 と叫んだ。

 おかずになる…物…?どんな…?

 すると山んばが

 「よし、任せておけ!」

 と叫んで立ち上がった。

 オオタカも興奮気味に「オアーオアーオアー」と羽を広げて鳴き始める。気合いでも入れているのだろうか。

 「えっと、また近くでキノコとか採りに行くのか」

 とオレが山んばとオオタカに聞くと、

 山んばが驚いたように

 「この時間に?本気?……ああ、そうか。ほんとに何も知らないんだね、あんた」

 「え。違うの?」

 「そんな動物みたいなことはしないよ」

 「動物って…この前やってただろ。じゃあ…まさかこれから人間狩り?龍神一族の人間を襲撃に行くとか?」

 「まさか。スーパーだよ」

 「じゃ、クレサト村の店に行って買うの?」

 すると山んばはけらけら笑って、

 「あんなところにスーパーなんてないでしょ!」

 と断定口調。

 「そりゃそうだけど、じゃあどこに?」

 「そろそろ交代だからさ。あがりなんだよね」

 「あがり?」

 「ああ。ま、あんたは関係ないんだけどね。向こうへ行くかい?あんたはたまにここに残ることも あるんだけど」

 「どういうこと?」

 すると、頭の中で聞いたことがある音楽が流れた。宿で一泊して朝を迎えたときの短い曲だ。

 びびるオレ。

 「あ。ゆかりんが来たんだよ」

 と山んば。


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