第二章 龍神の剣の世界へ(十九)
薪を割っているうちに強い鬼になっていく進。そこへ魔物の群れがやって来た。山んばとオオタカの解放のために魔物達と交渉を試みる進
オレはブチャノバに向かって言った。
「すすむが来なければここは平和になる。みんな死ななくてよくなる。だろ?」
「むむ…」
とブチャノバが唸る。
良い機会なのでオレは周りを見回して言った。
「ところで、みんな宗明という名前の人間に心当たりはないかい?」
一つ目小僧が首を傾げている。
黄鬼が「はて。そんな名は知らぬ」とつぶやく。
みんな黙ってしまった。
ああ、こりゃやっかいだ。宗兄がどの辺にいるかも分からなそうだ、と思った。
こうなれば聞き込みしかない。
オレは提案をしてみることにした。
「宗明を捜し出したいんだ。みんなは宗明という人間を知っているかどうか、知り合いに聞いてみてくれないか。そしてオレは宗明を捜しに行く。そこですすむと会って、もし宗明を捜していたことが嘘だったら、また戦わなければならない。だから鍛えておく必要がある。だからブチャノバに稽古をつけてもらいたいのだ」
山の神が言った。
「おう。そうだ。おう」
下駄お化けが一か所でどんどんと飛び跳ねた。
天狗が無表情にブチャノバの方を向いて、
「お主。考え直してくれんか」
ブチャノバが鼻の両穴から勢いよく息を出す。しゅううう!と煙が出たような気がした。何か少し酒臭い気がした…。
「我は人間が嫌いだ。しかしな。ここに人間達が来るのもまた定め。すすむの他にも凶悪な人間はいる…すすむだけ来なくなってもまた人はここに来るのだ…」
「魔族のためじゃ。協力せえ。ブチャノバ」
と、ろくろ首がうねうね首を動かして言う。
「さよう。異議なし」
と天狗。
提灯お化けが宙に浮かびながら、口をぱくぱくさせて
「この鬼を旅に出し、宗明を捜してもらおうぞ。それで帰らねば、すすむを成敗でよい」
茶鬼が「そうだそうだ」と言うと、黄鬼もそれに倣う。
一つ目小僧が「では、こやつらを助け、すすむのことを聞き出そう」と言うと、山の神が「我らは夜巣で聞き込みぞ」と提案のようなことをした。
「おう」「おう」「わかった」「承知」と口々に返答があった。
これだけの人数、意思の疎通をはかれたのが不思議だった。
ブチャノバがオレに言った。
「我の稽古は厳しいぞ。耐えられるか」
「だろうね。覚悟はできてるよ、大丈夫さ。ところでブチャノバは、よくオレがスズブーと分かったね」
と疑問を聞いてみる。
「当たり前だ。すぐに分かる」
「……外見が変わってるのに?」
「外見で判断する奴などいないだろ。何を言っておる?」
再び顔の中央にしわを寄せるブチャノバ。戸惑うときもしわをつくるらしい。
――じゃ、何で判断するんだ?――と聞きたかったが、耐えることにした。ここでこういう会話はまずい。周りで聞いている奴らがいるからだ。この世界の常識がないと分かれば、信用を失いかねない。
「ははは、そうだな」
とごまかしておいた。
その後みんなには二本の棒を地上に倒して置いてもらい、黄鬼や茶鬼たちに、山んばとオオタカの縄をほどいてもらった。
山んばを地上に下ろしてもらったときにはっきり見たのだが、かなり若い…そして美女だった。会うのは二回目なのだがこの前はすぐに駆け出して行ってしまったし、今回ははっきりと見ることができた。
――あれ?そう言えば、こんなに若かったっけ…確か、ゲームプレイ時に仲間にしたときはおばあちゃんだったよな――もしかしてすすむと一緒にいた山んばではないのかもしれない。そんな考えが頭をかすめた。
オオタカは縄をほどかれると、羽をたたんだり広げたりを繰り返している。不安なのか、羽の内側 を口ばしでつついたりしていた。
山んばは近づいて来ると、
「やっぱり助けてくれに来たね。あんたぁ。私は信じていたよ」
と顔を近づけてこそっと言った。
ぎょっとして山んばの顔を見る。なぜ分かる?それにここでそういうことは言わないでほしい。オレの正体がすすむと魔物達に分かったら、何をされるか分からない。
山んばの体は細いが、身長はオレぐらいある。薄笑いを浮かべていた。能面のような白さである。 その顔の目尻にしわをつくっていた。
だが、なぜわかるのだろう。今のオレは緑鬼の姿だ…いや、ブチャノバもすぐに緑の小鬼と鬼が同一人物だと気づいた。きっと山んばも何かで見分けているのだ…と思った。
オレは周りを見る。誰もセリフの内容に気づいてはいないようだ。
「誰にも言うなよ。内緒にしてくれ」
「わかっているよう。あんたあ」
…やはり知っている。その気配満点だ……。
魔物たちは無言で立ち去る者もいたが、多くの者は
「では、あの「すすむ」の討伐を頼んだぞ、緑の鬼よ」
「頼むぞ、緑の鬼」
「また会おう」
などと言って、おもむろに、ばらばらと立ち去って行く。魔物たちの後ろ姿が遠くなると、ブチャノバが
「飯の支度をする」
と言って、小屋へ戻って行った。
他の魔物たちはオレが人だと気づいている気配はなかった…。
「山んば。どういうことだ。どうしてオレだと分かるの?」
「そりゃあそうだよ。見てすぐに」
「どうして?」
「あんただって、あたしだってすぐに分かったんだろう。それと同じことさ。好きっていう強い気持ちがお互いを知らせ合うんだよ」
違うって!山んばはお前しかいないからだよ!とツッコみたくなった。
「クアー!」
とオオタカがタカらしからぬ鳴き声で翼を広げてきた。
「うおっ?」
一瞬、攻撃だと思って思わず顔を覆う。
「…何をやってるのさ?大丈夫だよ」
「え?」
山んばの冷静なツッコミに、腕の中からのぞくと、オオタカが近くでバサバサしてホバリングしていた。
「 オアー!また会った。ガアー!うれしや、うれしや」
オオタカの声は高い声で、早口だった。
「マジか!しゃべれるのかよ!」
「クア~?」
それは「は~?」という意味か?もはや、形が鳥なだけで、ほとんど人間じゃないか…。まあ魔物 だからな。普通の鳥ではないんだろう。
「あ、すまん。君達の記憶がないんだ」
「え。忘れちまったのかい?」
「まあ…早い話が…」
「どういうことだい?」
と心配そうな顔をする山んば。




