表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/74

第二章 龍神の剣の世界へ(十四)

龍神の剣の世界へ来てしまった進。金助に眠らされ、起きてみると装備していた剣や鎧がなくなっており、体に異変が起きていることに気づく。自分の姿を確認すべく草原を進み、湖へ向かう。途中、鬼の二人組に見つかってしまうが、親切にされ、一向に加わる



 何だ、あれは?

 遠くだし、暗くてどんな格好かはまだよく見えないが、兜をかぶって、鎧を着ているようだった。

 小さい鬼が怯えたように言った。

 「龍神族の旅人だ」

 鎧の男は高速でこちらにぐんぐん近づいて来る。とても逃げ切れそうもない気がした。

 それは妙な光景だった。

 男は速足で動くのだが、走ってはおらず、普通の歩き方なのである。それでこんなに早く動けることが異様だった。

 男の動きは不自然で、左右に小刻みに行ったり来たりしながら、こちらへ向かって来る。

 大きい方が叫ぶと、棒の先の荷物をほどき始めた。くくりつけた荷物を下ろして、棒を武器にするのだろう。

 「戦闘準備だ!」

 「がってんだ。おめえはそこにいろ」

 オレにそう言って小さい方も荷物を慌ててほどき始める。

 龍神族だって?じゃあ、オレの仲間なのか?けど、あの異様な動きは何だか寒気がする。

 オレはどうしていいか分からず、鬼と旅人の両者を見比べていた。

 龍神族の旅人はどんどん近づいてきた。もう近くまで来ている。

 オレは近くで武器になる物を探したが。それらしい物もなかった。

大きい赤鬼が突然、えも言われぬ咆哮を上げた。小さい方が先に飛びかかっていく。

 鬼たちの先制攻撃だ。

 旅人は鬼の攻撃を兜と肩にもろにくらっていた。大きい方が兜、小さい方が肩に打撃を与えていた。

 あ、これはやっつけたかな――そう思った。

 だが、旅人は無言であった。オレの位置から旅人の顔が見えた。目の細い色白の男で、無精ひげを生やしていた。体格はやせていて、何だか向こうの世界にもいそうな風貌である。

 旅人は倒れもしない。

 そして、冷静に背中の剣をスラッと抜くと、まず小さい方へ振り上げてきた。小さい鬼の体から鮮血が上がり、倒れるのが見えた。

 「あ、兄貴!た、助け…」

 「ウォー!」

 大きい鬼が興奮して、棒を横に振るが、旅人はそれを剣で受けて払いのけた。体の大きさの割にすごい力だ。

 そして旅人は返す刀で横に振る。

 鬼の体を斬ったようだった。

 これは達人だ。とてもかないそうにない。

 ふらふらしながら赤鬼が叫ぶ

 「お前は逃げろー!」

 鬼は棒を振り上げて、さらに抵抗を試みている。

 オレに言った言葉だろう。

 どうしよう…今から逃げて間に合うのか…しかし、このままいても殺されるだけだろう。

 あの旅人に、オレは元々鬼ではないんだと言っても、分かってくれるような気がしない。

 オレはとっさに後ろへ走り出した。

 振り返ると、赤鬼が斬られて崩れるように倒れたところだった。

 オレは夢中で走った。

 追いかけてくるだろうか、やばい…。

 すると、体が急に寒くなっていき、体が重くなった。オレは草むらに倒れた。胸の辺りが痛い。触ると氷のように冷たくなっていた…これはもしかして…氷系の呪文だろう…あいつが唱えたのか…。

 この呪文は知っている…おそらく最初の頃に覚える呪文だ。

 あいつはおそらく勇者だ…人間だ…オレも元勇者なのに、勇者から逃げるなんておかしな話だよ。そんな考えが頭をよぎった。

 オレは立ち上がり、胸をおさえてまた走る。

 草が邪魔で思うように前に進めない…どこかで身を隠さないとまずいかもしれない…。

 右へ逃げるか、左で逃げるか。

 振り返ると、旅人はしゃがんで何かしているようだった。

 どうしたんだ?

 オレの方などは見向きもしない。

 まあいい、今がチャンスだ。今のうちにできるだけ遠くへ行くんだ…。

 オレはさっき行こうとしていた湖の方角へ走る。

 とにかく急がねば…。

 あそこは龍神とのバトルをするイベントが起きる場所だ。勇者はあの龍神との戦いにかかりきりになるだろう。オレの相手などしてる暇はないはず。

 オレは草原を駆け抜けて、丘を登り、湖へ急いだ。

 丘を上がる段になり、迷った。上がれば目立つし、進む速度も遅くなる。相手にオレの姿をさらすことになるからだ。怖い…上がらないで、このまま横に走った方がよくないか?

 このとき、ふと思った。

 あいつはオレが見えているのだろうか…。

 何だか妙だった…顔色一つ変えず、曇らせず戦う勇者。血を見ても動揺しない――違和感がある。

もしかして、見えていないのではないか。

 なら、丘は上がるべきだ。オレの姿は関係ない。

 オレは丘を進んだ。途中振り返ったが、勇者はもうどこにいるか分からなかった。

だが、奴はまたどこかへ進むはずだ――油断はできない。

 息をつきながら上がりきると、湖が見えた。

 あとはあそこまで走るだけだ。

 ボテボテと足が重く、走る速度が遅い…足が上がらない。だいぶ疲れていた。

 体が寒く、胸も痛い…呼吸も苦しくなっていた。

 走っているつもりでも、実際は歩く速度とそんなに変わりないだろう。

 とにかく前へ、前へ…可能性がある限り走るんだ。

 大きく手を振って歩幅を大きくしてみるが、苦しくて長くは続かない…。

 「く、くそ…」

 何だか体が冷え切っていて、速く動かせない。頭も重い。さっきの呪文が思いの外、効いているようだ。

 オレは草の中に倒れ込んだ。

 やばい…こんなことしているうちに勇者が来たら…。

 だが起き上がれない…。

 呼吸がしづらい…。心臓の動きがだんだん小さくなっている気がする。

 オレは目を閉じた。

 今度こそ死ぬのかもしれない…。

 宗兄を捜索するつもりが、ここで死ぬなんて…家族は心配するだろう。オレがどうなったか、向こうは知る術もあるまい。

 ああ…嫌だ…。 

 宗兄もこんなふうにして死んだのだろうか。何しろ、この世界で生きていくのはきついもの…。

 ああ、目の前がぼんやりする…。

 オレは目を閉じた。

 暗闇の中、浮かんできたのはなぜかさっちんの心配そうな顔だった。

 その後、呼吸を続けていたが、さっちんの顔も消え、オレは意識を失ったようだった…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ