第二章 龍神の剣の世界へ(七)
RPG「龍神の剣」をやって宗明の消息をさがす進。そして山場である龍のうろこを取るイベントを始める
試練の谷へ着くまでに何匹もの手強い魔物に会った。この辺は急にレベルが高くなっているようだった。
試練の谷には山で囲まれた大きな湖であり、周囲には木々が生い茂っていた。画面の端っこに山小屋みたいなのが見える。まずはここへ行った方がいいのだろうか…。だが、面倒だし、早くゲームを進ませたい。その思いが、この山小屋に行くのを後回しにさせた。ちなみに、後で後悔することになろうとはこのときはまだわからなかった…。
オレは長老から渡された龍神を呼び出すお札をアイテム欄から選んで、それを「使う」。
ムービー画面に切り替わり、湖の中央が盛り上がり、水面にブクブクと泡が上がってきて、水しぶきが沸き起こって緑色の龍が現れるイベントが発生した。
何か目が黒水晶のように光っていて凄味がある龍だ。敵でいてもおかしくないと思う。
【龍神「我は龍神。この谷にて人と自然を統べる者ぞ。若き眷属よ。長旅ご苦労。して何の用じゃ」
すすむ「蛇神族の野望を食い止めるため、龍神の剣を作りたいのです。龍神様のうろこをください」
龍神「蛇神族か。翼を失い、地を這う生き物と化した哀れな神を祭る一族か…ふむ。よかろう、だが、剣を作ったところでお前に力がなければあの白大蛇と翼蛇神とは戦えぬ。特に蛇神一族のヌシである大神官が操る翼蛇神は強い。お前にはその力があるかな?」
➡はい
いいえ】
すすむはどちらかの返事を選ばなければならない。ちょっとこれはやばい雰囲気だ。オレはみんなの体力を確認する。すすむの体力は十分だ。ほかの二人もパラメーター値に異常はない。ちなみにオレはレベル二十五。昨日仲間にしたオオタカはレベル十七。山んばも今ではレベル十九になっていた。
オレは「はい」を選択した。
【龍神「では、その力試させてもらう」】
オレは思わずつぶやいた――「うわー、案の定」
戦闘画面に切り替わった。ボスキャラの戦闘音楽が流れ、戦いが始まる。
【すすむの攻撃!龍神に5ポイントのダメージ!】
あ。硬い……龍は硬いうろこでおおわれているからだろう。攻撃があまり効かない。防御力が半端なかった。
その後、二十五ターン目くらいで龍神が「お前の力はわかった。よかろう。うろこを授けようぞ」と言って、ようやく戦闘が終わった。
オオタカはすでにやられていた。オレの体力も百三十ポイントあったのが二十一まで減っていて、山んばは体力が十二ポイントだけになっていた。まったく。ここまでやっといて、試すも何もあったもんじゃないなと内心思った。まあ、ゲームなのであとからいくらでも体力回復は可能だが。
そのときだった…パラメーターやステータスの状態をチェックしていたらコマンド欄に「戦闘をオートにする」と書かれた項目を見つけた。
――あ、そういえばこんなのあったな――
戦闘で、自分で操作せずに、コンピューターに任せて行う戦闘方法のことである。使っていた時期もあったが、戦い方が荒くなるし、自分でやるのが好きなので、すっかり忘れていた。たしかにザコキャラとの戦闘は面倒なのでオートで十分だ。龍神戦も終わったところなので、当分大物との戦闘はないだろう。戦闘をオートモードにすることにした。気に入らなければまた戻せばいいだけの話だ。
【龍神「では我の古くなったうろこを授ける。我の体にある「色が薄くなったうろこ」を切り取って持っていくがよい、だが……もし間違って他のうろこを取ったらお前を喰うからな!」】
ここで龍の体を上って、一つだけ色が違ううろこをさがしてナイフで取るミニゲームのイベントが発生した。間違ったらこいつに喰われて即ゲームオーバーになるかもしれない。さっきの戦闘のあとセーブはしていないので、ここは慎重にやらなくてはいけない。
龍の体を上っていくと、いろんな色のうろこがあった。濃い緑がほとんどだが、中には黄色っぽい色、茶色いうろこもある……。
この龍神の体は基本、緑だ。つまり龍神の言った「色が薄くなったうろこ」というのは黄緑だろう。茶色とかに惑わされてはいけないのだ。茶色を切ったら「それは色の薄いうろこではない!」とか龍神が騒ぎ出して喰われるに違いない。まったく「不親切な」龍だよ。間違ったら喰うとか言ってるし、こいつ、ほんとに神か?さっちんだってここまでやらねーぞ。蛇神といい、龍神といい、どうかしてるよ
オレは上っていき、やっと龍の顔の右横辺りに出た。画面は今、顕微鏡で拡大したようになっているので、今キャラがどこにいるのか位置が把握しづらい。この辺にある「色の薄いうろこ」だ――黄緑だ。あった!――いや、待て!!何か黄緑が複数あるぞ……そうか、この中で一番色の薄い奴をさがすんだな――それを切り取らないと「それは違う」とか龍が騒ぎ出すんだろう。一発勝負のイベントだ。それにしても、この龍は言葉が通じないわけでもないのに、なぜ何も言わんのだ。「その辺にないか?その右だ」とかナビしろや。こっちの「注意深さ」とか「慎重さ」でも試しているのかな。面倒くさい奴だ。
オレは顔の右下にあった色の一番薄い黄緑をさがして、それを切り取った。切り取ると龍は「下に降りて、それを見せてくれ」と言い出した。答え合わせは下で行うらしい。
オレはそのまま下りるのもつまらないので、少し遊んでいくことにした。龍の顔を上ることにした。
――あ。上れるぞ――
顎のあたりの髭をつかんで上を目指すことにした。顎の下に無数に生えている髭みたいなところをつかんで上がっていく。何だか面白い
鼻づら辺りまで行って、パノラマ視点で下を見る。これは別段そんなに面白くない。ポリゴンの龍の長い体の絵が見えるだけだ。
龍も無言なので、オレは下りることにした。
地上へ戻ると、龍神が「どれどれ」と顔を近づけてくるイベントが発生。龍が「うむ。それだ」と言った。正解らしい。
あとはこの他に二つのアイテムをそろえ、龍神の剣を作ってもらうだけだ。
オレはメモ帳にここまでのことを記録する。
【ついに龍神のうろこをゲット!龍の鼻先までのぼってみた】
メモをすると、再びコントローラーを手に取る。
そのときだった――オレは頭をガーンと殴られたかのような衝撃が走った。そして目まいを覚える。
目まいと同時に体が軽くなり、羽になって風に吹かれていくような不思議な感覚になった。初めての感覚だ。
――あれ。どうしたんだ――
何だか妙に眠い。急激な眠気がオレを襲っていた。やばいのはわかるが抗いがたい眠気だった。
あ、ついに来たか、と思った。やはりそうだ、宗兄ちゃんもきっと、これにかかったんだ。
だが、まだあっちへ行くわけにはいかない。桑田にこうもりの写真を撮ってまだ見せていない。さっちんや薫にも報告をしたい。それにこの体験のメモをまだ書いていない。急にオレがいなくなれば家族が心配する。今行くわけにはいかないんだ。
気づくとオレの周りの風景がぐるぐる回りだし、オレはその渦の中に巻き込まれている。そして意識が遠のく感覚を覚え、あたりが暗くなった。
ゲームの世界がオレを呼んでいるんだな、今度は感覚的にそう思った。オレの手からコントローラーが落ちる。それから後ろにばったり倒れたんだと思う。もう感覚があまりない。
それからオレは吸い込まれるように深い闇の底へ、底へと落ちていった……。




