第二章 龍神の剣の世界へ(五)
ゲーム中、金助と遭遇して、金と鎧を取られた進。気を取り直して、ゲームを進める
翌朝四時に目が覚めてしまうと、ゲームのことを思い出し、何だか眠れなくなった。仕方なくオレはテレビをつけて「龍神の剣」の続きをやった。やらずにはいられない、そんな強い力がこのゲームにはあるようだった。
アッジのいる洞窟探索の続きだ。敵を倒しながらどんどん奥へ進んでいく…。
マップで見ると、この階の真ん中に不自然なほど大きな部屋があるのが分かった。ここがアッジの部屋だろう。
地下四階はゲームの最終階にありがちな単純な造りでまっすぐ進めばその大部屋にたどりつくようになっていた。何匹かの魔物と遭遇して倒したあと、部屋の前にたどり着いた。扉を開けると、中は真っ暗で、二つかがり火がたたかれていて、その中央に二頭身の老人キャラが立っていた。後ろには祭壇があり、蛇の彫刻がほどこされていた。この人物がアッジらしい。
オレは山んばの治癒系の呪文を使い、パーティの体力を回復させた。これで戦闘準備万端だ。
――さあどうなるか――オレはコントローラーのボタンを押してアッジに話しかけた。
【アッジ「汝がうわさに聞く龍神の戦士か。よくここまで来れたものぞ。ん?おお。お前は…!ま、待て。早まるな。その武器をおさめよ」
すすむ「悪逆なる神をまつるアッジ。覚悟しろ」
アッジ「ま、待て…ええい、仕方ない!!」】
何か妙に気になるやり取りが続いた後、戦闘シーンになった。
【アッジがあらわれた!】
戦闘シーンになるとアッジは白いひげの険しい顔をした老人だった。紺色の着物に杖を持っている。額に貼り付けたような宝石のついた飾りをしていた。戦闘の音楽もいつものザコキャラの曲ではなく、聞いたことのないものに変わっている。
まずオレが物理攻撃。山んばには防御系の呪文を唱えさせた。
次にアッジの呪文攻撃をくらった。すすむは十五ダメージ、山んばは二十三ダメージ、オオタカは二十六ダメージをくらった。
次。すすむの攻撃。アッジに二十七ダメージ与えた。
何とかなりそうだ。ここまで地道にレベルを上げてきたかいがあった。
戦闘がしばらく続いた。
【アッジ「おお。我らが大神、黒き大蛇よ。この者らに裁きを与えよ!」
黒大蛇があらわれた!】
黒い体に白い筋の入った赤い目の大蛇がとぐろを巻いている絵が現れる。うろこがぼこぼこと体から少し膨れて盛り上がっていた。これは何となく強そうだ。
オレはアッジを先に倒すことにした。アッジは呪文を使う。もし回復系を唱えられたら面倒だからだ。
黒大蛇は一度の攻撃で二人にダメージを与えてきた。まず山んばがやられた。蘇生薬を使って生き返らす。また大蛇の攻撃で山んばがやられた。
その後、六回の攻撃でアッジを倒す。
そしてタイミングを見計らってまた山んばを復活させ、二人で攻撃する。今度はオレがやられた。山んばが薬で復活させる。オレたちは地道にレベルを上げてきたのだ。何とかなりそうだった。
二分後、オレたちは黒大蛇を倒した。
充実感とともに戦闘が終わり、フィールド画面へ切り替わる。
【アッジ「おお、何という子だ。何ということをしてくれたのだ。蛇神を倒してしまうとは。わが村の子よ」
すすむ「何を言う?」
アッジ「うう…ガジャ。お前は元蛇神一族ぞ」
すすむ「おれが蛇神一族?」
アッジ「ううう…お、お前は十六年前、今は亡き東の村より龍神の一族にさらわれた子供の一人だ」
すすむ「嘘だ!」
アッジ「本当だ。そのとき、わしはその村の長老じゃった。わしがお前たちを育てたのだ。お前は龍神一族にだまされて育てられたのだろうな。かわいそうな子よ」
すすむ「嘘だ!嘘だ!」
アッジ「本当じゃ。お前の頬に傷があるじゃろ。それは昔、剣がかすめたものじゃ。さらわれるときに龍神の兵士にやられたのじゃ」
すすむ「信じられん…」
アッジ「よいか、だまされるな。本当に悪いのは龍神の一族。わしらは仲間ぞ。うぐっ…」
すすむ「アッジ!」】
「え…」
オレは目が点になっていた。
――なんとまあ。意外な展開である。これからどうすればいいんだろう――
「すすむ」はすごい運命だ。見ているオレの方も途方に暮れてしまう。
【アッジ「ああ。ついにわしの名を呼んでくれたか…ガジャよ」
すすむ「オレはすすむだ!」
アッジ「違う。昔の名前はガジャだ。うう…ガジャよ。龍神一族の暴走を止めてくれ。奴らはこの村を、そして蛇神一族を滅ぼそうとしているのだ…うう…」
すすむ「アッジ!」
アッジ「ガジャ…うぐっ」】
ここで短い悲しい音楽が流れた。アッジが死んだのだろう。
――やれやれ。すすむはこれからどうしたらいいのだろう――
それからオレはアッジの部屋を出て、白い旗の形をしたセーブポイントに戻り、セーブした。
――面白いゲームだ。これははまる…。絶対クリアしてやるぞ!!――
オレはコントローラーを置くと、ここまでの進行をメモ帳に記録した。オレの中で先を進めたいワクワクする気持ちが高鳴っていた。
そして結局、朝ごはんの前までやってしまったのだった。




