第二章 龍神の剣の世界へ(十一)
盗まれた金を返してくれるよう金助と交渉をする進。すると、金助はある条件を持ち出してきた
「どうする?」
「うーん…」
だが、こいつの家はもう分かった。ここに来れば取り立てられる。そんなリスクを冒してまで、オレの荷物や金をこいつは盗むだろうか……よし、決まりだ。
「いいぞ、仲間だ。だが、オレの物をとるなよ」
「大丈夫だ。じゃあ夜巣に帰ったら早速祝杯をあげるとしようぜ。それまでは我慢だな」
「ヨルス?」
「ああ」
「そこは…お前の家か」
「何を言っているんだ。仕事が終わった後の夜の世界のことじゃないか」
「え?」
「え…」
「何それ」
「……お前、何も知らないんだな。最近生まれたのか?」
「生まれた?」
何を言っているのか分からない。
すると、金助は渋い顔でオレの瞳をじっと見た。
「前に会った時と雰囲気が違う気がするんだが…」
「え」
「もっと何かこう突っ走る感じの性格だったと思ったが」
「俺と話した?」
「話しただろ。鎧を出すから仲間になれとか言って来ただろ。忘れたのか」
オレはごまかすことにした。
「そ、そうなんだけどさ…もうよくは覚えてないな…」
金助はじっとオレを見た。無表情な顔だった。
そして、ゆっくりと言った。まるで何かを試すように。
「今日はここに泊まって行け。朝になったら出発しよう」
「ああ、そうだな。わかった。ところで、オレには仲間がいるんだが、それがもうすぐで戻って来るはずだ。泊めてもいいか」
「何人だ」
「一人と一羽だ」
「ふうん…いいけど」
「そうか。ありがたい」
「じゃあ、待つか。お茶でもどうだ」
「ああ、ありがとう」
いったいどんなお茶が出てくるのか気になったが、あえて聞かないことにした。
これ以上無知をさらすと、信用を失いかねない気がしたからだ。
「ちょっと外を見てくる。仲間が帰っているかもしれないからな」
オレは引き戸の方へ戻る。
「仲間はどんな奴なんだ」
「ええと…山んばとオオタカだ」
オレは引き戸を開けて、外に出た。
森の入口の方へ歩いて行き、最初に倒れていた辺りを見る。山んば達はまだ戻ってきてはいなかった。さっきよりも日差しは和らいでいるようで、空には雲が出て来ていた。そんな光景を眺めて三、四十分ほどしてから金助の店に戻った。
すると、なぜか店の中の広くなっているように感じた。さっきより道具が少なくなっているのだ。
金助は何か作業をしていたが、その手を止めて、
「戻っていたか」
と訊いてきた。
「いや、まだ帰ってない」
「そうか。まあそこに座れ」
カウンターの向かい側には木の椅子が用意されていた。
「あ、ありがと」
俺が座ると、金助は近くの袋の中から何かを取り出した。ガラスの透明な容器の中に黄緑の液体が入っている。
「何だ、それ」
俺が訊くと、
「飲み薬さ。この前、手に入れたものだ」
「妙な色だな」
「まったくだ」
そう言って、薬をテーブルに置くと、金助はにゅっと片手から白い容器を出して、オレの顔へ向けた。
え…
シュッ!シュッ!
透明な飛沫がオレの顔にかかる
「ぐわっ?」
オレは慌てて顔を覆う。アルコールのような匂いがする。
頭がくらっとした。瞼が強制的に落ちる。
これはまずい…!
「お前…何を…」
オレは後の言葉が続かず、そのまま床に倒れた。
金助が立ち上がる気配がした。
それからオレは意識を完全に失った。




