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第二章 龍神の剣の世界へ(九)

気づくと、龍神の剣の世界へ入り込んでしまっていた進。山んばとオオタカと会ったのも束の間、山んば達は山へキノコを採りに行ってしまう。時間を持て余した進は近くに森があるのを見つける



 草を踏みながら、なるべく足音を立てないように奥へ向かう。魔物がいない、日差しが届かない、涼しいところがいい。あそこの丸っこい葉をつけている大きな木の下がよさそうだ。あの太い幹にもたれたら気持ちよさそうである。また幹が太いので、反対側からは陰になって見えないだろう。根本の周辺は雑草がいくらか生えているが、こげ茶の土も見え、ひんやりしてそうで寝そべるにはちょうどよさそうだ。

 オレはあたりを警戒しながらゆっくり歩いた。辺りに魔物はいないようだった。

 オレは木の下に来てあぐらをかき、背中を幹にもたれた。それから気になっていた剣を抜いてみる。重たい。刃の部分はところどころ刃こぼれがあって、斬れ味はそんなによくなさそうだ。剣の柄の部分に渦巻きの模様が彫ってある。それは縄文土器にありそうだった。

 こんなもので戦っていたのか……。

 まざまざと見ると何だか生々しい。魔物といえども生き物である。それを殺してるわけだ。

 自分にできるだろうか…何だか自信がない。ゲームをやるのとはわけが違うのだ。

 そういえば…山んばはオレのことをよく知っていたみたいだが、話したことでもあるのだろうか。こちらの世界のオレはどんな奴なのだろう…そしてどこへ行ってしまったのか…。

 オレがこの世界に来て、今の肉体にいるということは、その前のこの肉体にいたオレはどこへ行ったんだ…?

 オレは剣の刃を日の光にかざす。刃がキラッと光る。

 そういえば今のオレの顔はどうなっているんだろう。

 剣の刃を動かして自分の顔を映してみる。映った…そこにあったのは多少色は黒いが、間違いなく自分の顔だった。夏休み明けの顔といった感じだ。

 山んばはオレのことを「あんた」と呼んでいた。けっこう仲がいいんだろう。同じパーティの仲間だから。帰ってきたら、その辺のことを聞いてみよう。オレがそう考えていると、突然近くで声がした。

 「おう。いい剣を持ってるな」

 びっくりして辺りを見回す。誰もいない。幹の後ろも振り返ったが何もいない。

 いったい何だ…。

 「おい。そんなところ探したってオレはいねえぞ」

 またオレは心臓が飛び上がるくらいびっくりした。

 ケケケケという声がした。近い。

 「ここだ、ここだ。お前の後ろさ」

 木の幹をよく見ると、オレの腹の高さくらいの所に何やら穴が開いている。声はそこから出ているようだった。

 オレは慌てて一メートルから後ろに飛びのいた。

 穴の中から再び笑い声が聞こえた。

 オレはまじまじと見ながら

 「人間?」

 と言葉を発する。

 「人間ではない、そうではない」

 「では魔物?」

 すると、声の主はそれには答えず、代わりにケケケと笑った。

 「こんなところで何をしているんだ?」

 「知りたければ、表へ回れ」

 何を言ってるんだ。表?どこの表だ…回れ、だと?回って何が起きるというんだ…

 オレは躊躇したが、その場で右足を軸にしてくるりと回ってみた。別に何も起きない。

 「何をしてるんだ」

 「いや、あんたが回れと言ったんだろ」

 すると、あきれたように声が応じる。

 「やれやれ。人間の勘の悪さときたら…そうではなく、この木を回ってみるのだ」

 何でそんなことを言うのかオレは意味がよく分からず、首を傾げ、それから木の幹に沿って回ってみた。

 森の奥の薄暗がりが見える。そして幹の裏側には木造の戸があった。

 「あ。家だった?」

 すると声がした。

 「中に入るといい」

 「ノ、ノブがね、ねえ!」

 「当たり前だ。引き戸だ。驚くところか!」

 冷静なツッコミが入ったので、何となく俺も冷静になった。

 そういえばここは和風ファンタジーの世界だった。玄関扉にノブがないのは普通だ。

 オレは扉の戸に指をかけると、それを横に引いた。

 木の戸はガタっと音がして、少し傾くと、そのあとは滑らかにスライドした。

 すると、笠やらみのやら干し草やら陶器やら絵の入った額やら様々な道具が壁やら天井やらに所狭しと掛かっていて、木造のカウンターのような場所に、太った若い男が肘をついてこちらを見ていた。おかっぱ頭で何だか子供っぽい感じがする。手は肩からむき出しで、太い。座っているのでよくわからなかったがランニングシャツのような赤い服を着ているようだった。

 「いらっしゃい~」

 「あ。お邪魔します…」

 「戸は閉めてくれよ。用心のためにな」

 オレは再び戸に触れて、横に閉める。

 「ここは、あんたの家?」

 「ああ。道具屋でもある」

 「それはすげえ。こんなところにお客来るんだ」

 「魔族と蛇神族の人間を相手に売ってるんだよ。森の恵みを加工して作っている品をな」

 「ふうん…ん?」

 何だか見覚えのあるような、ないような物がへのへのもへじの顔が描かれた人形に着せられていた。それは灰色をした鉄の鎧だった。

 「あれ…?」

 「うん?」

 オレは男の顔を見つめる。童顔でおかっぱ頭…体の赤い服はランニングシャツではなく、腹掛けだろう。あいつだ…。

 あの時のぬすっと野郎であろう…。

 「ここにある道具はみんなあんたが作ったのか」

 「まあいろいろだ…ふふふ」

 もう間違いないだろう。おそらく竜神一族の旅人から道具をかっぱらっているのだと思われる。

 「いろいろね…旅人を襲ってるのか」

 「え…ば、馬鹿言うなよ!オレが作った物がほとんどじゃ!」

 この動揺ぶり。いよいよ間違いない。

 オレは思い切って言ってみることにした。

 「そうか?その鎧なんて人間が着てた物をかっぱらったんじゃないのか」

 「ちちち違いますよ」

 「は?父がいますよ、だと?あんたの親父がどこにいるんだ?」

 「いや、そうじゃなくて、違うって言ってるの!」

 動揺してもツッコミは早いままなのが意外だった。

 オレははったりをかますことにした。

 「実はオレはな、透視ができるんだ……見えるぞ、見えるぞ」

 「何がだ?」

 「剣を持って旅をしている男と山んばの一行から奪った物だな。その他にもお前は銭をたくさん盗んだはずだ!」

 「な、なぜそれを」

 「透視したからだ」

 「んん?あっ!お前はあの時の奴か!」

 思い出したようだ。

 こうなりゃ仕方がない。

 「だとしたらどうする?」

 「やややっ?」

 「お前、オレから金を1000以上盗んだよな」

 「あ、あれは…その…」

 「返してもらおうか」

 「いや、ここにはない」

 「嘘をつくな!返せ!」

 「ないんだ」

 「鎧はお前にやる。もう俺には新しい鎧があるからな。だが金は返してもらうぞ」

すると男は黙ってしまった。


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