第二章 龍神の剣の世界へ(十五)
行動を共にしていた鬼がやられ、勇者の呪文攻撃でダメージを受けながらも逃げる進。途中気を失い、そして…
どのくらい時間が経ったろう…。オレは宗兄ちゃんと二人で白川郷にあるような三角形の形をした家が燃えるのを見ていた。
あれは誰がやったんだろう――ふとそんな考えが浮かんだ。
オレが自分の右手を見ると、たいまつが握られていた。いつの間に持っていたのだろう。
とにかくオレがあの家に点火したみたいだ。
「進、それ!」
宗兄ちゃんが蒼白になった顔で、オレのたいまつを見て叫ぶ。
「し、知らないんだ!こんなの知らない!」
オレが叫ぶ。
人が集まって来るのが怖かった。
「おいおい。大丈夫か~」
大丈夫じゃない、やばい……。
「目を開けろ」
いや、目は開けているだろ!
「お、動いたか!」
何だ、この声は…近いな…。
「ン…ンン~!」
オレはうなって目を開けた。また火事の夢を見て、うなされていたようだ。
天井が見える。茶色い天井だ…何だ、オレの部屋か…いや、オレの部屋の天井は白いんだが……
え。ここどこ?
オレが横を見ると、坊主頭の男の顔があった。上半身裸で、筋肉質だ。下唇から牙がはみ出て、上へと伸びていた。
一瞬、風呂上がりのうちの父かと思ったが、こんな顔はしていないし、父は髪がある。
周囲を見ると漆喰の薄茶色の壁があり、部屋の中央には太いいびつな形の焦げ茶色の柱が立っていた。よく見ると、天井からは一部、藁のようなものがはみ出しているのが見える…。
――あ。そうか、…オレ、まだゲームの世界の中だ…――
この方はゲームの世界の住人だろう…どこかの村人かもしれない。
「えっと。オレを看病してくれたんですか。誰ですか」
「ブチャノバ」
「え?」
「ブチャノバ」
「え?ぶちのめす?」
「ブチャノバは名前だ!緑鬼の小僧!」
――緑鬼の小僧?――何を言ってるんだ、この人は…と思って、ふと自分の手を見た。緑色している。細い。いや、それだけじゃない。足も見事なくらいグリーンだ。今、オレは上半身裸で、身に着けている物といえばいくつかの四角形の模様が描かれた柄の腰布一枚である。
……全身から血の気が引くのを感じた。今のオレの血は何色なのだろうかという考えが一瞬、頭をよぎった。
――そういえば、緑の鬼に姿を変えられたんだっけ…おそらくあの金助が何かやったんだろう。あいつめ…。
視界の上部に何か入ったので見つめる。髪の毛だ…手に取ると、パーマをかけたような感じになっており、昼間の明るさの中で見ると、朱色に近い赤だった。触るとてっぺんには硬い角もある。美容院に行ってもこうはならない。口内で舌を動かすと、奥の方の歯が少しとがっていた。どうやら牙があるようだった。
そういえば緑の小鬼と言えば、「龍神の剣」の最初の村の付近に現れる、弱い魔物である……どうも今のオレはそうらしい。
オレはブチャノバと名乗る男らしき人物をまじまじと見つめた。
こいつも人間に近いが、人間ではない。ましてや父でもない。
これは…これは…オーク?いや、それは西洋の怪物だ。鬼?いや、もう実際に会ったが、こんな外見ではなかった。じゃあホブゴブリン?それに近い気がするが、いや、だからそれは西洋だ。じゃあ、山父?……いや、外見の具体的なイメージが湧かない……まあそういった類いの、つまりはこのゲームの中の何かの怪物なんだろう。このしゃべり方から考えるに、すごく短気な気がする。いや、でも看病してくれたんだし、それは失礼だろう。まずは礼を言うべきだ。
「あ、失礼。あなたの名前でしたか…助けてくれてありがとうございます。」
「ふむ、礼儀はあるようだな」
「あの…」
「何だ」
「オレはどこに倒れていたんですか」
「外だ」
「ああ、そこですか」
外ってどこだよ!具体的に言え!と突っ込みたくなったが、言うと怒られそうなのでそこはスルーした。
「ここはどこです?」
「試練の谷だ」
「ああ、あそこ…」
部屋でプレイしていた場所だ。つまり、オレが勇者から逃げて向かっていた場所で、龍神のいるところだ。試練の谷の近くの草原で倒れていたのを見つけた…ということなのだろう。
ということは…ここはゲームをしていたときに、行くのを後回しにしたあの山小屋か…。こんなことになるなら最初に行っておくべきだったかもしれない。そうすればブチャノバが何者かもわかったろう。いまいちこのブチャノバが敵なのか味方なのかよく分からない。山小屋で暮らしているのだろうが、なぜ龍神の住むこの試練の谷に住んでいるのかが分からない。もしかしたらボスキャラなのかもしれない。
「ところで、汝の名は?」
「進です。崎山進」
「すすむだぁ~?最近我ら魔族を襲う不届き者と同じ名前の進だとっ?」
「え。あ…」
そうか、オレは勇者の名前を「すすむ」にしてプレイしていたので、魔族の間では有名になっているのか。や、やばい!今までに何匹魔族を倒したかわからない。
「あ!言い間違えた。オレの名前はスズブー、スズブーだ!」
魔族らしくいかめしい顔と太い声で言った。急なキャラ変。
「そうか、スズブー。じゃあ起きろ」
ブチャノバはあっさり信じたようだった。
「え。起きる?何かするんですか?」
「当然だ。家の裏に薪がある。斧でそれを割っておけ。もう二日も寝ていたんだからいいだろ」
病み上がりだというのに、ずいぶん乱暴な話だ。まあ魔族とはそういうものなのかもしれない。きっと肉体的にも精神的にも人間より強いんだろう。
「わ、わかった。任せておけ!」
魔物らしくいかめしく答える。そういえば今更ながら容姿が違うのに、言葉がちゃんと通じているのが不思議だ。
「では、ゆけ」
オレは周囲を見回す。
「どうした?」
「斧はどこにあるんですか」
「家の裏にあるに決まってるだろ!部屋の中にはない!」
そんな常識知るかと思ったが、機嫌を損ねると殺されそうなので、ここは下手に出る。
「あ、すみません。そうっすよね!家の中にあるわけゃない!斧ですからね」
「ええい、どんくさい奴め!早く行け!喰っちまうぞ!」
「は、はいっ」




