第二章 龍神の剣の世界へ(十)
森の木の幹の中に家があり、そこで店を営んでいたのはあの金助だった。進は金を取り戻すための交渉をするが…
「やれやれ…親切で招き入れたことがとんだ仇になったな」
「ここで物を売りつけようとしただけだろう」
「まあな…」
そう言って男はニヤリと笑った。
「確か名前は金助だったな。さあ、金を出してもらおうか」
「確か800銭だったな」
「違うな。1000以上だ」
「そうだったか。1100かな」
「いや…1500だな」
「そんなに取っていない!」
こいつ……なかな粘りそうだ。
「取ったよ」
「取ってません~」
「取っただろ。ぬすっと猛々(たけだけ)しいな」
「1100なら返せるぞ」
「1500な」
「1200!」
「全額な」
「1200だ。それ以上はここにはない。使ってしまったんだ」
「はあっ?こんな森のどこで使うんだ。1500だ」
「1200!」
こいつ、ここを中国の露店街か、イスラム圏のバザールか何かと勘違いしてないか?
だいたい何で盗まれた金を盗んだ本人に値切られなきゃならんのだ。
喧嘩になったら勝てるか不安だったが、ここは強気で行くことにした。この世界ではオレは旅人の勇者に見えるはずだ。
すると、金助はにやりと笑って言った。
「いいのかな。そんなことを言って」
「何がだ」
「お前の顔を俺は知ってる。お前はこの辺りじゃ、お尋ね者だ。俺がこの鈴を少し鳴らしただけで、すぐに仲間がここに集まって来るぞ。魔物は耳がいいからな」
そう言って、カウンターの上に置かれた緑の小さな鈴をつまんでみせた。
本当か?…それはやばい…どうしたものか…。
こんな卑怯な目にあったことはない。オレは金助を睨みつけた。全く、なりは金太郎みたいだが、中身はとんでもない悪党だ。
「まあそんな怖い顔をするな。よく話し合おうじゃないか」
「ふざけるなよ」
「……お前はまた旅を続けるのだろう」
「そうだが」
「俺もだ」
「……」
「そこでどうだ。俺はお前に1200を払う。残りの300は一緒に旅をしてお前を助けることで返却することで」
「どうして一緒に旅をしたいんだ」
「目的がある。幻の七色龍のあご髭を手に入れて、売りたいんだ」
「髭?そんな物が売れるのか」
「めったに手に入らない物で、商売人の間で高値で取引される物だぞ」
「ふうん。龍か。手に入れるの大変そうだな」
「当たり前だろ、だから高価なんだよ」
「その龍はどこにいるんだ」
「さあな。北の方で見たという目撃者がいるが、龍だからな。お前は何で冒険をしているんだ」
「オレ?」
「お前の他に誰がいるんだ」
こいつに言うべきだろうか…何だか信用できない。
「オレは…蛇神一族から…竜神一族を、その…ええと…守るために戦っている。戦って蛇神の勢力を…その、そいでいるんだ」
「ふうん。俺を連れて行け。役に立てそうだ」
「お前をパーティに加えるのか?蛇神一族の手先だろう」
あ、パーティなんて言葉を使ってしまった。こんな言葉、横文字だし、わからないか。
「あんなもの、おめえ…大したもんじゃねえよ。魔族が普段、忠実な手先として暴れてるとでもいうのか。旅人は蛇神だろうが龍神だろうが、俺は片っ端から襲うだけだよ」
金助はあきれたように言った。
「そうなんだ」
「そうだ」
「分かるんだ。意外だな」
「…何がだ」
「いや…パーティという言葉知ってるんだな」
「は?それがどうかしたのか」
「いやあ…」
何ともおかしな世界だ。まあいい…。
それより、こいつをメンバーに加えて旅をするだと…?そんなことしたらどうなる?
途中で襲われたりしないか?また金を盗んでトンズラするかもしれない。俺が安心して旅ができない…だが、物は考えようだ。ここは穏便に済ませ、金を1200銭だけ返却してもらい、あとは戦闘の補助やこの世界のことを教えてもらうことでチャラにすれば、得かもしれない。だが、オレには山んばとオオタカもいる。あいつらが守ってくれるだろう。いや、この金助はあいつらとうまくやれるだろうか。




